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「Polarsとpandasで学ぶ データ処理アイデアレシピ55 FL #74」イベントレポート
公開
2025-04-13
更新
2025-04-13
文章量
約3744字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
はじめに
第1章: Polarsとは? その特徴と誕生の経緯
1-1. 「次世代データフレームライブラリ」としてのPolars
1-2. Rust実装による高速性
第2章: Pandasとの比較と移行のポイント
2-1. 「意外と導入が簡単」
2-2. ポーラスエクスプレッションによる高速化
2-3. Map/Elements(UDF)の使用は最小限に
第3章: 実際のコード例で見るポーラスの世界
3-1. データ読み込みと列操作
3-2. フィルタリングとグループバイ
3-3. 遅延評価(LazyFrame)
第4章: Q&Aダイジェスト
Q1. ポーラスが順序を気にしないと聞きました。業務で行順が非常に重要なケースでは使いにくい?
Q2. 大規模データでなければ学ぶ必要なし?
Q3. cudfやRapidsなど、GPUを活用するツールとの違いは?
全体を踏まえた感想 〜次世代データフレームの面白さ〜
「高速データ処理を身近に」—— ポーラスがもたらす未来
はじめに
Forkwell Library シリーズ第74弾として、2024年11月20日に開催された「Polarsとpandasで学ぶ データ処理アイデアレシピ55」のイベントは、近年注目度が急上昇しているPolarsをテーマに取り上げました。 発表いただいたのは、本書を共著した冨山吉孝(とみやま よしたか)さん。Kaggleなど機械学習コンペでの豊富な経験をもち、実際の大規模データ分析でPolarsの魅力を存分に活かしてこられた方です。 pandasの代わりとしての位置付けや、Polars特有の高速性の仕組み、さらに実際に試したくなるような実用的ノウハウなど、セッションの内容をたっぷり共有いただきました。
本レポートでは、イベント中で語られたPolarsのポイントを中心にまとめつつ、Q&Aで取り上げられた質問やポイントも整理してお届けします。
第1章: Polarsとは? その特徴と誕生の経緯
1-1. 「次世代データフレームライブラリ」としてのPolars
Python界隈でデータ分析と言えば「pandas」が長くデファクトな存在でしたが、大規模データの処理を高速かつ効率的にこなすニーズが高まる中、Polarsが新たなライブラリとして急速に注目を集めています。 PolarsはRustで書かれたバックエンドにより、ハードウェアレベルのチューニングを徹底して行い、並列処理をフル活用。大規模なCSVなどを読み込み、複雑な集計や結合などをパフォーマンスよく実行できる点が強みです。 その結果、「Kaggleのレコメンデーション系など巨大データを扱うコンペで、Polarsでなければ処理しきれない」という事例が続出し、2022年頃から爆発的に広まっていったという流れがあります。
1-2. Rust実装による高速性
Polarsの中核的な強みは、以下のようにまとめられます。
Rustによるコンパイル言語の恩恵: Pythonでのボトルネックを回避しやすい
マルチコア並列処理の徹底: 大量データでも高速に演算
遅延評価: 必要な操作をまとめて最適化し、一気に実行
NVIDIA Rapidsとの連携: GPUを活用する際にも相性が良い
これらが組み合わさることで、「pandasではとても時間がかかった」ような処理を、驚くほど短時間で終わらせられる事例が多数報告されています。
第2章: Pandasとの比較と移行のポイント
2-1. 「意外と導入が簡単」
まず、インストールが非常にシンプルです。pip install polars
だけで入るため、面倒な依存関係に悩まされることがほとんどありません。
また、pandas的な書き方である程度操作できる互換APIも用意されているため、pandasユーザーが最初の一歩を踏み出すにはそれほど敷居は高くありません。
2-2. ポーラスエクスプレッションによる高速化
とはいえ、本格的にPolarsの高速性を引き出すには、Polars独自の書き方をマスターするのが肝心です。具体的には「df.select()
や df.with_columns()
にエクスプレッションを渡す」という構文が重要。
pandasのように「四角括弧で列を指定」「スカラー演算で列を更新」といった書き方は一応可能ですが、内部的に最適化が働かず速度が落ちるケースがあります。遅延評価や並列処理といったPolarsならではの恩恵を得るためにも、フィルターやグループバイなどの操作は、エクスプレッションを組み合わせた書き方を心がけるのがベストです。
2-3. Map/Elements(UDF)の使用は最小限に
pandasのdf.apply()
のように、ユーザー定義関数(UDF)を1行ごとに適用する仕組みは「map_elements
