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akfm氏、Quramy氏がコードで解説 現場で使えるReactテスト設計 レポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約3850字
2025年3月26日、「akfm氏、Quramy氏がコードで解説 現場で使えるReactテスト設計」というイベントがオンラインで開催されました。本イベントは、フロントエンドエンジニアとして著名なお二人が具体的なテストコードを交えて、UIテストにおける常見のアンチパターンをどう乗り越えていくかを議論する場となり、多くのエンジニアが視聴に集まりました。
Reactを使ったコンポーネント単位のテストは、もはや業界標準ともいえるテスティングライブラリ(たとえばJest + Testing Library、MSW、Storybookなど)を活用することで比較的書き始めやすいものの、一歩間違うと“テストを書いたはずが保守コストばかり膨れ上がる”という事態に陥りがちです。また、通信エラーやブラウザバック処理といったUI特有の複雑なケースに対しては、どうアプローチすればよいのか悩む方も多いでしょう。
本イベントでは、その辺りのポイントを akfm(あっきー)氏 と Quramy(くらみー)氏 の二人が軽快なトークで説き明かしてくれました。モデレーターは ahomu氏 が担当し、後半は質疑応答を含むディスカッション形式で進行。以下では、各登壇者の発表要旨やディスカッション中の重要トピックを整理し、Reactテスト初心者から中級者までが陥りがちな課題と、その具体的な対処法を振り返ります。
1. 「過剰テスト中毒」と「エラーテスト欠乏症」への処方箋
スピーカー:akfm(あっきー)氏
まず akfm氏 のパートでは、「UIテスト二大疾病:過剰テスト中毒とエラーテスト欠乏症」というユニークなテーマで、フロントエンドテストによくあるアンチパターンを解説しました。
過剰テスト中毒
単体テストを書き始めたばかりのエンジニアが陥りがちなのが「必要性の低いテストを際限なく書いてしまう」ケースです。たとえば、静的テキストのタイトルが正しく表示されるかといった“変化が起こりづらい”部分を、細かくテストしすぎると、保守コストだけが膨らみます。 テストの役割はリファクタリング時の安心感や、クリティカルなバグを捕捉することであるため、「このテストは本当にバグを防ぐ可能性があるか」を考えつつ書きましょう。
エラーテスト欠乏症
一方、正常系のテストだけを固めてしまい、「通信やサーバーエラーが発生した際のUI挙動をテストしていない」というアンチパターンも多く見られます。ユーザー視点では、エラー時にアラートメッセージが正しく表示されるかどうかは重要な“当たり前品質”です。 たとえばフォーム送信が失敗した場合にエラーメッセージや再試行の誘導が表示される、といったテストをしっかり網羅しておくと、リリース後のトラブルを減らせるうえにUX向上にもつながります。
ポイント
価値の低いテスト(過剰テスト) は削減する 静的な文言のチェックのように、ほとんど変更予定がない箇所やバグ検知の期待値が低い箇所へのテストは書きすぎない
エラー系のテストはむしろ重点的に 通信失敗時のUIがどうなるか、ブラウザバックなど異常系の動きこそテストコードで守っていく
2. 「フロントエンドテストの育て方」
スピーカー:Quramy(くらみー)氏
続いて Quramy氏 は、フロントエンドのテストコードを「チーム全体でどのように育てていくか」に注目。Reactでのコンポーネント単体テストを念頭に、コード例を交えた工夫を披露しました。
読みやすさを重視
・React Testing Libraryをベースにしつつ、「アレンジ-アクト-アサート」(3Aパターン)のコメントを明示し、テストの意図が一目でわかる形を心掛ける ・テスト対象のレンダリングやスタブ用意のロジックを見通しよく書くことで、3ヶ月後に自分が見ても理解しやすいテストに ・「曖昧なテスト」と呼ばれる、テストコードからコンテキストや前提条件が読み取れない書き方は避ける
ストーリーブックとの連携
・Storybookを使わないReactプロジェクトは今や少数派だが、ストーリーブックのデコレーターやCSF機能を活用すれば、ユニットテスト側に流用できる ・例として、ZustandやReduxといったステート管理ライブラリを“デコレーター”でラップしたストーリーを定義し、それをテストコード側で読み込む工夫 ・単なるコンポーネントの見た目確認に留まらず、“テスト用”に準備したデコレーターがあるとチーム全員がテストを導入しやすくなる
