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【イベントレポート】品質改善に終わりはない:エンジニアのためのベストプラクティス
公開
2025-03-16
更新
2025-03-16
文章量
約5242字
はじめに
ソフトウェア開発の現場で日々頭を悩ませることのひとつが「品質改善」です。仕様変更やリリースのサイクルが短くなる一方で、テストの負荷は上昇し、新機能と既存機能の両立に四苦八苦する――そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
2025年3月7日に開催された「品質改善に終わりはない:エンジニアのためのベストプラクティス」は、まさにこうした現場の課題を深掘りするオンラインイベントでした。
Qiita株式会社と、テスト管理ツール「QualityForward」を提供する株式会社ベリサーブが共同で企画し、エンジニアをはじめとする多様な参加者が集結。テスト管理の基本から、実際に試してみた具体的な事例、そして将来に向けたパネルディスカッションまで幅広い内容が語られました。
本記事では当日の様子をレポートしながら、登壇者の思いや実践知をまとめてお届けします。
イベント概要
なぜ品質改善がテーマなのか?
近年、開発手法はウォーターフォールからアジャイルへとシフトし、サービスは常に機能を追加・変更して成長するようになりました。ところが、テスト工程はそのペースに追いつかず、手戻りやバグ対応に膨大なコストを費やすケースが後を絶ちません。さらに、一度問題が生じるとユーザー体験や運用リソースにも影響が広がり、ビジネスそのもののリスクに直結します。
そこで「品質改善を地道に続けていくには何が必要なのか?」を考えるために、本イベントが企画されました。実務の最前線で活躍するメンバーが、テスト戦略の重要性や、具体的なツール導入の事例を共有してくれるのが特徴です。
プログラムの全容
イベントは、以下の流れで進行しました。
19:00-19:30 オープニングセッション
「アジャイル時代のスマートなテスト管理 ~テスト資産の最適化と活用~」 (株式会社ベリサーブ:朱峰 錦司)
19:30-20:10 ライトニングトーク(LT)4本
「アジリティを高めるテストマネジメントの考え方」 (テックタッチ株式会社:@makky_tyuyan)
「テスト作成に悩む人へ送るテストの心得【テストは彫刻】」 (株式会社Works Human Intelligence:@Syahu_Writer)
「QualityForwardを使ってみた」 (@aoi36e)
「エクセルでテストしていた民がQualityForwardを試してみた」 (@Tyamamoto1007)
20:10-20:50 パネルディスカッション
テスト管理や品質向上施策の現場知を、LT登壇者4名+ベリサーブ社員+Qiita社員で議論。
20:50-21:00 クロージング
イベントを総括し、参加者への感謝やアンケート案内。
本レポートでは、オープニングセッションからパネルディスカッションまでを順番にご紹介します。
オープニングセッション
アジャイル時代のスマートなテスト管理
最初に登壇したのは、株式会社ベリサーブの朱峰 錦司さん。テスト専門企業のプロダクトマネージャーとして、日々「QualityForward」などのテスト支援ツールを開発している立場から、アジャイル時代にテスト管理をどう進めるかを語りました。
アジャイル化で増すテスト負荷
アジャイルでは短いリリースサイクルが続くため、改修のたびにリグレッションテストが必要になるという根本的な課題が存在する。さらにテスト担当者にとっては、ドキュメント不十分な状態でプロダクトを触って確認しなければならない場面も増えがち。
テスト資産をマネジメントする
1度きりのテストに追われるだけではなく、「テストケース」や「テスト結果の履歴」こそ資産として扱う発想が欠かせないと指摘。これらを継続的に蓄積し、必要に応じて再利用・分析することで、生産性を飛躍的に高められるのではないか、という考え方です。
テスト管理ツールの活用
