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地域を変えるテクノロジーの活用事例 ー 北九州の地域課題に挑むリーダーと考える「地域社会×デジタル活用」のケース レポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約4671字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2024年12月17日、「地域社会におけるデジタル活用」を切り口に、北九州で活躍するIT企業やコミュニティリーダーをゲストに迎えたオンラインイベント「KITAKYUSHU Tech Day2」が開催されました。
本イベントでは、全国各地で シビックテック(Civic Tech)の取り組みをけん引するCode for Japan代表理事 関 治之氏が基調講演を行い、さらに北九州市に拠点を置く2社(日本アイ・ビー・エム デジタル・サービス株式会社とウイングアーク1st株式会社)の技術者が、地域社会×デジタル活用に関する具体的な事例を紹介。最後に、地域コミュニティの視点からも交えて、地域の変革に挑むパネルトークセッションが行われました。
「ITエンジニアが持つ技術力・好奇心・行動力が、地域社会でどのように生かせるのか?」「デジタル人材や企業が地域と連携するときのポイントとは?」——そんな問いに対して、多様な立場からリアルな事例や示唆が語られた一日となりました。
オープニング:北九州市の取り組み
最初に、北九州市 企業立地支援課 橋垣さんより開会のご挨拶がありました。北九州市といえば製造業の街という印象が強い一方で、実は30年近く前から情報産業にも力を入れているとのこと。近年はIT企業の進出が相次ぎ、市内企業と連携しながらDXを後押しする取り組みも活発に行われています。
さらに、「北九州テックデイ」は昨年度から新たに始まった試みであり、市内で活動するIT企業やエンジニアにスポットライトをあてて、エンジニアリングの可能性を広く伝えるイベントだと説明。今後Day3も予定しているので、継続的にフォローしていただきたい、との呼びかけがありました。
基調講演:Code for Japan 関 治之氏
「デジタル人材×地域市民の協業で地域課題を解決している全国各地のケース」と題し、一般社団法人 Code for Japan 代表理事の関 治之氏が登壇。Code for Japanが推進するシビックテック(市民がテクノロジーを活用して地域課題を解決する動き)とは何か、その全国的な事例やノウハウが紹介されました。
シビックテックとは
市民主体(Civic) × テクノロジー(Tech) による社会課題解決の取り組み。
行政が持つデータのオープン化や、住民コミュニティとの連携を通じて、行政サービスの改善や地域課題へのソリューションを開発する動きが世界各地で活発化。
Code for Japanの活動
月例のハッカソン「ソーシャルハックデイ」をはじめ、年1回の「Code for Japan Summit」、全国のCode for コミュニティ支援など、多様なコミュニティと連携。
オープンソースやオープンデータを基盤とした「デジタル公共財」の創出・活用を推進。
例:市民からの参加で共同編集していく「Wikipedia Town」、豊岡市の「地域アプリ開発事例」、カーボンフットプリント計算アプリなど。
シビックテックが継続的に成果を生むためには、「市民参加によるプロトタイピングの重要性」を強調。単なる要望を伝えるだけでなく、「自ら手を動かし、試作し、見せながら行政や他コミュニティを巻き込む」姿勢が鍵。
関氏は「北九州市はオープンデータや行政DXにも熱心で、IT企業進出も盛ん。多様なステークホルダーが連携しやすい素地がある」と評価。「テクノロジー企業やコミュニティがうまく連携し、一緒にプロトタイプを作るところから始めると、地域課題解決が加速する」とメッセージを送りました。
企業講演(1):日本アイ・ビー・エム デジタル・サービス株式会社 辻 聖人氏
タイトル:「2つの目線を通して考える、これからのエンジニアの未来」
続いて、日本アイ・ビー・エム デジタル・サービス株式会社(通称:IJDS)の辻 聖人氏が、事業会社エンジニアとテクノロジー企業エンジニア、2つの働き方を比較して得られた示唆を語りました。
事業会社エンジニア
業務: リーダー/サブリーダーとして、社内システムや業務改善に携わる。
必須スキル: コミュニケーション力、業務知識、ステークホルダー調整など、ヒューマンスキル重視。
課題: 開発そのものを深く経験できず、技術力を伸ばす機会が限られる。現場のPM業務が多く、コードに触れる時間が少ない。
テクノロジー企業エンジニア
業務: クライアントのシステム開発プロジェクトで設計・実装を担当。技術の深掘りが必須。
必須スキル: 開発経験、テクノロジースキル、加えてチームマネジメント力なども必要。
課題: 深く技術力を伸ばせる半面、業務知識や事業全体像が見えづらいことも。
辻氏はそれら2つの視点を踏まえ、これからのエンジニア像として、
ビジネス要件を正しく理解し、最適なソリューションを提示する力
アプリ/インフラ両面の基礎知識を備え、柔軟に作り分けられるスキル
企業やコミュニティを巻き込む調整・連携力 を挙げました。
またIJDSでは、地域貢献の一環として高校生とのDXワークショップなども実施中。辻氏自身も地元・北九州に戻り、IT企業ならではの技術力と調整力を活かして、地域課題に取り組む楽しさを感じていると語りました。
企業講演(2):ウイングアーク1st株式会社 阿多 真之介氏
タイトル:「テクノロジー活用人材が巻き込み力で進める『地域社会×デジタル活用』ケース」
