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DeNA QA Night #6 レポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約4418字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
はじめに
2025年3月5日、「DeNA QA Night #6」が開催されました。DeNAの品質管理部が継続的に実施している勉強会で、今回はソフトウェアテストや品質に関する多角的なアプローチの事例共有や議論が行われました。 本レポートでは、当日登壇された3つのセッションとQ&Aの内容を中心に、イベントの様子をまとめています。QAエンジニアのみならず、開発プロセスや品質向上に関心を持つ幅広いエンジニアにとって有益な内容が多く語られた印象です。
全体構成
セッション1: リアルタイム品質モニタリングの導入 (登壇: DeNA 藤﨑 隆 氏)
セッション2: ガチャのパトロールの取り組み (登壇: DeNA 加藤 賢 氏 / 林 丈二 氏 / 無藤 大吾 氏)
セッション3: "ニコニコ" じゃない方の品質保証のはなし (登壇: ドワンゴ 奥田 拓磨 氏 / 小林 裕之 氏 / 篠原 義典 氏 / 齋藤 桃子 氏)
Q&A/Closing
この後は各セッションの概要と講演内容をダイジェストでご紹介します。
セッション1: リアルタイム品質モニタリングの導入
登壇者: DeNA 藤﨑 隆 氏
背景と課題
DeNAの品質管理部では、多種多様な社内プロダクトに携わる中で、いかに早期に不具合を発見して迅速に対処するかが重要とされています。 従来は経験豊富なシニアQAがプロジェクトを分析し、「今どのくらいリスクが高いか」を示していました。しかし、開発プロジェクト数が膨大になるにつれ、特定のQAメンバーへの依存度が高まり、リリース前に品質が十分担保できない事例も増えてきたそうです。
アプローチ: 品質指数のモニタリング
藤﨑氏は、「品質を数値化し、リアルタイムでチームやステークホルダーが把握できる仕組み」を導入。 具体的には“品質指数”という指標を算出し、プロジェクトのテスト進捗・不具合率などを自動集計してグラフ化しています。
品質指数とは?
テスト項目数に対して、どの程度不具合が出たか、そのバグの重大度をどう考慮するかなどを元に独自スコアを計算
スコアが0を下回ると「リスクが高いプロダクト」と判定。プラスであれば「比較的リスクが低め」
得られた効果
目線合わせが容易に 定性的な「 QAがヤバいと思う」ではなく、定量的スコアを提示することで「数字を見て会話する」形がとりやすくなる。
リリース判断の材料になる 品質指数が低下している時点で早期に対策を打つ。追加テストの予算やスケジュールを確保するなど、検討を前倒しできる。
リアルタイムな把握が可能 シニアQAが毎回レポートを作る負担を削減し、必要な時に最新の品質指数を誰でも閲覧できるように。
藤﨑氏は、今後より多角的な品質データ(非ゲーム領域も含む)をモニタリングしていきたいとし、品質指数のさらなる活用に意欲を示していました。
Q&Aでのポイント
品質指数はあくまでDeNAにおける不具合率などの社内データを元に算出しており、他社にそのまま当てはめるのではなく、各社の実情に合わせる必要がある。
社内事例では、品質指数が低いプロダクトほど本番障害の発生率が高いという傾向が明確に見られた。
セッション2: ガチャのパトロールの取り組み
登壇者: DeNA 加藤 賢 氏 / 林 丈二 氏 / 無藤 大吾 氏
有料ガチャへの取り組み
DeNAにはゲーム・非ゲームなど様々なドメインがあるが、その中でも「ガチャ」はユーザーからの信頼を守るために特に慎重な運用が必要。 同社では 「安心・安全・誠実なガチャ」を提供する という理念を掲げ、ガイドラインを定めている。具体的には以下の活動を挙げていた。
リリース前
事前にガイドラインや法的リスクをチェック
ガチャチェックリストで提供割合・設定ミス等を確認
個別提供割合の正確性(表示と実際の設定)の突合
リリース後
定期的な「パトロール」 を実施
表示とロジックに不備がないか再度検証
本番環境をユーザーと同じ条件でチェック
パトロール体制の強化
近年、ガチャをめぐる社会の目はさらに厳しくなっている。炎上リスクやレピュテーションリスクを考え、リリース後の監視と検証体制を強化しているとのこと。
これまで
有料ガチャは別部門が改めて割合表示の整合性を確認
しかし対象ガチャを「任意に選んで検証」していた
現在
インパクトが大きい・リスクが潜む可能性のあるガチャを優先的に選出
専門性の高いメンバー、プランナー経験者、新規タイトルのリーダーなど多様な視点で監視
ガチャ以外の有料表記やリリース管理面でも確認観点を拡充
AI活用事例
ガチャにおける問題事例の整理や検証観点の抜け漏れ防止のためにAIも活用。 過去のトラブル報告や事例レポートからAIにより要点を抽出し、それらをベースに共通観点を生成。 このアプローチにより、大量の過去情報からの項目書アップデートを効率化し、検証基準のブレを削減している。
Q&Aでのポイント
パトロールは実際にスマホや実機で本番ガチャを引いて確認。
