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「エンジニアのキャリアランチ - スタッフエンジニア編 #2 by Forkwell」イベントレポート
公開
2025-04-13
更新
2025-04-13
文章量
約4078字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
はじめに
2024年12月9日に開催された「エンジニアのキャリアランチ - スタッフエンジニア編 #2」は、フォークウェル(Forkwell)の企画としてランチタイムにお届けするオンライン勉強会シリーズの一環です。今回は「スタッフエンジニア」という役割をテーマに据え、技術専門職として組織や事業に大きな影響を与えるエンジニアのキャリアに焦点を当てました。
日本ではまだまだ「スタッフエンジニア」という肩書きが制度として浸透している企業は少ない状況ですが、世界的な大手テック企業や一部の先進的な国内企業では少しずつ普及が進んでいます。そこで本イベントでは、実際にスタッフエンジニアに近い働き方をしているエンジニアに登壇いただき、そのキャリアストーリーや思考法、組織内での技術的リーダーシップなどを共有してもらう場となりました。
今回のゲストは、株式会社ユーザベースのニュースピックス事業でリーダーを務める武藤雅幸氏。SRE(Site Reliability Engineering)やアプリケーション開発を行いつつ、プレイングマネージャーとして組織の成果を最大化する仕事を手がけています。モデレーターはForkwellの赤川が担当し、「スタッフエンジニア」のキャリアの実態を掘り下げました。
開催概要と本イベントの狙い
ForkwellではITエンジニアのキャリア支援を10年以上にわたって行ってきましたが、エンジニアのキャリアパスは多様化が止まりません。特に「マネージャーにならずとも組織に大きなインパクトを与える技術職」は、多くのエンジニアにとって魅力的な道筋です。一方で、スタッフエンジニアという呼称や制度が確立している企業はまだ限られており、情報量が多くありません。
この「エンジニアのキャリアランチ」は、ランチタイムの1時間で特定の職種・ロールのキャリア観を深く知る企画としてスタートしました。今回のフォーカスは以下の通りです。
日本で広がりつつある「スタッフエンジニア」という概念の現状
マネジメントを担わずに技術で組織を支えるキャリアの実態
ユーザベースの武藤氏が担当する役割、日常の業務、チーム育成
キャリアの悩みや、マネジメント/スペシャリストの両立における心境
このようなテーマを軸に、武藤氏へのQ&Aを交えながら進行しました。
登壇者プロフィール
武藤 雅幸 氏(@masa_edw)
株式会社ユーザベース メディアプロダクトチーム チームリーダー
新卒でSIerに入り、約10年在籍した後に退職。半年ほどの無職期間を経て2018年にNewsPicksへ入社。
SREを経た後、アプリケーション開発チームのリーダーを担当。使いやすく、運用しやすいシステムを作るのが好き。
チームマネジメントだけでなく、実際にコードをレビューしたり、インフラを改善したりとプレイヤーとしても活躍するプレイングマネージャー。
モデレーターはForkwellの赤川が務め、武藤氏のキャリアや組織内での働き方に迫りました。
セッション概要
1. キャリアの変遷とユーザベース入社のきっかけ
武藤氏はもともと独立系SIerで約10年勤務し、C#やWindows環境中心の開発リーダーを担当。顧客企業の業務システム構築を通じて、テックだけでなく人材マネジメントや小規模チームのまとめ役を担うようになりました。しかし、新規サービス開発などに挑戦してもうまくいかず、半年ほど退職期間を置く中で「自分の開発力を世の中の役に立てたほうが幸福度が高いのでは」と考え始めるに至ったそうです。
そのタイミングでニュースピックス(ユーザベース社)のCTOを務めていた方との縁をきっかけに転職。入社当初はインフラ寄りのSREチームに配属されましたが、そこでも「組織規模が大きくなる前にインフラ整備を進めておかないと、将来大きな足枷になる」という危機感からデプロイ周りの仕組みを大きく改善。結果的にエンジニアの生産性向上に貢献し、その後はユーザ向けUIチームのリーダーへ異動し、アプリケーション開発面でも力を発揮するようになったといいます。
2. 「プレイングマネージャー」としての働き方
ユーザベース内のエンジニア組織は、それほど大規模というわけではないため、マネージャーといってもピュアマネジメント一辺倒ではなく、プレイヤーとして手を動かすスタイルが主流とのこと。武藤氏も現場でのコードレビューや機能実装をかなり深く担当しつつ、同時に3〜4つの小ユニットをまとめるなど、マネージメント面にもコミットしています。
マネジメントと技術専門職を分けるのではなく、事業や組織のニーズを見極めて必要な領域に柔軟に取り組む姿勢が、武藤氏いわく「ユーザベースらしさ」でもあるとのこと。自身も「マネージャーをやりながらも、日々新しいコードをコミットするのが当たり前」という文化が合っていると感じているそうです。
