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個人開発の技術選定の極意 Lunch LT レポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約3794字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2025年1月21日、個人開発をテーマにした「個人開発の技術選定の極意 Lunch LT」が開催されました。 フリーランスや副業といった形で個人開発をしているエンジニアの方々が集まり、サービス立ち上げの際にどのように技術を選定し、どのような課題を乗り越えてきたのかを共有し合う場となりました。本レポートでは、それぞれ4名の登壇者が語った実践的ノウハウや、全体を通して見えた個人開発ならではのポイントについてご紹介します。
はじめに
個人開発における技術選定は、その後の開発効率やサービス運営に大きな影響を与えます。フルリモートでの開発や、複数の業務と並行して進めることが当たり前の個人開発だからこそ、アプリケーションやインフラをどう組むか、運用コストをどう抑えるかなど、悩みどころが多いものです。
そこで本イベントでは、月間数千~数十万ユーザーを抱えるサービスを個人で運営する登壇者の方々に登壇していただき、それぞれの技術選定や運用のポイントを語っていただきました。共通するキーワードは「できるだけ少ない手間で長期運営できる」「スピード感を損なわない」など。各自が工夫を凝らしてきた経緯は、個人開発を志すすべてのエンジニアに大きな示唆を与えてくれます。
LT1: 「個人開発で『使ってもらえる』サービスを作るための技術選定」
スピーカー:なつみかん(川上 奈津美) さん
ポイント
家族向け情報共有アプリ「ポストック」 を個人開発し、1日3000~4000人のユーザーが利用中。
「使ってもらう」ための技術選定は「低コスト・低運用・低実装」がカギ。
フロントエンドはReact Native + Expo、バックエンドはFirebase(Firestore, Cloud Functions など) を採用。
Expoの OTA(Over The Air)アップデートが便利で、ストア申請待ちなしで改善を反映できる。
「ユーザーに本当に必要な技術か?」を常に問い続けることが、後悔しない技術選定を支える。
なつみかんさんは「ポストック」を運営する中で、収益化前でもサービスを長く続けやすいように無料枠の充実した技術を優先し、アップデートの速さを重視。「Expoであればストアを介さずに修正を配信でき、Firebaseはサーバーレスで運用の手間も少ない」と利点を語りました。
一方で、Firestore と RDB の考え方の違いに最初は慣れず、クエリ機能の制限などで学習コストがかかった点は苦労談として挙げていました。しかし総合的には「運用しやすく、コストをおさえて動かせる技術の方が、個人開発では圧倒的にメリットが大きい」と締めくくり、軽量かつ学習リソースも豊富な技術の活用を推奨されていました。
LT2: 「デスク環境のアイデア探しサービス setups. の技術選定」
スピーカー:たかD さん(DINAMICA)
ポイント
個人開発で「setups.」を運営。ユーザーのデスク写真・ガジェット情報を共有し、アイデアを得られるプラットフォーム。
当初は「AWSを使ってGoで書いてみる」など、経験のない技術を寄せ集めた結果、開発速度が落ちてモチベダウン。
そこから学んだ結論は「牛丼屋に学べ」=早い・安い・うまい(ちゃんと動く)を重視した技術選定を行う。
現在はGCP + Supabase + Cloudflare R2などで、安定運用かつ月数百円~数千円で十分動かせている。
スーパーベースは無料枠が広く、ポスグレを扱えることも嬉しい。Cloudflare R2で画像保存コストを最低限に。
たかDさんは初期失敗として「一度に新しいものを詰め込みすぎたこと」を挙げました。「学習目的が強いならともかく、サービスを完成させたいなら、使い慣れた技術+運用コストの安いものを選ぶ方がよい」とコメント。最終的には React+Supabase+GCP などを軸にして低コストで運用し、ユーザーにとって「動かなくなるリスク」を最小化しているそうです。
LT3: 「2年間開発を続けているテストメーカー立ち上げ時の技術選定と振り返り」
スピーカー:meijin さん(株式会社NoSchool)
ポイント
「テストメーカー」を個人開発し、2年半以上で2万人が利用。学校や企業研修でも導入。
フロントエンドは当初は Vue.js だったが、Vue 3 の破壊的変更を機に React+TypeScript へ移行。