スキャフォールディングや自動生成
テストコードは少しでも作法を覚えるハードルがあるため、コンポーネント、ストーリー、テストコードの3点セットを自動生成するCLIやスクリプトを整備。 これにより、新しいコンポーネント追加時に「ストーリーとテストコードを書くフロー」を半ば強制かつ手軽にすることで、チームメンバーが自然と“一貫した書き方”でテストを育てていけるようになる、と強調していました。
ディスカッションと質疑応答
後半はモデレーターのahomu氏も交えたディスカッション形式で、多数の質問が飛び交いました。その中から特に興味深いトピックをピックアップします。
サーバーコンポーネントとの兼ね合い サーバーコンポーネント内の処理をどこまでテストコードで検証するかは悩みどころ。クライアントとサーバーを境界で分割し、サーバー側は別のユニットテストで検証、クライアント側はモックしてあげる形が現実的だと二人ともコメント
テストコードが書きづらいと感じる瞬間 UIレンダリングのタイミングが意図しづらい実装や、モックが複雑になりすぎたケースなど。そこは「設計への赤信号」と捉え、コンポーネント分割や依存注入の工夫などテストしやすい構造にリファクタリングしたほうが良い
テストを“書きすぎ”てしまう人へのアドバイス 「どのようなバグ検出効果を狙うテストか」を自問する習慣をつける。静的要素だけのチェックが大量にある場合などは保守負荷に見合わない可能性が高いため削減を検討すべき
チームでテストコードの書き方を統一する方法 3Aパターンをコメントで明示するなどスタイルを定める。一方でコメントだけでは3ヶ月後に忘れられがち。CLIスクリプトや専用ライブラリで“正しいパターン”を自動生成する仕組みを用意し、組織的にテストを育てるアイデアも有効
全体を踏まえた感想
テストの“書きすぎ”と“書かなさすぎ”を乗り越えて、チームでコードを守る
Reactを使ったフロントエンド開発では、コミュニティに多くのテストツール・ライブラリがあり、またStorybookなどUI確認ツールも広く普及しています。しかし、便利な道具があるからといってすぐに“ベストなテストコード”が書けるわけではありません。 今回のイベントを通じて見えてきたのは、コンポーネントが何を目的にどんな振る舞いをするのかをあらためて再認識し、テストと実装の両方が「保守しやすい・読みやすい」状態を作るための工夫が欠かせないという事実です。
過剰テスト中毒:変更頻度やバグ検出効果がほぼない“文章だけ”などをテストしすぎてしまう。テストの意義を改めて考えることで削減
エラーテスト欠乏症:異常系や通信エラーが実装でちゃんとハンドリングされているかをテストしていない。UIとして当たり前品質を確認する場としてこそテストは大事
さらに、チームの文化やメンバー入れ替えを見据えるなら、3Aパターンやストーリーブック連携などの流儀を体系化・自動化しておくことが重要でしょう。テストがチームに根付けば、 「テストコードこそ自分たちの設計の羅針盤」 として機能し、全員が自信を持ってフロントエンドをリファクタリングできる環境が生まれます。
最後に
「React + コンポーネント単位のテスト環境を整える」という行為は、最初は敷居が高いように見えるかもしれません。しかし、アッキーさん・クラミーさんが示した具体的なヒント(過剰テストを避ける、エラーテストをしっかり書く、ストーリーブックとの連携やスキャフォルディングで開発体験を整える)を実践すれば、決して特殊な高等テクニックが必要なわけではないとわかります。
重要なのは、「なぜテストを書くのか」「どこまでテストするのが価値あるのか」をチーム全員で対話しながら合意し、その合意をブレさせないように仕組み化することです。過剰なテストもテスト不足もどちらも問題を引き起こしがちなので、両極端に陥らないよう注意しながら、無理なくテストを“育てる”意識が求められます。
フロントエンドの複雑化は止まる気配がありませんが、逆にいえばテストによって得られる安心感も大きくなっています。本イベントで紹介された考え方やアプローチを参考に、皆さんもぜひ自分やチームのスタイルに合ったテストを育てていってください。
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