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LayerX 名村さんに聞く!2025年AIエージェント時代の可能性と実践 レポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約3608字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
はじめに
AIエージェントをめぐる変化と背景
LLMによる「定義済みではない入力」への対応
AIエージェントはハブ的存在になる
AIエージェント開発における必要技術とポイント
必須要素:モデルルーティング、ワークフロー、メモリ…
設置場所:サーバー or ブラウザー or デスクトップ
セキュリティや不確実性への対処
プロンプトインジェクションが最大のリスク
不確定な動作、ハルシネーションへの対応
LayerXの取り組み事例
営業支援を目的とした社内エージェント
今後の展望:ベクトルの時代とエンジニアスキル
Q&Aダイジェスト
Q. エージェントの結果を評価する仕組みはどうしている?
Q. 大規模データやラグ連携で気をつけることは?
Q. 結果の安定性向上はどうする?
全体を踏まえた感想 ~やがて来る指示の時代に向けて~
2025年3月4日に開催されたオンラインイベント「LayerX 名村さんに聞く!2025年AIエージェント時代の可能性と実践」は、生成AIやAIエージェント活用に関心を寄せる多くのエンジニア、ビジネスパーソンが集まり、大いに盛り上がりました。昨今、AIエージェントを事業へ実装しようとする動きは多い一方で、実際の開発手法や導入時の課題はまだ体系化されていない部分もあり、現場レベルの知見が求められています。
そこで本イベントでは、LayerXにて事業者向けAIエージェントの実装を進める名村さんをお招きし、AIエージェントを取り巻く技術、導入の要点、設計上の工夫などを余すところなく語っていただきました。本レポートでは、その講演内容を振り返りつつ、参加者からのQ&Aを交えてご紹介します。
はじめに
本イベントは昼休みの時間帯にオンラインで開催され、事前登録者数は1800名を超えました。司会進行はFindyが担当し、約1時間にわたって名村さんが講演。その後に参加者からの質問タイムが設けられるという流れでした。
名村さんは現在、株式会社LayerXでAIエージェントの実装や社内イネーブルメント(生産性向上)を推進。メルカリのCTOを務めた経歴を持ち、サイバーエージェント時代には数々の新規事業立ち上げに携わってきたソフトウェアエンジニアでもあります。「2025年のAIエージェント時代」をどう考え、どう実践しているか。その第一線の知見が今回のイベントの肝となりました。
AIエージェントをめぐる変化と背景
LLMによる「定義済みではない入力」への対応
AIエージェントの核となるのがLLM(Large Language Model)です。従来のソフトウェアは、定義された入力と明確なロジックをもとにプログラミングされていました。しかしLLMの登場で「曖昧な入力」や非構造的な情報をベクトルとして扱えるようになり、システムに自律的な思考や行動が組み込めるようになったと名村さんは指摘します。
AIエージェントはハブ的存在になる
名村さんの見解では、今後のAIエージェントはシステム全体の中で「中央コントローラ」に近い役割を持つようになると言います。さまざまな外部ツールや自社システムを呼び出しつつ、時には複雑なワークフローを自律的に進め、必要なデータ(RAGなど)を引き出しながら動く。このようなハブ的ポジションは、従来の固定ロジックにはなかった自律性と柔軟性をもたらします。
AIエージェント開発における必要技術とポイント
必須要素:モデルルーティング、ワークフロー、メモリ…
名村さんは、AIエージェント開発を進める上でフレームワークに求められる機能を整理しています。
モデルルーティング
OpenAIやAnthropicなど複数のLLMをどう使い分けるかを管理
ワークフロー
1回の呼び出しでは済まないタスクを段階的に実行し、中間結果を保持
ツール連携
外部APIを呼び出して追加情報を取得する、あるいは操作を実行する
メモリとRAG
過去の会話(コンテキスト)をどのように保持し、必要に応じてベクトル検索等で取り出すか
評価(エバリュエーション)
出力結果が適切かを評価し、プロンプトやモデルを調整
「従来のソフトウェアは順序性や論理性をエンジニアがコード化していましたが、エージェントではプロンプトやメモリ設計こそが生命線になってきます」とのことです。
設置場所:サーバー or ブラウザー or デスクトップ
サーバー置き バックエンドと統合しやすく、常時稼働も可能だが、ユーザーの認証情報を扱う際のセキュリティ懸念やネットワーク要件がある。
