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【イベントレポート】ABEMAの事例とともに学ぶ!セマンティックレイヤーで変わるデータエンジニアリングの世界
公開
2025-04-13
更新
2025-04-13
文章量
約3495字
データ基盤において、セマンティックレイヤーが注目を集めています。従来のデータマートやBIツールで定義が散逸しがちだった指標やディメンションを一元的に管理し、“ラスト1マイル”を解決するテクノロジーとして期待を集めるこの手法。 本イベントでは stable株式会社 の宮﨑さんが、セマンティックレイヤーの基礎とトレンドを分かりやすく解説。そして 株式会社AbemaTV(ABEMA)のデータチームが、実際に社内向けデータ分析環境にセマンティックレイヤーを導入した1年間の取り組みを振り返りながら、具体的な課題やノウハウを共有しました。
1. セマンティックレイヤー入門 by stable株式会社
登壇者
宮﨑 一輝 さん(stable株式会社 代表取締役・データエンジニア)
セマンティックレイヤーが必要とされる背景
既存の分析基盤の変遷
1.0(生データ直当て)
ユーザーはSQLを複雑に書く必要があり、人によって定義がバラバラ。
2.0(データモデリング)
ある程度の共通化は実現しつつ、最終的に利用側(BIツールなど)で定義が散らばる。
3.0(セマンティックレイヤーの活用)
「ディメンション」や「メジャー」をあらかじめ定義し、利用者は選ぶだけで正しい集計を得られる。
“ラスト1マイル問題”―データモデリングされたテーブルをどう使いやすくするか―を解決。
仕組みとメリット
定義
ディメンション(分析軸)・メジャー(定量値)・リレーション(テーブル結合)を事前に記述。
リクエスト
ユーザーはGUIや簡易操作で「商品×月ごとの売上」という形で項目を選ぶだけ。
内部処理
セマンティックレイヤーがSQLを自動生成し、データベースに問い合わせ→ユーザーへ返却。
得られる効果
ユーザーがSQLを書かずに済む。
データエンジニア側も、煩雑な“表×BIツール”ごとの定義管理が不要になる。
課題と今後
データエンジニアのリソース不足
定義を書く工数を最初に要する。
最終的には分析ユーザーがプルリクなどでディメンション・メジャーを追加していく運用が望ましい。
データモデリングの不在
セマンティックレイヤーだけでは、汚いデータをまとめてしまうリスクがある。
“先にデータモデリングを整備→最後にセマンティックレイヤー”というアプローチが本質的。
セマンティックレイヤーはあくまで“ラスト1マイル”の解決手段。まずはデータの品質やモデリングをきちんと見直すことが重要、と宮﨑さんは強調していました。
2. ABEMAのセマンティックレイヤーへの挑戦の1年を振り返る by 株式会社AbemaTV
登壇者
田中 聡太郎 さん(DHQ Data div. Data Enablingチームマネージャー)
小澤 和也 さん(DHQ Data Div. Data Enabling)
ABEMA(動画配信サービス)を運営するAbemaTV社では、セマンティックレイヤー導入に向けて約1年間にわたりさまざまな検討と準備を重ねてきました。彼らの取り組みは、単にツールを導入するだけでなく、データモデリングや社内調整など幅広いプロセスを伴うものです。
なぜセマンティックレイヤーが必要だったのか
ABEMAのデータ分析は、各部署(広告営業、マーケティング、技術など)が独自に実施しているため、指標や定義がサイロ化しやすい。
従来はデータマート+BIツール(Tableau)構成だが、似たような指標がバラバラに管理されるなどの課題が散見。
セマンティックレイヤーを導入し、指標定義を一元管理することでガバナンスと柔軟性を両立したいという要望が高まった。
この1年の取り組み
ツール選定・検証
社内利用中のTableauとの組み合わせを念頭に、いくつかのセマンティックレイヤーツールを比較検討。
結果として Looker を導入方針に。
しかし「Looker+Tableau連携」において、Lookerの集約テーブル機能を使いたい要件があったものの、公式コネクタでは期待通り動作しない事象が判明。
代替策として「Lookerが生成する集約テーブルをBigQuery側で直接参照し、それをTableauから読み込む」という方式を採用。