3. 自分で仕事を作る・課題を設定する
スタッフエンジニアに近い上位ポジションほど、降りてくるタスクをこなすだけではなく「問題を設定し、仕事を作る」役割が大きくなるといわれます。武藤氏も「実際に“これやってほしい”と頼まれること以上に、自分で優先度の高い課題を見つけて動く」ことが基本だと強調。
例えば、画像配信のコストやセキュリティ、運用負荷を抑えるための技術的改善を進めたり、無駄が多い作業を機械学習や検索技術で代替するといった取り組みを提案し、事業側と調整して実行に移すことが多いそうです。これらは必ずしも「マネージメントの承認待ちで降りてきたタスク」ではなく、自分自身が組織やサービスをより良くするために発案・設計するスタンスが鍵だといいます。
4. マネージメントとスペシャリストは二者択一ではない
イベントの冒頭でも触れられましたが、「プレイングマネージャー」として組織に貢献しつつ、同時に技術力でも成果を上げる道は十分にあり得ます。武藤氏の場合、「一つの組織が数十名規模でやっている以上、人材育成も手を動かす開発も、自分がやらなければ先に進まない」と考えた結果、自然にその役割に落ち着いているとのこと。
巷では「マネージャーかスペシャリストか」と二項対立で語られがちですが、実際には組織が大きくなるフェーズ、あるいは比較的コンパクトで、かつ高い成長を求めるフェーズなど、さまざまな状況で柔軟に両方のスキルが必要とされるケースが多いそうです。
Q&Aピックアップ
Q. 「目標設定が難しい」や「評価制度と噛み合わない」悩みはありますか?
武藤氏は「正直、目標設定は非常に難しい」と回答。上位レイヤーほど成果が出るまでに数年かかることも珍しくなく、かつ、どんな技術方針が吉と出るかは終わってみないとわからない場合も多いのが実情です。 ただし「だからといって一喜一憂せず、目の前の課題を解決し続けるしかない」と割り切るのも一つの手だといいます。事業側や経営側と合意した方向性であれば、とにかく動いて成果が出るのを待つ。それを継続していくうちに振り返ってみると、高く評価される結果につながっていることも多いのだそうです。
Q. 自分より優秀な仲間が周りに多いとき、劣等感や焦りを感じませんか?
「感じることはある」と率直に答えながらも、ベーシストの例え話を引用しつつ「他人の方がはるかにうまくても、その場にいる以上は自分の役割を全うするしかない」というスタンスだと語りました。自分に足りない部分は当然あるものの、それを補う仲間がいるからこそ組織は成立するし、逆に自分が強みを発揮できる場面も必ずあるはず。組織に貢献できることに集中する姿勢が大切なのではないか、とのことです。
Q. 開発力の底上げにはどう取り組んでいますか?
武藤氏は「若手ほど1人で悩む時間が長くなりがちなので、レビューやペア作業で付き添う“ケアワーク”が本当に大事」と強調。知識が足りずに長時間ハマってしまうより、先に正解を伝えてしまった方が学習も早いことが多いです。マネージャーがそうした“小さなつまづき”にすぐ気づいて声をかけてあげることで、成長が早まり開発組織全体の力が伸びる、と語りました。
最後に:「技術×組織」への責任感が生むキャリア
武藤氏のキャリアストーリーから見えてきたのは、「組織で必要とされる課題解決に向き合い続ける」という姿勢です。それは時にインフラ最適化であり、時にアプリUIの改善であり、また時には後進のエンジニア育成になるかもしれません。マネージャーかスペシャリストかを決め打ちするのではなく、エンジニアリングとマネジメントの両方を必要な分だけ担う。言い換えれば「組織が求める場所に柔軟に向き合う」ことが、結果としてスタッフエンジニア的な働き方に近づいていくのだと感じられました。
全体を踏まえた感想
武藤氏の話から強く印象を受けたのは、「立場や肩書きよりも組織の必要に合わせて自分を生かす」という点です。エンジニアとして非常に実装能力を発揮しつつ、マネージャーとしてのリーダーシップも果たす。さらに、インフラ面を担っていたかと思えば、アプリ側のUI改善にも飛び込んでいく。技術参謀のような動き方が自然に体現されているのだと思いました。
一方で、スタッフエンジニアは目標設定や評価が難しく、チームの成長に寄与する行動がすぐに数値化できないのは確かです。そんな中でも「自分がやるべき仕事を作り、目の前の課題に向き合う」「他のメンバーが悩むなら一緒に解決する」など、地道でありながらも組織全体を支える行動が、キャリアを豊かにしていくと感じました。
スタッフエンジニアというロールに必ずしも名前が付いていなくとも、技術面・マネジメント面を両立しているエンジニアは少なくありません。本イベントが、そうした「技術専門職として組織をリードする」キャリアを描きたい方々の助けになるならば幸いです。
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