🚙
HondaとGSユアサが共に創る、新しい時代のエネルギーソリューション ~HGYBってどんな会社?~ レポート
公開
2025-03-16
更新
2025-03-16
文章量
約3606字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
はじめに
2025年1月21日、京都駅周辺の会場とオンライン配信を通じて開催された「HondaとGSユアサが共に創る、新しい時代のエネルギーソリューション ~HGYBってどんな会社?~」は、電動化に不可欠なリチウムイオンバッテリーの“最先端”を垣間見せるセミナーでした。
登壇したのは、ホンダ技研工業株式会社(以下、Honda)と株式会社GSユアサが共同で設立した合弁会社「株式会社Honda・GS Yuasa EV Battery R&D(以下、HGYB)」の社長・山本康一氏、そして実際に研究・開発の現場で奮闘する若手エンジニアたち。いま、世の中では電動車へのシフトが加速し、バッテリー技術への期待値が高まるばかりですが、同時に課題も山積み。今回のイベントでは、なぜHondaはGSユアサと手を組んだのか、そしてHGYBという“新会社”が目指す未来像や働き方が語られました。
この記事では、イベント全体の流れに沿って、各セッションのポイントを整理します。「電動化戦略のカギ」と評される車載バッテリーが、実際どのようなアプローチで研究開発されるのか、その現場はどんな雰囲気なのか――その一端が鮮明に伝わってきたセミナーだったのではないでしょうか。
HondaとGSユアサが共同出資する“HGYB”とは?
セミナー冒頭、まずはHondaの電動化戦略とHGYB設立の背景をおさらいする時間が設けられました。説明を担当したのは、本田技研工業の大金孝氏。彼は、Hondaの電動化を推進するうえで「バッテリーが鍵になる」という事実を改めて強調します。
Hondaが描く電動化とバッテリーの重要性
近年、「脱炭素」「カーボンニュートラル」というフレーズが産業界を席巻していますが、Hondaにおいても“2050年 カーボンニュートラル”は明確な経営目標。特に、電気自動車(EV)の普及に不可欠なのが大容量リチウムイオンバッテリーですが、その研究・開発・製造には巨額の投資と高度なノウハウが必要とされています。 そこで登場したのがGSユアサとの協業。GSユアサは電池メーカーとして古くから蓄電池技術をもつ一方、HondaはEVだけでなく燃料電池車(FCV)など多様な電動車両を開発してきた実績があります。両者の強みを融合しよう――これが、HGYB設立の根底にある考え方です。
HGYBのミッションと事業範囲
次いで登壇したのは、HGYBの代表取締役社長を務める山本康一氏。 「ただEV用バッテリーを開発するだけではなく、バッテリーがもたらす新たな価値を創出する」ことがHGYBの大きなテーマだと言います。エネルギー密度や急速充電性能の向上はもちろん、サプライチェーン全体の低環境負荷化やセカンドライフ(リユース)への対応などを総合的に考える必要がある。そのため、研究開発から製造・リサイクルまで一体的に捉えるバリューチェーンを構築しようとしているのがHGYBの大きな特徴とのことです。 また、HGYBでは「車載用バッテリーの設計」「それを量産化する技術」「外販を視野に入れた大規模展開」など広範な領域を扱うため、GSユアサ(主に化学・製造技術)とHonda(自動車開発や運用ノウハウ)の協力が欠かせないのだそう。山本社長が強調していたのは、この両社のノウハウをがっちり掛け合わせることで、単なる「電池の性能向上」だけにとどまらない、新しいエネルギーソリューションを創り出すという熱意でした。
現場エンジニアが語るHGYBの実像
本セミナーの後半は、HGYBで実際に開発を進める若手エンジニア2名(竹内啓士氏・上宮瑞央氏)と山本社長によるパネルディスカッション。事前質問への回答を中心に、現場のリアルを聞ける貴重な時間となりました。
開発スタイルと職場の雰囲気
まず印象的だったのが、「意外にも少数精鋭」という点。HGYBは現時点で約160名程度で構成されており、開発チームの規模もコンパクト。その結果、各自が幅広い業務を担当し、 「開発の裁量が大きい」「数人の打ち合わせですぐに意思決定できる」 というスピード感が生まれているそうです。 職場の雰囲気については、次のような声が挙がっていました。
竹内氏: 「1人ひとりの役割が大きい分、コミュニケーションも密。必要があればすぐに声を掛けられるし、風通しは良いと思う。」