3番手は、ウイングアーク1st株式会社 社長室 室長 兼 地域創生ラボ ラボ長の阿多 真之介氏。北九州市に新設した「地域創生ラボ」を拠点に、同社がどのように地方とコラボしているかを紹介しました。
ウイングアーク1stとは
帳票文書管理とデータエンパワメント事業を展開する、データ活用ソリューションのリーディングカンパニー。
当初は東京が拠点だったが、2023年8月に北九州市に「地域創生ラボ」を開設。DX・GX(グリーン変革)をテーマに地域連携を推進。
北九州市との取り組み
GX推進コンソーシアム 北九州市や地域企業と連携し、CO2排出量の可視化ツールなどを無償提供。まずはデータの「見える化」で課題把握を進めている。
人材育成・雇用創出 市内の大学や高専とコラボし、発表会やハッカソンを共同開催。インターン生を受け入れ、同社クラウドサービスの開発に参画する機会を提供。
スポーツDX Jリーグ「ギラヴァンツ北九州」へのスポンサーや、選手の動きをデータで分析するスポーツテックを支援。
Z世代とのコラボ 北九州市Z世代課(※若者支援に特化した市役所組織)と連携し、ギラヴァンツの試合来場者データなどを分析。若者視点で「試合後の商店街回遊を増やす施策」を検討している。
阿多氏は、 「非エンジニアでも、テクノロジーを活用した地域課題解決はできる。大事なのは巻き込み力」 と強調。エンジニア的な手法を知るだけでなく、市民や大学生を含む多様なステークホルダーを巻き込む姿勢が、DX推進には欠かせないと語りました。
パネルトークセッション
最後のパネルディスカッションには、以下の4名が登壇・対話を深めました。
関 治之(一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事)
辻 聖人(日本アイ・ビー・エム デジタル・サービス)
阿多 真之介(ウイングアーク1st)
モデレーター: 糸川 郁己(I.I.代表 / Code for Kitakyushu 顧問 ほか)
北九州ならではの特性
登壇者が口をそろえていたのは「北九州には人同士がつながりやすい風土がある」ということ。新しく進出したIT企業に対しても、行政や地域コミュニティが温かく迎えてくれる空気感があり、地元企業や大学生などともコラボレーションがスムーズに進みやすい。
テクノロジーを取り入れやすい文化
北九州市はDX・GXの先進自治体としても表彰されるなど、行政が積極的にデジタル化を進めている。エンジニアにとっては、新しい技術を地域社会で実証・展開しやすい舞台がそろいつつある。
ボランティアではなくサービスにするには
関氏は「シビックテックが“1回きりのハッカソン止まり”にならないためには、企業や行政による本格的な運用体制が不可欠」と指摘。「地域課題に対するプロトタイプが素晴らしくとも、運用継続する仕組みづくり、資金確保など、多様なプレイヤーが協力する必要がある」と述べました。
一方、阿多氏や辻氏は、テクノロジー企業がオープンマインドで地域に入り込むことで、事業会社やコミュニティに技術力を還元しながらも、自分たちも新たな発見やビジネスチャンスを得ていると語ります。
全体を踏まえた感想
「人」と「サービス」を繋ぐ街、北九州
Code for Japanの関さんが語ったように、シビックテックや地域DXを成功させるには「多様な人々を巻き込みながら、まずは小さなプロトタイプを一緒に作り、徐々に現実的なサービスへ成長させる」プロセスが大切です。 本イベントで印象的だったのは、北九州には新規進出IT企業を温かく迎える土壌があり、行政・大学・コミュニティが積極的に手を取り合っている姿でした。実際の事例でも、市民や大学生とのコラボによるデータ分析の試みや、スポーツクラブ×ITの協業など多様な連携が進み、大きな可能性を感じさせてくれます。
一方で、エンジニア個人のキャリア面も興味深いポイントでした。 日本アイ・ビー・エム デジタル・サービスの辻さんは、事業会社エンジニアとテクノロジー企業エンジニアの両面を経験し、それぞれの強み・弱みを踏まえて「自分はもっと技術を伸ばしたい」「でもステークホルダーとの対話も大事」という理想像を描いています。 ウイングアーク1stの阿多さんは、非エンジニアとしても「巻き込み力」で地域を変えていけることを実践。技術的コアは他のエンジニアがフォローしつつ、自分は多様なステークホルダーと企画を動かす役回りを担っているとのこと。
北九州にはエンジニアが本気で事業会社の課題を深掘りし、テクノロジーを武器に地域課題を解決するフィールドがあり、また協力者も多数存在するように見受けられます。実際、行政のオープンデータ活用や、Z世代を巻き込んだ取り組みなど、すでに豊富な事例が生まれ始めている点が刺激的です。
「自分の技術力を地域で試してみたい」「コミュニティ活動を通じ、エンジニアとしての役割を広げたい」という方にとって、北九州はまさに “共に考え、共に作る” を実践できる魅力的な場所なのではないでしょうか。
新しい可能性を探りに、ぜひ北九州へ
地元に根差す企業だけでなく、多くのIT企業が北九州市に新たに拠点を構え始めている現在。行政やコミュニティと連携しやすい土壌も相まって、デジタル人材にとって「真価を発揮できる現場」がますます増えつつあります。
今回のイベントに登壇したリーダーたちのメッセージから、「人が温かく、課題が豊富に転がり、行動すればすぐに仲間が見つかる土地」という北九州のリアルが立ち上がってきました。
一人ひとりが持つ技術力や好奇心を、地域社会の中でどう活かせるのか——そのヒントを得たい方は、ぜひ北九州テックデイシリーズの今後の回や、北九州での実際のコミュニティ活動に足を運んでみることをおすすめします。きっと、そこには “自分ごと化”したくなる地域の課題や、新たな出会いが待っている はずです。
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