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「CRE Meetup!ユーザー信頼性を支えるエンジニアリング実践例」イベントレポート
公開
2025-03-30
更新
2025-03-30
文章量
約4169字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2025年3月26日、水曜日の夜。株式会社MIXI オフィス内コラボスペースとオンライン(YouTube)をつなぎ、「CRE Meetup!ユーザー信頼性を支えるエンジニアリング実践例」が開催されました。
CRE(Customer Reliability Engineering)やCS(Customer Support/Success)に携わるエンジニアたちが、ユーザーの信頼をどのように技術によって支えているか。各社の取り組み事例と、チーム連携のリアルな声が共有された刺激的な夜となりました。
1. 管理ツールの権限管理で改善したこと
登壇者: 佐々木 達也(みてね / MIXI)
最初に登壇したのは、株式会社MIXIの家族向け写真共有サービス「みてね」のCREメンバー。 管理ツールの開発・運用に携わる中で、「不要な権限付与や権限管理の不透明さ」に課題を感じたそうです。 具体的には、
各チームが自由に権限を追加しがちで、セキュリティ的な不安があった
権限が拡散して「誰が何を見られるか」が見えづらい
こうした問題を解決するために、権限を棚卸しし、不要権限を剥奪する施策を実施。さらに、権限の設定がコードで改変されたときにリーダーが気づけるようGitHubのコードオーナーを活用するなど、自動的な監視仕組みを整えました。 また、権限の状態を自動テストで確認する取り組みも紹介されました。 「どのロールがどのパスにアクセスできるか」 を一覧化し、実際のアクセスでステータスコードをチェックすることで、誤った権限や古いルートを発見できるようになったとのこと。 結果として、
古い不要画面の削除
過剰な権限付与の是正
アクセス制御が漏れていたパスの特定 といった副次的なメリットもあったようです。 「セキュリティ面での安心感向上につながっただけでなく、管理ツールの整合性も高まった」という結論で、「引き続き継続的な見直しが必要だが、大きな一歩を踏み出せた」とのことでした。
2. 管理機能の技術選定:5年後、現場は耐えたか?
登壇者: 大高 光気(スマートバンク)
続いて登壇したのは、キャッシュレス家計簿アプリ「B/43 現ワンバンク」を提供するスマートバンクのCREエンジニア。 5年前に管理機能を作る際、「Ruby on Railsのアクティブアドミンなどでサクッと作るか? それともSPAでしっかり作り込むか?」という二択で悩んだ話からスタート。 結果、React Adminを使ったSPA方式を採用し、APIとの分離や作り込みの拡張性を選択した。じゃあ現場の今はどうなっているのか? 結論としては「たしかに作り込みしやすく、会社としてのメリットが大きかった」とポジティブな評価でした。
たとえば、本人確認や審査の管理画面が自由度高く作り込めて、生産性向上につながった
React/TypeScriptの経験者が多く、障壁はあまりなかった
一方で、大量データのページネーションが重たくなったり、管理機能が肥大化したりなど、成長ゆえの課題も現れている
今後は、不要画面の分割・廃止やバージョンアップへの対応が引き続き課題とのこと。「5年越しの技術選定でも恩恵は継続しているが、規模拡大に合わせてさらに再編が必要」とのメッセージが印象的でした。
3. CSオンボーディング改善におけるCRE的アプローチ
登壇者: 子田 周平(ログラス)
3番目はB向け経営管理SaaS「ログラス」を開発するログラス社のCREエンジニア。 テーマは 「CSオンボーディング改善におけるCRE的な視点」 。ログラスは、導入企業に対して初期設定や操作レクチャーといったオンボーディング支援を行うが、それが非効率だった場合、CSチームが疲弊し、ユーザーが活用しきれずに離脱リスクが高まる。 そこで外部システムによるタスク管理導入やプロジェクト進捗の可視化を進めて、お客様と一緒に「ここまで設定終わりましたね」「次はこの操作が必要ですね」と共有する仕組みを整備した。 「プロダクト開発の経験を持つエンジニアがCS業務と同じ視点で検証する」という役割がCREチームにあったとのこと。技術観点からSaaSの連携やSSO周りをチェックし、CSの業務を正しく自動化するための要件を詰めた結果、短期的には見送りになるシステムもあったが、早期にコストを回避できたり、より良いシステムを見つけて移行できた。 結論、「エンジニアリング視点でCSの課題をともに検証し、ロジカルに意思決定することで、サービス導入がスムーズに進む。結果的に顧客満足度や継続利用につながっていく」という洞察が得られた。