従来Excelで管理していたケースが多いが、テストケース数が膨大になると管理が破綻しやすい。そこで「QualityForward」のようなツールを使うと、バージョン管理やチームでの同時編集、テスト結果の可視化といったメリットを得られる。無料プランもあるため、まずは小規模プロジェクトやサブプロジェクトで導入してみるのをおすすめする、とのこと。
オープニングでは、「テスト管理=面倒くさいタスク」から、プロダクトの長期成長を支える重要な仕組みという転換を促すメッセージが印象的でした。
LT①:「アジリティを高めるテストマネジメントの考え方」
テックタッチ株式会社のQAエンジニアである@makky_tyuyanさんが、過去の受託開発からQA専任に至るキャリアを振り返り、「テストを後回しにした結果、どれほどの失敗や疲弊を生んできたか」を赤裸々に語りました。
過去の自社SE時代の課題
受託案件では納期が厳しいとき、テスト工程を削りがちだった。結果的にプロジェクトが炎上し、リリース後も不具合対応に追われ、メンバーは疲弊。
品質保証の概念を知る大切さ
その後、品質専門のコンサルタント企業などを経て、QC(品質管理)やQA(品質保証)の重要性を体得。計画や検証が疎かになるほどにプロダクトの将来価値まで損なうと痛感。
アジリティを高めるマネジメントのポイント
納期のために品質を犠牲にするのではなく、短期であってもテスト計画はしっかり別枠で確保する。必要最小限のドキュメントやツールを整え、ビジネスリスクとプロダクトリスクの両面を見据える――こうした考え方が「テストはやるだけ」から「価値を生む活動」へ切り替える鍵だとまとめられました。
LT②:「テスト作成に悩む人へ送るテストの心得【テストは彫刻】」
続いて登壇したのは、株式会社Works Human Intelligenceに所属する@Syahu_Writerさん。長年QAに携わり、 「テストケースは0から作るのではなく、あらゆるパターンから“不要を削り出す”作業だ」 というユニークな視点を提示しました。
全数テストは現実的でない
4択10問で100万通りのテストパターンが存在する――のように、全数テストには膨大な手間がかかる。そこで重要になるのが、境界値分析や同値分割などのテスト設計技法でうまく範囲を削り、最適解を導くこと。
「彫刻」の発想
何もないところからの追加作業ではなく、「巨大なブロック(全パターン)から不要部分を彫り出す」イメージを持つと、テスト作成の心理的なハードルが下がるのだそう。
テストの目的を明確に
とはいえ、見境なく削ればいいわけではない。テスト対象とする機能・リスクをはっきりさせたうえで、不要部分をそぎ落とす。それが品質向上と効率化を両立させるコツと、熱を込めて語られました。
LT③:「QualityForwardを使ってみた」
フリーランスでプログラマーやCGアーティストとして活動する@aoi36eさんは、普段の案件でテストケースをExcelで管理していたが、ほとんど“仕方なく”やっていたと告白。アドベントカレンダーでたまたま見つけたQualityForwardを実際に試してみた体験を共有しました。
ファーストインプレッション
Excel管理に慣れた人にも馴染みやすいシンプルなUIで、かつチュートリアルやウィザードが豊富。テスト要求のツリー構造があることで、テスト観点を抜け漏れなく把握できるのが新鮮だった。
テストフェーズとサイクル管理
リリースやバージョンごとにテストを繰り返す際、フェーズを明確化できる点が便利。過去のテストケースをそのまま再利用しやすく、 「テストが資産化する」 実感を得られたとのこと。
懸念点
Excelほど柔軟な連番生成や書式設定はまだ弱い印象。ただし手戻りが発生した際も、ツール上でテスト結果を参照できるため、総合的には十分メリットが大きいと強調していました。
LT④:「エクセルでテストしていた民がQualityForwardを試してみた」
最後に登壇したのは、メディア企業でエンジニアを務める@Tyamamoto1007さん。これまで複数の案件でExcelベースのテスト管理を経験し、「なぜかファイルが重い」「ファイルが先祖返りして地獄」など苦労した点を引き合いに出しつつ、QualityForwardの魅力を語りました。
Excel管理の不便さ
主に以下の悩みを挙げています。
シート上で誤ってセルを消し、数式が壊れる
進捗集計が重くなりがち