データモデリングの見直し
既存のデータマートは業務単位で最適化されており、全社横断で見ると混乱が生じやすい。
改めて 現行のレポート利用状況(Tableauダッシュボードの分析)や 業務ニーズ(各部署のデータサイエンティストへのヒアリング)を整理。
そこから「本来取りたい情報だが取得されていない」ケースや「生データの形が分析に合わない」ケースを洗い出し、上流のアプリ改修まで巻き込んだ解決を進めた。
レポートへの影響・社内調整
大規模な組織のため、既存レポート(Tableau)をすべて置き換えると大きな混乱が想定。
部署別にヒアリングしつつ、Lookerによるセマンティックレイヤー定義に段階的に移行。
集計の差異が出る可能性があるため、事前に差分や想定される影響を示し、許容範囲を確認。
レポート作成担当がLookMLを使って事前集計(集約テーブル)を定義する際のトレーニングをサポート。
今後の展望
今期はレポートの置き換えを本格化。
Lookerの生成AI連携機能などを検証し、セマンティックレイヤーによる価値をさらに高める方針。
データモデリング、分析フローの再構築を通じ、ABEMAのKPI向上につなげたい。
全体を踏まえた感想
セマンティックレイヤーは「ディメンションやメジャーの定義を一元管理し、分析ユーザーが“SQLを書かずに”信頼できる指標を使える」仕組みです。しかし実際に動かすには、次のようなポイントが見えてきました。
ラスト1マイル問題の解決
データモデリングを終えても、最終的にユーザーがどのように利用するかは課題。
セマンティックレイヤーはSQL自動生成や一元化でこの空白を埋める手段となる。
ツール選定時の綿密な検証
どのデータウェアハウス・BIツールと連携するか、どの集計をサポートするかを事前に洗い出す必要がある。
「ABEMA × Looker × Tableau」のように想定通り動かないケースがあり、対応策(集約テーブルへの直接参照など)を模索。
データモデリング・上流データの再整備
単にセマンティックレイヤーをかませても、データが不整合であれば意味がない。
最適化していない収集データや乱雑なマートを見直し、メジャー・ディメンションが正しく定義できる状態にするのが先決。
レポート影響・社内調整の大切さ
企業規模が大きいほど、既存レポートや分析フローが浸透しており、抵抗や差分による混乱が起こりやすい。
事前に差分を洗い出し、各部署と緊密に連携しながら段階的に移行するのが成功のカギ。
結果的に、「セマンティックレイヤー = 全員が楽になる魔法のツール」ではありません。組織内のデータマネジメントや既存の分析文化・BIツールとの相性、さらにはデータモデリングや上流システムの整合など、さまざまな要素との組み合わせが必要です。 一方で、ABEMAのように着実な準備と調整を重ねることで、社内の定義ブレを解消しながら、ユーザーが“SQLレス”で分析可能な世界に近づくという展望も明確になりました。
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、セマンティックレイヤーの基礎と、ABEMAでの1年間にわたる“実践”の両面から学べました。
stable社の宮﨑さんは「まずデータモデリングを整え、ラスト1マイルを埋めるためにセマンティックレイヤーを活かすのが本道」と示し、併せてLLMを活用した自然言語による分析の未来像にも言及。
ABEMAの田中さん・小澤さんは、ツール検証でハマりどころがあったこと、既存レポートの差分をどう埋めるかが大きな組織での現実的な課題だと語りながら、粘り強く社内調整を進める事例を共有してくれました。
セマンティックレイヤーへの期待は高く、日々新しいツールや機能が登場していますが、データ整備・上流連携・組織内合意といった“地道な作業”も避けては通れません。逆に言えば、その下準備さえしっかり行えば、セマンティックレイヤーは「データの一貫性」と「分析の柔軟性」を両立し、企業全体のデータ活用を飛躍させる大きな可能性を秘めています。 これからセマンティックレイヤーを検討する方は、ぜひABEMAの事例を参考に、ツールの細かい検証と社内との緊密な連携を心がけてみてはいかがでしょうか。
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