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「コードレビューどうしてる? 品質向上と効率化の現場Tips共有会」イベントレポート
公開
2025-03-13
文章量
約3982字
ソフトウェア開発の現場において、コードレビュー(プルリクエストレビュー)は品質向上やチームの効率化に欠かせないプロセス。
しかし、チーム構成や文化、事業フェーズなどによって“どのように行うか”は多種多様で、明確な正解を導きにくい部分でもあります。そこで2025年3月6日に開催された「コードレビューどうしてる? 品質向上と効率化の現場Tips共有会」では、4名のエンジニアが各自の実践例と学びを共有しました。
以下では、それぞれのセッション内容や共通して語られたポイントをまとめ、最後に全体の感想を述べます。
1. 「良いコードレビューとは」
発表者: 株式会社 Speee エンジニアリングマネージャー 石井 秀明 (@danimal141)
セッション概要
石井氏は「良いコードレビュー」を「事業の成長を加速し続けるための仕組み」と位置づけました。多くのエンジニアが日々直面する“レビュープロセス”を、単に「書式ミスを探すもの」ではなく、「プロダクトと組織を継続的に健全化する手段」として捉える視点が印象的です。
- 最初に見るべきは「開発の目的・完了条件」
- コードが正しく要件を満たしているか。
- 変更前後で悪影響を及ぼす箇所がないか。
- 事業やユーザーにとって価値があるか。
- “コード”そのものを表面的に見るだけでなく、ビジネス要件やドメイン知識と紐づけた“筋の良さ”を確認するのが肝要と語りました。
- レビュアー視点:「なぜそれが良くないのか」を丁寧に伝える
- 人ではなく、あくまでコードに対するフィードバックを行う。
- 好みレベルの指摘は自動化ツール(リンターなど)で解決し、実装理由や今後の拡張性に関わる部分を重点的に。
- 「ここは良い!」というポジティブな点も積極的に共有することで、若手の学びを促し、チーム全体のナレッジを活性化する。
- レビューイ視点:自分が未来に触るならどう思う?
- コードの意図や背景を説明できないほど“曖昧”な設計なら、一度立ち止まって再整理したほうが生産的。
- 鋭い指摘に落ち込まず「資産になる学び」だと捉える。
“コードレビュー=プロダクトへの投資”という捉え方が随所に感じられるセッションでした。
2. 「ぼくらのPRレビューフロー改善奮闘記」
発表者: 株式会社Works Human Intelligence Group Manager 丸山 三香子 (@moromi25_)
セッション概要
大手企業向け人事システム「カンパニー」の一部機能を担当する開発チームが、約2年にわたってプルリクレビューの運用を試行錯誤してきた事例。少人数チームと機能強化が多くプルリク数が多いチームという2種類の開発スタイルの中で、モブレビュー・全員参加・非同期レビューなどさまざまな方法を試し、得られた知見を紹介しました。
- 最初:マネージャー1人がレビューを全担当
- メンバーの負担は低いが、マネージャー多忙によるレビュー遅延が頻発。
- さらに、学習機会がマネージャーに集中してしまう問題が発覚。
- 全メンバーでモブレビュー
- 毎日朝会の最後に“レビュー時間”を設け、一斉に確認。
- 遅延は激減、知識共有が促進され、全メンバーが成長できる。
- しかし、表面的なレビューで終わりがちになり、複雑なドメインロジックのチェックが甘くなるケースも。
- 非同期レビューに切り替え(全員アプルーブ必須)
- レビューの質は向上するが、待ち行列が増えて再び遅延の温床に。
- レビューを分散させることで個別に時間を取れる一方、タイミングが合わず2週間もマージされない事例も。
- 現在:チームごとに手法を分化
- チーム1は再びモブレビューへ。
- チーム2は「1営業日以内に非同期でレビュー」+「残りはモブで対応」というハイブリッド運用。
ポイントは「チームのフェーズや人数、プロダクト特性に応じて、やり方を変える」ことに尽きる。どんなレビュー方式にも長所と課題があり、その時々の状況を踏まえてフローを柔軟に進化させる姿勢が印象的でした。
3. 「AIレビュー導入によるCIツールとの共存と最適化」
発表者: 合同会社DMM.com エンジニア 中島 暢哉 (@kamo26sima)
セッション概要
DMM.comの会員基盤開発チームで、コードレビューの効率化と品質維持に悩む中、OSSのAIレビューツール「PRエージェント」を試験導入した経験談。CIツール(リンター、テスト)とAIの住み分けをどう考えるか、導入メリット・デメリットを振り返りました。
- 導入目的:人間のレビューを高度化する
- タイポやデバッグコードの残りといった基本的なミスはAIに任せ、人間はドメインや設計の吟味に集中する。
- プルリク説明をAIが要約し、レビュアーの理解をサポートする想定。
- 導入してみた結果
