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「データモデリング通り ~仲間と学ぶ実践の場~」イベントレポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約3071字
2025年3月27日、データ横丁の新たな試みとして「データモデリング通り ~仲間と学ぶ実践の場~」がオンライン開催されました。タイトルからは「ベテランと若手が自由に対話し、データモデリングを実践できるコミュニティを作りたい」という意気込みを感じます。実際、初回にもかかわらず約170名が申し込み、多くの人が「データモデリングを学びたい」「どこから始めればいいのか探している」という熱量を持って集まりました。ここでは当日の様子や登壇者の発表、質疑応答を振り返りながら、データモデリングの可能性と今後への期待をお伝えします。
1. データ横丁と「データモデリング通り」
イベント冒頭では、今回の場を企画した運営メンバーから「データ横丁」ならではの緩やかさと、新しく開設される「データモデリング通り」の趣旨が紹介されました。
データ横丁: データを扱う実務者がゆるくつながるコミュニティ。普段から勉強会やオンライン交流を行い、業務で生じる課題やノウハウを共有している。
データモデリング通り: ベテラン経験者が一方的に教える場ではなく、むしろ「学びたい人同士、そしてベテランと若手が協力してスキルを育む」コミュニティを目指す。
かつては「データモデラーは絶滅危惧種」と言われたように、若手とベテランの距離があり、学習の連続性が断絶しがちだったそうです。しかし近年は「データマネジメント」の必要性が高まり、データモデリングに注目が集まるなか、新たな交流と学習の場が必要とされています。今回は、そのキックオフセミナーとして企画が行われました。
2. 基調講演「データモデリングの効能と使いどころ」
登壇者: 吉村 泰生(DAMA日本支部 理事)
2-1. データモデリングがもたらす3つの効果
まず、世界的なデータマネジメント団体として知られる「DAMA日本支部」理事の吉村さんが、データモデリングの基本的な効能を3つに整理しました。
単純化で全体像を俯瞰できる モデル化によって対象を抽象化すると、コミュニケーションを取りやすくなり、複数の業務やシステムを扱う際にも把握可能な範囲が広がる。
業務を把握するスキルが身につく データ構造をじっくり分析することで、ビジネス上の流れや制約も自然に理解できる。「注文」や「製品」「顧客」などの概念がどのように繋がっているかを意識することで、結果的に業務知識を深く学べる。
用語の揺らぎに対応できる 組織・部署ごとに「顧客」「売上」などの定義が異なることはよくある。データモデリングを通して概念の違いや境界を明確化すれば、大規模なデータ連携や分析基盤の構築がスムーズになる。
2-2. 多様な使いどころ:連携統合からデータマネジメントまで
吉村さんは、従来の“アプリ開発でのデータ設計”だけでなく、最近は「データ連携」「マスターデータ管理」「分析基盤構築」など、あらゆる場面でデータモデリングが役立つと指摘。たとえば分析基盤の構築でも、上流のシステムからデータをどう集めて統合するかは、モデルがあればこそ正確に把握できるという視点が強調されました。
また、DAMAが提唱するデータマネジメントのフレームワーク「DMBOK」でもデータモデリングは必須要素。現在のエンタープライズシステムやデータマネジメントでは、モデルがなければスムーズに進まない事例が多いとのことです。
3. 「データモデリング通り」の趣旨と進め方
登壇者: 稲見 浩一(データモデラー/本コミュニティの世話人)
3-1. なぜ今、データモデリングに注目するのか
続いて稲見さんからは、ご自身が20世紀末から「データモデラー」と名乗り、社内外で実践してきた経験談が語られました。実際には独学で苦労しながら方法論を探し当て、コミュニティを通じて多くの先輩・仲間と情報交換を重ねたことでスキルが身についたそうです。
しかし、同じように始めようとする若手やデータエンジニアから「何をどこから学べばいいのか分からない」「基本は分かったつもりでも、いざ現場に入ると困る」といった悩みを頻繁に聞くとのこと。そういった人々を支援し、ベテランとの情報ギャップを埋める場が「データモデリング通り」という狙いだと説明しました。
3-2. 今後の展望:緩やかなコミュニティで実践を共有
稲見さんはデータモデリングの習得段階を「言葉は理解」「基本を学ぶ」「壁を越えて実践できる」の3ステップに整理。特に「壁を越える」段階では、書いてみたモデルを先輩にレビューしてもらう、同レベル同士で練習問題を解くなどの実践が欠かせないと指摘しました。
それに対応するために「データモデリング通り」では今後、Slackなどオンラインの交流や5月に予定している対面でのイベントを企画。ベテラン側も「一方的に教える」ではなく、学びたい人と一緒になってモデリングを試し、暗黙知を言語化し合うようなコミュニケーションの場を作っていきたいそうです。
4. 質疑応答:ツール・組織・海外事例など
イベント後半はQ&Aセッションが行われ、以下のようなポイントが取り上げられました。
海外では日本よりも普及しているのか DAMA Internationalをはじめ海外のカンファレンスでは、エンタープライズレベルでデータモデリングが当たり前の企業が少なくないとの見解。ただし日本でも必要性は高まっており、今後は状況が変わる可能性が大。
モデルが人によって違うのでは?唯一の正解はない? エンタープライズ全体を対象にすればするほど、新しい視点や目的が混ざって多少のバラつきは生じる。ただし業務の基本構造が同じなら、大枠では似通ったモデルになることが多い。
データモデルの作成・維持は誰が担うべきか 単にIT部門だけではなく、業務側を巻き込むことが重要。さらに“全体俯瞰できる業務エキスパート”がいれば望ましいが、そうした人材を発掘・育成するためにもコミュニティが有効。
おすすめのツール 大規模ならERwinやER/Studioなど有名どころが機能的に充実。ただライセンス費用が高いため、初学者や小規模には描画中心の軽量ツールを使うことも多い。正解はなく、規模や目的次第。
全体を踏まえた感想
「データモデリング通り ~仲間と学ぶ実践の場~」は、ベテランから若手まで幅広い層が集まり、すでにコミュニティの萌芽が見えたイベントでした。吉村さんの基調講演で示された“3つの効能”と“多様な使いどころ”は、これからデータモデリングを学ぶ人にとって大きな指針となりそうです。
一方、稲見さんの実体験を交えた「独学の限界を超えるには仲間と一緒に手を動かし、意見交換するのが一番」というメッセージは、多くの参加者が共感したはず。ツールや方法論はもちろん大事ですが、本質は業務理解とコミュニケーションにあると再確認させられました。
今回のキックオフで得た熱量をベースに、今後はSlackでの情報共有や、リアルイベントでのモデリング演習などが予定されています。データ横丁の新しい路地「データモデリング通り」が、ビジネスやシステムを“モデル”でつなぎ、仲間とともに成長していく姿が楽しみです。まさに、単なるテクニックを超えて“業務とデータをつなぐ”第一歩が踏み出されました。
次回の対面イベントやコミュニティ活動を通じて、より多くの人が「モデリングの壁」を乗り越え、手応えある実践へ進めることを期待しています。
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