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改訂新版「ミノ駆動本」の活用方法 〜設計勉強会による効果的な学習アプローチ〜 レポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約2948字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2025年1月17日に開催された「改訂新版『ミノ駆動本』の活用方法 〜設計勉強会による効果的な学習アプローチ〜」では、『改訂新版 良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』の著者であるミノ駆動さんをお迎えし、設計スキル向上のための最先端の学習アプローチが共有されました。バグを埋め込みにくく、保守しやすいコードを書くためにどう勉強すればよいのか──そのヒントが詰まった1時間でした。本レポートでは、ミノ駆動さんご本人による本書の改訂内容や、DMM社で実践している勉強会(ワークショップ)の具体的な方法、そして参加者からのQ&Aなどを振り返ります。
改訂新版「ミノ駆動本」とは
今回のテーマとなった書籍『改訂新版 良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』は、いわゆる“ミノ駆動本”として多くのエンジニアに愛読されている一冊です。保守性・変更容易性を軸とした設計の重要性を、具体的な「悪いコード」と「良いコード」の対比で解説するのが特徴で、初版はITエンジニア本大賞2023技術書部門大賞を獲得。そこからさらに内容を補強した改訂新版が、昨年12月25日にリリースされました。
改訂版での主な変更ポイント
凝集度・結合度からの脱却 初版では「凝集度を高め、結合度を下げる」という昔ながらの設計指標も登場していました。しかし実際には、オブジェクト指向の場面で「結合度を下げる」「凝集度を上げる」といった単純な指標だけでは正しく判断できない場面が多々あるとのこと。改訂新版では、カプセル化や関心の分離という考え方へ置き換えられています。
インターフェイス設計の説明強化 初版でも登場したインターフェイスの活用例が、改訂新版ではより深く解説されました。抽象化の設計ポイントが分かりにくいと感じた読者の声を受け、サンプルを踏まえながら説明を拡充しているとのこと。
名前設計に関する追加ノウハウ 「名前がコードの可読性と保守性を大きく左右する」という視点は初版でも提示されていましたが、改訂新版では人間の認知バイアスや“助手理の法則”の要素を新たに盛り込み、より深い観点でのネーミングガイドを提供しています。
実務での適用事例やワークショップ手順 後半の章では、とくにDMM社内で実践されているワークショップ形式の学習や、改訂内容を踏まえた設計ガイドラインなど、より実務目線で役立つ事例が増えました。
設計スキルを最速で上げるには? ワークショップ形式の学び
ミノ駆動さんが強調したのは、「講義形式や読書だけでは、設計スキルは身に付きにくい」という点です。書籍を読んだだけ、いわゆる輪読会をしただけでは「分かったつもり」になりがち。実際に手を動かしてみてこそ初めて得られる理解があるといいます。
ワークショップの流れ
事前にテキストを読んでおく(1時間) 例えば「カプセル化をテーマとする回」であれば、その章を40ページ程度読む。特に「何が問題なのか?」という観点に注目しながら読むのが大切。
当日、概要と目線合わせを行う テーマごとに解決したい問題点(カプセル化なら「データとロジックが分離しているため、保守が困難になっている」など)を確認し、どこに注目すべきかを共有する。
自分が触っているプロダクションコードから問題を探す 実際に運用中のソースを対象に「どこが理想と違う構造なのか」を認識。ここが最も実務につながるポイント。
見つけた問題をメモ化(言語化) 「ロジックが複数箇所にバラけており、修正の際に範囲が把握しにくい」といった形で具体的に文章に落とし込む。頭の中だけで済ますと、曖昧さや矛盾に気づかない。
メンバー同士で問題点を発表し合い、フィードバック 自分が「ここが問題だ」と考えた部分を5分ほどで発表し、他のメンバーから質疑応答を受けることで理解を深化させる。
再設計の実装 該当箇所をリファクタリングするのではなく、新たにファイルを作って0ベースで「理想的な構造」へ再設計したコードを書く。
どう解決したかをメモ化 「何をどう変更し、なぜそれが有効なのか」を文章化して自己整理。設計の判断を筋道だてて振り返るのが重要。
成果発表と講評 最後に再設計したコードを画面共有し、「先の問題点がどう解消されたのか」を仲間に説明。ここでも意見交換やフィードバックが行われる。
何が問題かを把握することが最大の鍵
「設計スキルは問題解決の能力。それは問題を正しく把握してこそ発揮される」というのがミノ駆動さんの一貫したメッセージでした。実際、「そもそもどこに負債があるか分からない」「何を直せば改善になるか曖昧なまま」という状態が、設計を曖昧にしがちです。
ワークショップでは、理想構造(変更容易性が高い構造)を知った上で、プロダクションコードの問題を自力で見つけ出し、再設計までのプロセスをじっくり踏む。その一連の流れで、最も大きく伸びるのが「問題認識能力」とのこと。ここが身につくと、日常の開発でも「このコードは将来の拡張で困る」「こことここをまとめるべき」といった判断を素早く行えるようになるそうです。
質疑応答・ポイントまとめ
イベント後半では、参加者から多数の質問が寄せられました。いくつか印象的だったやりとりをまとめます。
Q.「設計改善とパフォーマンス要件の両立は?」 A. まずは変更容易性を優先し、後から計測して本当に必要な箇所のみパフォーマンス対策を行うのが定石とのこと。先に最適化をしようとすると保守のしやすさが損なわれるリスクが高い。
Q.「ワークショップ後のコードをそのまま本番に適用していい?」 A. 実装時間の都合で完璧なコードにならないケースが多いので、学んだ知見を元に改めてリファクタリングを行うのが望ましい。
Q.「フロントエンドエンジニアでも同じ手法は活用できる?」 A. もちろん可能。ただReactなどは既にカプセル化がある程度保証されているため、問題のあるコードがそもそも見つからない場合もある。その際はAI生成コードなど別の題材を活用するとよい。
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、改訂新版で強化された「より現場で使える説明」とワークショップによる実践的学習の融合が強く印象に残りました。ワークショップの効果は、書籍や講義だけでは得にくい“問題を認識して、筋道だてて再設計する”体験をチームみんなで共有できるところにあります。
とりわけ「何が問題か」を言語化するステップの重要性を、ミノ駆動さんは繰り返し強調していました。そこで養われる目の鋭さこそが、実務での保守性・開発速度向上につながるというわけです。
設計スキルを伸ばす手法として、「プロダクションコードのワークショップ」「理想構造とのギャップの確認」「チーム内での発表・フィードバックを活用」という3点を取り入れてみてはいかがでしょうか。改訂新版になり、名称の通り“改訂”された内容がいっそう実践向きになった『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』。それを一つの“軸”として、現場でワイワイ盛り上がりながら自分たちの設計スキルを鍛える──このイベントを機に、そんな取り組みにチャレンジしてみるのも面白そうです。
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