- スペルミスや言語使用の初歩的ミス検出は精度が高く、要約機能も一定のレビュー負荷を削減。
- ただし、ドメイン特有の制約には対応できず、「この変更はドメイン的にNG」といった指摘は期待できない。
- チームのフェーズやコード量によってはノイズが多くなる場面も。
- CIツールとの共存
- AIレビュー:推奨レベルの指摘や要約を担う。
- リンター/テスト:白黒明確なチェック(規約遵守、動作検証など)で自動的に落とす。
「AIレビューは人間の判断を補強する」という位置づけを徹底し、期待値を適切に管理することが肝要だと結論付けていました。プロダクトやチーム状況次第で効果が変わる点が興味深いところ。
4. 「プルリクエストレビューを終わらせるためのチーム体制」
発表者: 株式会社ラブグラフ 執行役員CTO 横江 亮佑 (@yokoe24)
セッション概要
出張撮影サービス「ラブグラフ」を運営するチームで、プルリクレビューが滞らないようにするための具体的な策を紹介。「どんな組織でも使える、けれど意外と見落としがち」な仕組みを惜しみなく公開されました。
- 方針を決める(コーディング規約・テンプレの整備)
- リンターで形式的なルールを徹底し、追加ルールやテスト方針は別途ドキュメント化。
- プルリクテンプレで「レビュー観点」を明確化、背景や設計意図を簡潔に書いてもらう。
- 情報が届く仕組みづくり
- 担当者がプルリク投稿しただけで終わらせず、「Slack連携」や「リマインドボット」を活用して、プルリクを可視化。
- 特に定時の自動リマインドで「このプルリクが承認待ちです!」と全員に通知し、モチベーションを維持させる。
- 時間を作る:レビュー会など
- 週3回、30分程度みんなで集まる「レビュー会」を設定。
- 同期的に質問・説明ができるので、コメントのやり取りが最小限で済む。
- タイミングは昼食前後を避け、集中できる時間帯を活用。
「レビューがなかなか終わらない原因」は、人間のモチベーション不足か、やり取り往復回数の多さにある、と端的に指摘。こうした仕組みで“プッシュ型”かつ“短時間で完結させる”体制を整えることで、日々のPRがスムーズに進む事例を示してくれました。
全体を踏まえた感想
「チームやフェーズによる柔軟な運用」と「レビューへのモチベーション設計」が鍵
4名の登壇者はいずれも、「レビューは単なるコードチェックにとどまらず、チームの学習やプロダクトの成長を促す場」と捉えていました。その一方で、“最適解”は存在しないことも強調されています。同じメンバー構成でも、事業フェーズや担当ドメイン次第で必要なフローが変わるため、 「今の自分たちに必要な仕掛けを作る」 という姿勢が重要です。
- 少人数チームでは全モブレビューにして遅延を解消
- 機能拡張が活発なチームでは条件付き非同期レビュー
- AIを導入して軽微なミスを自動検出
- テンプレやリンターで規約を明文化し、指摘コストを下げる
いずれの事例も、レビューそのものを「チームの最優先事項」として捉え、仕組みを伴った実践を行っています。多忙な日常業務の中で「レビュー忘れ」や「大きすぎるプルリク」などが発生しがちですが、こまめなリマインドや朝会でのモブレビューが“先送りの連鎖”を断つ有効な方法として紹介されました。
今後さらにAIによるレビューや、他チームからの移籍者・新人との協業など、環境変化は続くでしょう。その都度、チームで学び合いながら「どんなレビューが今の自分たちにとって効果的か」をアップデートしていく――その柔軟性こそが、レビューの質と効率を引き上げる最大の秘訣なのではないでしょうか。
全体を踏まえた感想
レビューを“終わらせる”ために――チームで方針を守り、仕組みを作り、学び合おう
本イベントで印象的だったのは、「レビューが終わらない」「内容が表面だけ」「チームに依存する」といった課題が、どの現場でも起きがちである一方、それらをチームの文化やルール、仕組みの工夫で乗り越えている事例が多彩だったことです。
- 「朝会や週3のレビュー会で同期的に確認する」
- 「プルリクテンプレで必ず背景・意図を書く」
- 「スラックの自動リマインドなどプッシュ型通知で“忘れ”を減らす」
- 「AIを導入するなら、ドメインをカバーできる手動レビューとの二段構えを意識」
小手先の運用に見えて、いずれも「レビューをチーム全体で当たり前に“終わらせる”」ことを目指す仕組みづくり。どのTipsも本質は共通で、「コードレビューを軽視せず、むしろ成長の機会として捉えるためにチーム全員がどう動きやすくするか」を考えている点が共通しています。
皆さんもぜひ自分の現場で、レビュー体制やルール、通知の仕組みなどを見直し、レビューが“終わらない”ストレスを減らす方策を試してみてはいかがでしょうか。イベントを通じて得られた知見や事例が、あなたのチームの開発体験を一段階アップさせるヒントになるかもしれません。
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