上宮氏: 「私のようにバッテリー材料の知見が浅くても、先輩たちが丁寧に教えてくれるし、議論にも積極的に参加しやすい。意見を言いやすい文化がありがたい。」
HondaとGSユアサという異なる企業文化が混じり合ったことで、「会議の進め方や意思決定の仕方が最初は少し違和感もあったが、最近はお互いの良いところを取り入れ合いながら融合が進んでいる」というコメントもありました。
具体的な技術課題と世界への挑戦
では、具体的にどんな研究課題があるのか。
上宮氏は「バッテリー材料の選定や急速充電性能・耐久性のトレードオフ」などを挙げ、「個別の材料特性は良くても、最終的にパックとして機能させるには総合的なバランス取りが重要」と語ります。竹内氏は「競合の中国CATLやLGに対して、必ずしもエネルギー密度だけで勝負するわけではない。車体設計や耐久要件など自動車の知見を活かし、パッケージ全体で価値を高めるアプローチを重視したい」と強調しました。
全固体電池や新たなセル構造の話題も上がりましたが、現時点では「まずは既存のリチウムイオン電池をブラッシュアップし、『電池の製造技術』と『実際の車体組み込みノウハウ』を連動させることで差別化を図りたい」とのこと。さらに充放電サイクルのデータ解析や寿命予測モデルなど、ソフトウェア領域の重要性も高まっており、データサイエンス人材の確保も大きな課題だといいます。
キャリアパスや働き方の柔軟性
HGYBは、あくまでHondaまたはGSユアサからの出向という形です。Honda側では、元々燃料電池やエンジン開発をしていたエンジニアが「バッテリーをやりたい」と手を挙げて移り、HGYBで技術を学んだ後に他の部門でキャリアを広げるケースも想定されるとのこと。
働き方も、フレックスを主体にした柔軟な勤務体制で、 「必要なときは現場でがっつり議論し、集中するときはリモートも選択する」 といった運用が当たり前になりつつある様子。京都駅周辺にサテライトオフィスを設けたり、GSユアサが拠点を持つ滋賀などと連携したりと、物理的な働き場所も多様化しているという話でした。
全体を踏まえた感想:電動化の要を担う「挑戦の場」
本セミナーを通じて、「電動化の時代、その核心にいるのはバッテリーだ」という自明の事実が改めて示されました。
けれども、単に電池セルのエネルギー密度を高めるだけではなく、生産技術やモジュール設計、さらにはリユース・リサイクルを含むバリューチェーン全体を視野に入れることが不可欠――これがHGYBが目指している姿です。
GSユアサの蓄電池技術とHondaのモビリティ技術の融合からは、「車とバッテリー」の垣根を超えた新しい価値創造が期待されています。
セミナーを聴く限り、研究テーマは多岐にわたるため、素材や構造設計、制御アルゴリズムなど多様な背景を持つエンジニアが一堂に会して、日々試行錯誤している様子が目に浮かぶようでした。
働き方の面でも、 “柔軟さと主体的な挑戦” がキーワードになっているようです。大企業の合弁会社でありながら、少数精鋭でスピード感を保ち、さらにフレックスやリモートを活用してパフォーマンスを最大化する――そんな環境は、エネルギッシュな開発を望むエンジニアにとって魅力的ではないでしょうか。
加えて、「Hondaだけでなく、広くバッテリーの外販も見据える」という戦略は、海外勢との技術競争でどう勝ち抜くかを問われる意味でも刺激的です。
画期的な技術を形にするのは容易ではないものの、HGYBがその“挑戦の場”を提供しているというのは、エンジニアにとって大きなやりがいになるでしょう。
新会社としての歴史はまだ浅いものの、だからこそ経験のあるベテランから若手までが縦横無尽に議論を交わし合い、技術的な壁を乗り越える――そんな雰囲気が、今回のイベントから強く伝わってきました。
「次世代のエネルギーソリューションを自分たちの手でつくっていきたい」「世界の競合に引けを取らないバッテリーを育てたい」というエンジニアにとって、HGYBはまさに“チャレンジの土俵”になり得るかもしれません。
これから先、クリーンなモビリティ社会がどのように進化していくのか、その中核にこの合弁会社がどんな成果を出していくのか――注目せずにはいられない、そんな余韻を残すセミナーでした。
Yardでは、テック領域に特化したスポット相談サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポット相談をお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。