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「Kubernetesで実践する Platform Engineering - FL#88」イベントレポート
公開
2025-03-30
更新
2025-03-30
文章量
約3433字
2025年3月25日、Forkwell Library シリーズの第88回として「Kubernetesで実践する Platform Engineering」というオンラインイベントが開催されました。
テーマとなった書籍は『Kubernetesで実践する Platform Engineering』(通称“PEK本”)。Kubernetes上でプラットフォームをどのように構築し、どんな技術・組織的アプローチを取れば、開発チームが“本来の価値創造”に集中できる環境を用意できるのかを体系的に解説した一冊です。
今回のセッションでは、本書の訳者の一人である nwiizo 氏が登壇し、以下のようなポイントを丁寧に紹介しました。
Kubernetesそのものは「プラットフォーム」ではないが、プラットフォーム構築の最強基盤となり得る
プラットフォームエンジニアリングを支える主要ツール(Crossplane、vCluster、Argo Rolloutsなど)の概要
書籍に登場する章ごとの内容と、実際の導入や運用時の“ハマりどころ”
プラットフォームエンジニアリングで大事なのは、あくまで「開発者体験の向上」という顧客視点
参加者からはプラットフォームチームが抱える“あるあるの悩み”が続々と寄せられ、CrossplaneやvClusterの詳しいユースケース、あるいはArgo Rolloutsの段階的リリースに関する実践知などへの質問が盛り上がりました。以下、当日の発表・Q&Aの様子をかいつまんでレポートします。
書籍『Kubernetesで実践する プラットフォームエンジニアリング』の狙い
はじめに、本書の背景と著者の意図が語られました。
プラットフォームエンジニアリングは、開発チーム(社内でいえばアプリケーション開発者)を“顧客”として捉え、彼らが安全かつ効率的にアプリケーションをリリースできる「舗装された道」を整備する考え方です。その道のりをKubernetesで実現するために、
Kubernetesの周辺ツールを駆使し
プラットフォームを自社固有の“製品”として捉え
組織が成熟度に応じて進化できるよう、段階的かつ実践的にアプローチする
といったプロセスを解説するのが、PEK本の大きな特徴とのこと。
訳者として携わったnwiizo 氏も「理論だけでなく、アプリケーション開発者の“痛み”を正面から吸収する実践志向の一冊」と強調していました。
クロスプレーン (Crossplane) でマルチクラウドを一元管理
発表の中でも特に注目を集めたのが Crossplane。 「Kubernetesのカスタムリソースとしてクラウドリソースを管理できる」 というのが最大のポイントで、AWS・GCP・Azureなど、複数クラウドにまたがるインフラをKubernetesのAPIで扱えるようになります。
例えば、RDSやCloudSQLなどのデータベースが必要なとき、これまでは各クラウドプロバイダーの管理コンソールやTerraformなどを使っていたところを、CrossplaneのCRD(カスタムリソース)として postgresqlinstance.yaml
のようなマニフェストを定義して適用すれば、Kubernetesのリソース感覚でプロビジョニングが可能になるわけです。
とはいえ、「完全にベンダーロックインが解消されるわけではない」「まだユースケースを選ぶ部分もある」といった現実的な指摘もあり、ツールとしてのポテンシャルを理解しつつも、どこまで活用するかは各社の要件や組織文化次第とのことでした。
vCluster で仮想化されたクラスターを実現
続いて紹介された vCluster は、1つのKubernetesクラスタ内に、仮想クラスタをいくつも作る仕組みです。
開発チームごとに「ネームスペース+RBAC」だけだと隔離が甘い or 運用しづらい
でも実クラスタを乱立するほどのリソースやコストは避けたい
という悩みに対し、「仮想のコントロールプレーン」をネームスペース単位で立ち上げる ことで、あたかも別クラスターのように運用できるのが強みだそうです。 セキュリティ的・権限的にもより細かくコントロールしやすく、マルチテナントなプラットフォームを綺麗に分割できるとのこと。「チームAが自由に使えるが、チームBからは完全に隔離される“仮想クラスター”が欲しい」といったユースケースに対応できるのは魅力的です。
Argo Rolloutsでプログレッシブ・デリバリー
さらに、第8章に登場する Argo Rollouts も注目を集めました。 Argo CD で有名なArgoプロジェクトの一部ですが、こちらは 「ブルーグリーンデプロイやカナリアリリースなど、ステップを踏んだ新バージョンの導入」をKubernetesネイティブに実現する ツール。メトリクスやコンディションをモニタリングして一定条件を満たせば自動的に昇格、ダメならロールバック、といった高度な制御が可能になります。
nwiizo 氏は「プログレッシブ・デリバリーの概念は色々なツールで語られているが、Argo RolloutsはKubernetesの馴染みあるマニフェスト感覚でやりやすい」と言及。書籍でも各リリースパターンの具体例を丁寧に追っているので、実践のハードルを下げてくれるとのことでした。
質疑応答:認知負荷への対策、プラットフォームの測定、使いこなしの実際
イベント後半のQ&Aでは、以下のような質問が印象的でした。
「Kubernetesマニフェストの認知負荷が高いのをどう軽減する?」 → アドミッションWebhooksで統制を取る、開発者にはダッシュボードやCLIなど別の抽象度で操作してもらうなど、“内部は複雑でも見せ方を最適化” する工夫が要る
「Crossplaneは本当にベンダーロックイン解消になるの?」 → 全ユースケースを満たせるわけではないが、“クラウド固有のAPIをある程度隠蔽”できるメリットは大きい。とはいえ、組織に合うかは要PoC
「vClusterでチームごとに仮想クラスタを与えるのは現実的?」 → メモリ・CPUなどリソース管理の仕方、仮想クラスタのライフサイクル管理など課題はあるが、Namespace + RBAC 以上の隔離や自由度を求めるなら有用
参加者の関心は「具体的にどこまで使いこなせるか」「導入した後の運用ルールや組織調整」などに集中しており、まさにプラットフォームエンジニアリングの“実地”的な側面が話題になっていたのが印象的でした。
全体を踏まえた感想
プラットフォームエンジニアリングという言葉は近年さまざまな場面で目にしますが、実際に組織内で構築しようとすると「Kubernetesはプラットフォームそのものではない」「開発者体験を損ねるプラットフォームになっては本末転倒」「思い描いていたツール導入が、かえって複雑化を招く」という矛盾が生じがちです。
今回のイベントでは、PEK本の訳者であるnwiizo 氏が、CrossplaneやvClusterなどの代表的なユースケースを例に「何を実現したいのか」「どう技術を活かすのか」という本質的な観点を示してくれました。 単に「最新ツールを取り入れよう」という短絡的な動機ではなく、「顧客(=アプリ開発者)がどんな痛みを抱えているのか」「その痛みをプラットフォームでどう解決できるか」を丁寧に吸い上げることこそがプラットフォームエンジニアリングの肝だと、改めて感じます。
また、クバネティスを“プラットフォームの設計資源”として使いこなすための参考書としても、今回の書籍は非常に充実しています。 エンジニア個人としても、組織の運用レベルとしても、「プラットフォーム構築」とは最終ゴールではなく常に更新されていく“生き物”。その継続的なアップデートを支える知見やツールが一体どう結びついているのか――このイベントを機に書籍を読み進めてみると、より一層理解が深まるはずです。
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