」としてPolarsにも存在します。しかし、これは実態としてPythonコードが行ごとに呼ばれるため、せっかくのRust高速化を台無しにする可能性があるといいます。
Polarsでは多くの計算パターンがあらかじめ組み込まれており、複雑な演算も意外とエクスプレッションで書けるとのこと。UDFを乱用せずに「Polars流の書き方」を探すのがベターとされました。
第3章: 実際のコード例で見るポーラスの世界
3-1. データ読み込みと列操作
CSVの読み込み:
df = pl.read_csv("filename.csv")
pandasとほぼ同じ関数名・引数名で使える。df.head()
も同様。列の抽出:
df.select(pl.col("column_name"))
pandasのdf["column_name"]
に相当する操作だが、Polarsではselect()
にエクスプレッションを渡す書き方が推奨される。列の追加や更新:
df.with_columns((pl.col("colA") * 3 + 10).alias("new_col"))
with_columns
(以前はwith_column
)を使うと、新しい列として追加できる。別名をつける(alias
)ことで既存列を壊さずに追加、同じ名前なら上書き。
3-2. フィルタリングとグループバイ
フィルター:
df.filter(pl.col("total_rooms") >= 2000)
パンダスでdf[df["total_rooms"] >= 2000]
と書いていたところを、Polarsは「コンテクスト:filter()
+エクスプレッション:pl.col(...) >= ...
」という明快な構造にしている。グループバイ:
df.groupby("some_column").agg([...])
pandasのdf.groupby("some_column").agg({...})
とほぼ対応するが、Polarsのほうが遅延評価などの恩恵を得やすい。
3-3. 遅延評価(LazyFrame)
Polarsでは.lazy()
をつけると、演算が「LazyFrame」として最適化される。複数の操作をまとめて最適解を導くので、さらに速度が増す。
ただし、pandas的書き方や一部の関数が使えないケースもあるので注意が必要。規模の大きなデータや複雑なパイプラインを組む場合に強力なメリットが得られる。
第4章: Q&Aダイジェスト
Q1. ポーラスが順序を気にしないと聞きました。業務で行順が非常に重要なケースでは使いにくい?
Polarsは基本的に「並列処理を最大化するため順序保証をしない」場面があります。ただし最終的にソートをかけたり、インデックス代わりのカラムを管理したりすることで問題を回避できます。ソート自体も高速なので「要所でソート、他は並列化」という使い方で恩恵を受けられるとのことでした。
Q2. 大規模データでなければ学ぶ必要なし?
必須ではありませんが、「いずれデータが大きくなる可能性がある」「チームでの分析高速化を狙う」など、Polarsの先進的なアプローチを把握しておくメリットは大きいといえます。機械学習コンペでも中規模~大規模ならすぐに役立つでしょう。
Q3. cudfやRapidsなど、GPUを活用するツールとの違いは?
cudfはNVIDIAが開発する「pandasライクな」GPUアクセラレーションのデータフレームライブラリ。PolarsもNVIDIA Rapidsとの連携でGPU最適化を行えるようになっています。内部実装が若干異なるものの「GPUを利用する」という方向性は似ており、状況に応じて選択肢が分かれるようです。
全体を踏まえた感想 〜次世代データフレームの面白さ〜
pandasに慣れ親しんできたPythonエンジニアにとって、Polarsは「名前だけは聞いたことがあるけど、まだ触れてはいない」という段階の方が多いようです。実際に使ってみると、特に大規模データ処理で圧倒的な速度差を体感する事例が少なくありません。 また、Polarsはコミュニティの発展がまだ途上とのことで、公式ドキュメント以外の日本語情報は多くないという状況です。だからこそ、今回のイベントで紹介された「エクスプレッションを駆使する正しい書き方」や「map_elementsではなく組み込み演算を使うべき」といったポイントを押さえるのが、しっかり高速化を得るカギになると感じました。
「高速データ処理を身近に」—— ポーラスがもたらす未来
今後もデータサイズが増え続ける中、「Pythonだから遅いんだよね」と諦めるのではなく、Rustを駆使したPolarsのような次世代ライブラリを使うことで、Pythonエコシステムの中でも十分な速度を手にできる点は大きな魅力です。 データサイエンス、機械学習、さらには企業の大量CSVやログ分析など、多様な場面でPolarsが活躍する可能性があります。本書や今回のイベントをきっかけに、Polarsがさらに広まり、Python界隈のデータ処理が一段とパワフルになる日はそう遠くないでしょう。
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