過去事例では「ガチャ画面の目玉アイテムが、現実には引けない設定だった」など、ユーザー誤解を招く表示を防止してきた。
セッション3: "ニコニコ"じゃない方の品質保証のはなし
登壇者: ドワンゴ 奥田 拓磨 氏 / 小林 裕之 氏 / 篠原 義典 氏 / 齋藤 桃子 氏
ドワンゴの教育事業
ドワンゴといえばニコニコ動画が有名だが、教育分野にも力を入れている。 今回のセッションでは「N高・S高」などの通信制高校や、今後開学が控えている「全大学」に関連する学習支援・公務管理システム・試験システムなど多面的な教育サービスを展開している実態が語られた。
組織立ち上げと拡張
2016年に最初の学習プラットフォーム(全スタディ)をリリースした当初は、開発エンジニアがテストを兼任していた。
その後、生徒数・機能・サービスが爆発的に拡大し、開発エンジニアのみでは追いつかない課題が顕在化。
2021年に品質保証専門のグループを設立し、リリース前品質担保と横断的なプロセス整備を始めた。
さらに2022~2023年と少しずつ体制を増強し、新たなプロジェクト(全大学)にも対応できる組織へと進化している。
サービス連携の難しさ
教育サービスの背後には多数のマイクロサービスが連携しており、一箇所の機能回収が思わぬ別サービスに影響することが多々ある。
担当サービスにのみ関心を向けると、連携先の仕様変更を把握し損ねるリスク
仕様の伝言ゲームによる解釈ズレ
対策として「サービス連携ミーティング」を週2回実施し、各プロジェクトの仕様や変更点を横断的に情報共有。これにより、サービス間での抜け漏れを減らす効果が出ている。
品質保証プロセス
基本フェーズ: テスト計画 → テスト設計 → テスト実行 → 振り返り
組織体制: フラットなセクション構成で、各サービス担当が連携
今後: 新大学開学への対応やテスト自動化ツールを活用し、組織・プロセスをさらに改善していく計画
Q&Aでのポイント
大規模化に伴い「そもそも連携の全貌が分からなくなる」課題が発生。サービス連携の可視化を強化した。
今振り返って「最初からこうしておけば」という問いに対し、体制拡張時に専門的知見や開発視点をもっと早期に取り込む選択肢もあったかもしれない、とのコメントがあった。
Q&Aハイライト
品質指数と本番障害の関係(セッション1関連)
「品質指数が0以下でも障害が起きないケースはあるのか?」という質問に対し、「想定より早いスケジュールでリリースする事情があって障害を許容する場合もあるが、基本的には指数が0を下回ると本番障害のリスクが格段に上がる」との回答。 藤﨑氏は「数値を参考にしつつ、あくまで最終判断はプロジェクト状況と経営判断が絡む」と補足した。
ガチャパトロールでの実機検証手法(セッション2関連)
「パトロールでガチャを本番で引く際、どのように実行しているのか?」という質問が出た。 DeNA側は「実際にユーザーと同じ環境(実機・同じスマホアプリなど)でガチャを引いている。ユーザーと同じ視点で全機能を検証することが大切」と回答。
組織拡大で改めてゼロからQAを作るなら(セッション3関連)
「今の組織が大きくなる中で生じた課題を踏まえ、もしゼロから作るなら何をやり、何をやらないか?」という問いに対し、「サービスが増えた後で横断視点を確立するのは大変。最初から連携ミーティングや横断チェックを意識し、開発視点を持つメンバーも早期に加えたほうが良かったかもしれない」との回答があった。
全体を踏まえた感想
品質を「当たり前」に保証する仕組みづくり
DeNA QA Night #6では、各社・各事業での品質向上への取り組みが具体的に語られました。 共通して感じられたのは、「事前リリース検証だけでなく、リリース後にも継続的に品質をモニタリングし、かつ横断的に連携を強化する」という流れです。
DeNA藤﨑氏は数値化(品質指数)によるリアルタイム把握を強化し、スピーディな修正や予算確保を可能にする。
DeNAガチャチームはリリース後にも積極的に「パトロール」し、社会的にも注目度の高いガチャの透明性や正しさを担保。さらにAIを活用して検証項目を常にアップデートしている。
ドワンゴ教育事業は、新サービスやマイクロサービス連携が複雑化する中で組織拡大を図り、週2回の連携ミーティングや横断的プロセス改善により抜け漏れを防ぐ。
いずれの登壇者も、テスト設計やリグレッションテストだけでなく、ステークホルダーとの認識合わせ(数値の根拠、連携先の仕様把握など)を丁寧に行う姿勢が印象的でした。 「ソフトウェアの品質」は、新機能やリリースのスピードと並んでますます重視される時代に移っています。本イベントを通じて、リアルタイムモニタリングやポストリリースのパトロール、横断的な情報共有など、QAの役割がより包括的になっていることを再認識させられました。
最後に
参加者からは「QAのリアルタイム化」「ガチャ周りの法令・ガイドライン遵守の取り組み」「教育領域の品質保証」という多彩なテーマに大きな関心が寄せられました。 今後もDeNA QA Nightが継続して開催されれば、実際の運用ノウハウや組織改善の知見がさらに共有されることでしょう。エンジニアやQAにとって、引き続き見逃せないコミュニティイベントとなりそうです。
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