メール添付でデータが分散し、バージョン管理が崩壊
QualityForwardの導入ハードル
アカウント作成だけで、すぐに無料プランを始められる。英語のフォーム入力や契約ステップがないため、現場視点で「さっと導入して試す」感覚が掴みやすい。
運用への期待
3000件というテストケース数上限はあるが、まずは小規模プロジェクトやサブフェーズで採用し、 「どれだけExcelのイライラが解消されるのか」 を体感してほしいとアピール。繰り返し利用するプロダクトこそ、ツール活用の効果が明確に出るという見解を示しました。
パネルディスカッション
LTの後は、4名のLT登壇者に加え、株式会社ベリサーブの朱峰さん、モデレーターとしてQiita株式会社の清野さんを交えたパネルディスカッションが行われました。以下、大きく2部に分けて議論が展開されています。
品質保障・管理が進まない現場観点
まずは「テストを単なる作業と捉えてしまい、計画や設計が疎かになった結果」の事例が共有されました。受託案件でのテスト工程削減や、ドキュメント不十分なまま突入するアジャイル開発など、いずれも“知らないがゆえに”手戻りと疲弊が生まれがち。
プロダクトリスク vs プロジェクトリスク
不具合を防ぎたい一方で納期を守るプレッシャーがある――そのバランス取りが難しく、結果的にテストが後手に回るケースが多い。
まずは小さく改善を回す
一足飛びに完璧な品質体制を築くのは困難。まずは小さなプロジェクトや短期テストで、結果を測定する泥臭いステップが大事だという声が相次いでいました。
テスト管理ツールはどう使う?
後半は、各LTでも言及されたQualityForwardの感想や、テスト管理ツールを使うメリット・デメリットに焦点が当たりました。
無料プランによる導入しやすさ
「商品目当てでアドベントカレンダーを見ていたら出会った」「期間制限がなく、3000件まで無料なのがとにかく助かる」といった生々しい意見が印象的。
機能面でのリクエスト
エクセルのような操作感には及ばない箇所(検索・セル書式など)があり、現時点では一部不便との声。しかし、Excelで起きがちな事故(セル削除・集計崩壊)はツールで防げるのも事実。
使いどころ
一度きりの単発案件ではオーバースペックになりやすいが、複数フェーズや長期改善が見込まれるプロダクトなら、テスト資産の有効活用に繋がる。早い段階で導入するほど効果を得られるため、 「まずは小さい段階からツールを試してみる」 ことが推奨されました。
総括:品質改善の旅は続いていく
2時間にわたるセッションを通して浮き彫りになったのは、**「品質保証やテスト管理を単なる作業で終わらせず、プロダクトの未来を支える活動として位置付ける」**という姿勢でした。
LT陣から学べること
テストケースを“彫刻”のように削っていく発想、品質と納期の両リスクに目を向ける重要性、そしてテスト管理ツール導入時のリアルな悩み――いずれも「明日からの現場」で試せるアイデアや注意点ばかり。
テスト管理ツールの真価
一回のテスト作業を効率化するだけでなく、継続的な開発サイクルのなかでテスト資産をどう活かすかがカギ。Excelが悪いわけではないが、大規模や繰り返しのシナリオにおいてツール活用のメリットは大きい。
まずは小さく始めよう
「興味はあるが、一歩が踏み出せない」という現場も多いかもしれません。とはいえ、無料プランやコミュニティ情報をうまく使えば、そこまで大きなリスクなく始められるはず。テスト結果を積み上げる一歩が、将来の品質を左右するという熱いメッセージが繰り返し強調されていました。
本イベントのタイトル通り、「品質改善に終わりはない」のかもしれません。しかし同時に、この終わりなき道はプロダクトを強く育てるチャンスでもあります。アジャイル開発や長期運用が当たり前となった今こそ、日々のテストを通じて得られる資産を大切に扱い、現場の負荷を減らしながらユーザーに最良の体験を届けたいものです。
長く続く品質改善の旅に興味を持たれた方は、ぜひ今回登壇された皆さんのブログやQiitaの記事をチェックしてみてください。現場で実践するためのヒントが、きっと見つかるはずです。
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