ブラウザー拡張 ブラウザー上で認証情報やUIと連携でき、導入ハードルも比較的低い。ただし拡張機能のセキュリティや企業内利用の難しさがある。
デスクトップアプリ OSレベルで多様な操作やオフラインにも対応可能。ただしアップデートやマルチOSサポートの手間などは大きい。
状況やニーズに応じて、どれを選ぶかが大きな設計ポイントになるそうです。
セキュリティや不確実性への対処
プロンプトインジェクションが最大のリスク
「ユーザーからの入力をそのままプロンプトに渡すと、意図しない操作や機密情報の漏洩が起きる恐れがあります」と名村さんは警鐘を鳴らします。SQLインジェクション以上に柔軟な指示ができてしまうAIエージェントだからこそ、プロンプトインジェクションは重大な脆弱性になりえます。
対処としては以下のようなアイデアが挙げられました。
不要な機密情報をプロンプトに渡さない
必要最小限に留め、機密データを取り出しにくくする
出力内容を別モデル等で検閲
危険なキーワードや内部機密への言及がないかをチェック
不確定な動作、ハルシネーションへの対応
「AIエージェントは完璧じゃない。曖昧な出力や誤情報が起きうるという点は念頭に置かねばならない」と強調します。評価用の軽量モデルやロジックで常に出力を検証し、問題があれば再プロンプトするなどの仕組みを導入することが大切だとのことです。
LayerXの取り組み事例
営業支援を目的とした社内エージェント
名村さんが率いるイネーブルメントのチームでは、社内利用の営業支援エージェントをいくつも試作。「企業調査を自動化するエージェント」「トーク内容からフォローアップメールを自動生成するエージェント」「製品仕様をQA形式で回答するエージェント」など、LMを活かした数多くのアプローチを行ってきました。
特に「Web情報のクロール+LLMプロンプト+データベクトル検索」の組み合わせで、手動では面倒な情報整理を半自動化できたメリットが大きいと語ります。
今後の展望:ベクトルの時代とエンジニアスキル
名村さんは、AIエージェントが広まるにつれ、エンジニア像が変容すると予測します。「単にCPU命令に変換(コード化)するだけではなく、ベクトル変換やプロンプト設計が肝となる時代。適切な言葉・指示・データ構造を組み合わせて、思った通りの出力を得る力がエンジニアの新たな競争軸になりそうです」。
処理時間やコストが極端に下がり、性能が上がる未来を見据えれば、「今はまだ不安定だけれど、2026年、2027年にはAIエージェントが安価かつ高速に“自律行動”する姿が当たり前になっているかもしれません」とのことです。
Q&Aダイジェスト
本イベントでは多くの質問が寄せられ、その一部に名村さんが回答してくださいました。
Q. エージェントの結果を評価する仕組みはどうしている?
A. 「現状、手動での検証や簡易的なログ確認が中心」とのこと。今後は評価用モデルと組み合わせて自動評価するフレームワークなどを導入予定。
Q. 大規模データやラグ連携で気をつけることは?
A. 「何でも突っ込むのではなく、構造的・必要最小限に絞ってラグに入れる。ベクトル化する際、どのように文脈を持たせるかを意識すると良い」と名村さん。
Q. 結果の安定性向上はどうする?
A. 「プロンプト最適化とともに、外部ツール呼び出しや再プロンプトなど、プロセス面での対策が不可欠。評価を繰り返して少しずつ完成度を上げるアプローチ」
全体を踏まえた感想 ~やがて来る指示の時代に向けて~
名村さんが強調していたのは、「ソフトウェアエンジニアの役割がコーディングから指示出しへ大きくシフトする」という展望です。AIエージェントはLLMを主軸としながら、メモリ管理、ツール呼び出し、RAG連携など、フレームワーク的な設計が必須となります。そこへ「どんなプロンプトで何をさせたいか」「どのようにベクトルデータを持たせるか」が勝負の分かれ目になりそうです。
また、エージェントが意思決定を行うことの魅力とリスクが表裏一体である点も印象的でした。自律的なツールコールのパワーは大きい反面、プロンプトインジェクションや不確実な出力の制御が課題として立ちはだかります。この課題を「どう解決するか」「どう社会実装していくか」が次の大きなテーマになりそうです。
レガシーな業務を一気に刷新する可能性を秘めるAIエージェント。高度なコーディングスキル以上に、柔軟な発想力やプロンプト術が問われるこの領域は、まさに黎明期に突入したばかり。活用例や技術の成熟はこれから加速していくでしょう。
今の段階で「指示を上手に出せる」「プロンプトインジェクションを気にしつつ設計できる」人材やチームが、2026年以降のAIエージェント全盛期に大きなアドバンテージを得る――そんな予感を抱かせる、非常に刺激的なイベントでした。
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