4. お問い合わせ対応の改善取り組みとその進め方
登壇者: 星野 将(みてね / MIXI)
ふたたび「みてね」からの発表。前者の「管理ツールの権限改善」に続き、今度はCS向け問い合わせ対応のアプローチを紹介。 そもそも「ユーザーログインできない」といった問い合わせが多いが、背景は多岐にわたる。アプリのUIが不親切だったり、認証フローが分かりづらいなどの構造的課題もあれば、単純にユーザーの誤操作、回線不調なども含まれる。 そのなかでまずCRE自身がCS留学的に問い合わせ対応を体験することで、マニュアル通りにすれば対応可能な領域は「スクリプト化や自動化で置き換えられる」ことを実感。メモ書きのような形でプライベートコメントを自動記入する仕組みを試作し、CS担当の返答が同じ内容なら自動化をさらに進めるという検証プロセスを実施している。 ただ実際の問い合わせフローは想定外の多様性があり、まだ精度があまり上がらないのが現状。そこから問い合わせ導線の最適化やUI/UXを改善する方向にシフトすることで、そもそも問い合わせ不要の状態を目指している。 「CS視点での根本課題を技術で解決するには、どこまで本質的なUI/UX改善を行うかと、どこまでAI・ML・自動化に踏み込むかの両輪が必要」と語られていたのが印象深い。焦らず段階的に取り組むことが重要とのこと。
5. CREとCSチームのコラボレーションで事業を成長させる
登壇者: 佐藤 友信(スマートバンク)
最後に締めくくったのは、再びスマートバンクからCREチームとCSチームの連携ポイントをまとめてくれた佐藤氏。 テーマは「戦略と業務効率」の2視点で事業を成長させるアプローチ。差別化のためにはユーザーを不安にさせないサポートと安定稼働が必須。一方で業務負荷を下げないと拡大に伴ってコストが膨れ上がるリスクがある。 そこで、徹底した見える化に注力。お問い合わせ件数やトレンドを分類し、事業KPIとの関連性を可視化する。さらに、課題のインパクト評価をCREとCSが共同で行い、優先度を整理。課題解決後は「問い合わせがちゃんと減ったか」を週次でチェックし、データドリブンな改善サイクルを回している。 「事業が大きくなるほど問い合わせも増えるが、そこをスケールさせずに効率化するには“どこで”何を直すべきか可視化できる環境が欠かせない」と強調。CRE+CSの連携でユーザー満足度と業務効率を両立させ、結果的に事業成長に貢献していることが印象的でした。
全体を踏まえた感想
今回のイベントでは、アプリのユーザー体験とCS担当の効率、そして事業成長の好循環を生み出すため、各社がCREならではの視点をどう取り入れ、テクノロジーをどう活かしているかが共有されました。
「誰がどの権限を持つか」をクリアにすることで安心安全な管理画面を運用できる
SaaSのCSオンボーディングをエンジニアリングで支援し、顧客の導入成功を高速化
問い合わせフローを見極めて自動化や仕組みづくりへ展開し、CSチームの負担を低減
戦略的に見える化して課題を絞り込むことで、優先度の高いポイントに力を注げる
いずれの事例も、CREとCSの距離が近いからこそ実現できている印象でした。各社とも、問い合わせを減らす本質的改善(UI/UX)と、自動化によるサポート効率向上を組み合わせ、「ユーザーが困る前に手を打つ」姿勢が共通していました。
また、質疑応答では 「CS領域のIT化」 が意外に奥深く、権限管理・自動返信・外部システム連携など多彩なテーマが議論になりました。CSの現場とエンジニアを橋渡しできるCREが、細かい仕様やセキュリティにも気を配りながら意思決定をリードする。そんな姿が、今後ますます求められていくと感じます。
これらの具体事例は、単なる「問い合わせ作業の効率化」にとどまらず、プロダクトそのものの品質とユーザー満足度を根底から支えることがわかりました。CREという概念はまだ新しく、SREほど定着してはいないものの、事業を加速するポテンシャルを大いに秘めています。各社の取り組みをモデルに、さらに幅広いコミュニティが形成されていくのが楽しみです。
会場でもオンラインでも、多くの質問や共感が寄せられていたのが印象的でした。エンジニアリングとサポートが協調してユーザー信頼性を創出するというCREの可能性を、改めて強く感じさせるイベントだったと思います。
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