バックエンドは Go やネストJS ではなくフルリオを採用するも、最近なら「炎(Hono)や Next.js のAPIルート+Supabaseでもよかったかも」と振り返る。
インフラはRailwayを利用しているが、障害があると英語対応が苦労。DBが消えるハプニングもあった。
「スピード優先で学習コストを抑える選択が吉。勝負ポイントには多少マニアックな技術を入れてもいいが、あとはシンプルが無難。」
meijinさんは、フロントエンドのメジャーシフトに柔軟に合わせたり、バックエンドに軽量フレームワークを入れる一方、破壊的更新が多いライブラリを使って苦労もしたと語りました。バックエンド運用もほぼふたり体制で進めているため、クラウド事業者のサポート体制や障害対応も気になるポイント。サービスの勝負部分(リッチエディタなど)以外は無理に凝った技術を入れず、メンテ負荷が軽いものを選ぶのが大切と強調していました。
LT4: 「月間60万ユーザーを抱える個人開発サービス Walica の技術スタック変遷」
スピーカー:MIYACHIN さん(BASE株式会社)
ポイント
割り勘計算サービス「Walica」を個人開発し、現在月間60万ユーザー。
2018年リリース当初は Vue.js + Flask + Heroku + 無料DB という組み合わせだった。
ユーザー増加に合わせてフロントを React + TypeScript へ移し、DBを有料に切り替え、RDS化も行った。
サービス運営コストは月6000円ほど。大きな障害は年1~2回で運用も非常に安定している。
スピード最優先で作った技術選定だったが、後々移行コストが発生する例もあり。「とはいえ個人開発はまずリリース・運営が最優先で、多少のリファクタは必要経費」とのこと。
MIYACHINさんが個人開発を続ける中でのポイントとしては「初期リリースでは『とりあえず動く』フレームワークを選んで、ある程度スケールしたら少しずつ置き換える」と語りました。保守しにくい部分を後で書き直すとしても、コアの価値をどれだけ早く届けられるかが個人開発の鍵とのこと。
Q&Aで見えた共通の悩みとヒント
モチベーション維持はどうしてる?
たかDさん:「悩んだらユーザーの生の声を聞くために、XでDMして壁打ちしてました。フィードバックをもらうとやる気が戻る。」
meijinさん:「友人とペアで開発していて、毎週2時間だけでも確実に続ける方針を立てたことが大きい。」
バックエンドを自前で書くか、Supabaseのように全委任するか?
ほぼ共通の認識として、個人開発なら「データベース・認証・ストレージなど、学習コストを下げるサービスを使う」というのが定番に。
MIYACHINさんも「これから作るなら Next.js のAPIルートとSupabaseで十分」と述べ、なつみかんさんもFirebaseのメリットとして “フルマネージドで気軽に始められる” ことを強調。
「新しい技術試したい」という気持ちとの折り合いは?
個人開発は学習目的としても最適。ただし「学習がメインか、スピード重視か」で技術選定を変えるべき。
なつみかんさん「スキル習得としては素晴らしいのですが、主目的がサービスの継続なら、安定×安価×スピードが重要。」
たかDさん「僕はやりたい技術を全部入れちゃって一度モチベ落ちしたので、学習範囲を1つに絞るなどの工夫が必要。」
全体を踏まえた感想
4名の登壇者の話を貫いていたのは、「個人開発は限られた時間・コストでいかにサービスを継続し、多くのユーザーに価値を届けるか」という視点でした。 運用コストを抑える仕組み(クラウドの無料枠や低額プラン)、なるべく学習コストの低い技術スタック(ReactやSupabase、Firebaseなど)を選び、最小限で動かす。さらに“困ったとき調べやすい”という意味でも、ドキュメントや先人事例の豊富さは大きな恩恵となります。
同時に、「どうしてもこだわりたい技術や学びたい技術があるなら、そこだけはリスク承知で採用して、ほかはシンプルにまとめる」といったメリハリが重要との声も。開発のコア価値をどこに置くかで決断が分かれました。
個人開発だからこそ、スピード感と継続性を両立させた軽量な技術選定が大切。そして何より「とりあえずリリースしてみる」ことがサービスの成長、そして開発者自身のモチベーションにも直結する。今回のLTは、その一歩を踏み出す具体的なきっかけになり得る内容だったと思います。個人開発を検討中の皆さんは、登壇者たちの経験をぜひ参考に、気軽にかつ貪欲にサービスを立ち上げてみてはいかがでしょうか。
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