🫵
「技術参謀たちの戦略図 〜リーダーシップという選択肢と彼らが選んだ企業の魅力〜」イベントレポート
公開
2025-03-13
文章量
約3653字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2025年3月5日に開催された本イベントは、技術力を軸に組織を導く「スタッフエンジニア」の視点から、チームや事業を推進するためのリーダーシップの在り方に焦点を当てたものとなりました。登壇者は、
- P山 氏(バックエンドエンジニア)
- fujiwara 氏(さくらインターネット ソフトウェアエンジニア)
の2名。それぞれ10分ほどのセッションを行った後、両名とモデレーターによるパネルディスカッションを通じて、スタッフエンジニアというキャリアの魅力や、実際にどのように技術で事業を支えていくかなどのトピックが議論されました。
イベント概要とタイムテーブル
- 12:00 オープニング
- 12:05 LT1 「事業を差別化する技術を生み出す技術」 P山さん
- 12:15 LT2 「困難を『一般解』で解く」 fujiwaraさん
- 12:25 パネルディスカッション(P山さん × fujiwaraさん)
- 12:45 Q&A
- 12:55 クロージング
今回のセッションでは、下記のようなテーマが大きく扱われました。
- 「自身のキャリアの描き方、スタッフエンジニアとしての選択肢」
- 「技術力でリーダーシップを発揮するために必要なマインドと企業文化」
- 「技術参謀が活躍する企業の魅力」
- 「技術力を鍛える方法や評価制度の要点」
- 「スタッフエンジニアが攻略を許す企業の特徴」
以下、それぞれの登壇内容やディスカッションのポイントを詳しくまとめます。
1. 「事業を差別化する技術を生み出す技術」 by P山さん
エンジニアスペシャリストとしての道
P山さんは、かつてGMOペパボ社に在籍し、エンジニアスペシャリスト(スタッフエンジニア的立ち位置)として数多くの技術開発や基盤設計に携わってきた経歴を持ちます。近年では、エンジニアのキャリアの中でマネージャーではなく、技術を武器に組織を成功へ導くスタッフエンジニアという選択肢が注目されていますが、ペパボでは早くからエンジニアスペシャリストのラダーが整っていたとのことです。
「事業を差別化する技術」とは
彼が強調するのは「事業特性を深く理解し、それに合わせた技術的工夫を生み出す」というアプローチです。
- レンタルサーバーやECサービスなど、マルチテナント構成が必要な事業では、オープンソースのままではコストや管理が合わず、社内独自で開発する基盤が必要。
- オンプレミス環境や独自のコントロールパネルを使うメリットを最大化するために、スケーラビリティや認証基盤を自前で作り上げる。
こうした「事業の特色と技術をすり合わせていく」発想が、自社サービスを差別化し、競合優位を築く糸口になるというわけです。
組織との協業と技術者自身のモチベーション
P山さんが「10年以上継続的に技術参謀として活動できた要因」として挙げたのが、自分の興味と組織の方針をうまく揃えるコツです。
好きでもない仕事ばかりを続けるとモチベーションを維持しづらい。
一方で、やりたい技術だけを突き詰めても、事業が求める方向と乖離していては評価されない。
そこで、「事業側と密なコミュニケーションをとりながら、自分の技術的関心を適度に盛り込んでいく」ことが肝要だといいます。
さらに、大規模プロジェクトでは一人ですべてを担いきれないため、周囲と協力していく姿勢が不可欠。スタッフエンジニアといえども、人を育てたり巻き込みながら成果を出していく点は変わらないのです。
2. 「困難を『一般解』で解く」 by fujiwaraさん
ソルバー(問題解決者)としてのスタイル
続いて登壇したfujiwaraさんは、長らくSREやインフラ領域を中心に携わり、面白法人カヤック社でソーシャルゲーム運用などの難題をいくつも解決してきた人物。スタッフエンジニアの4類型(テックリード、アーキテクト、ソルバー、ライトハンド)でいえば、「ソルバー」に最も近い、と自身を位置づけます。
ゲームやWebサービスの緊急インシデント対応、インフラの刷新など、「火消し」と呼ばれるような難題や、普通なら嫌がられる領域をひたすら解決してきたキャリアが特徴的です。
レバレッジを最大化するOSS開発
単に自社プロジェクトの課題をひっそり解消するだけではなく、「どうせなら多くの人にも使える形(一般解)として仕上げる」 というのがfujiwaraさんの持ち味。
- ECSデプロイツール「espresso」
- Lambdaデプロイツール「lambda-roll」
- ログ収集・取り込み基盤 など
こうしたOSSを公開することで、自社内だけでなく外部の開発者コミュニティにも恩恵を提供しながら、大きなインパクトを与えています。スタッフエンジニアとして他領域にも有用なソリューションを広めることで、組織の枠を越えた影響力を発揮しているわけです。
次なる挑戦:クラウド基盤に潜り込む
2025年2月よりfujiwaraさんはさくらインターネットへ移り、クラウド事業本部で新たな課題に挑んでいます。これまで“クラウドの上で”アプリケーションレイヤーを支える仕事が主だった彼が、“クラウド自体を作る”ほうへ飛び込んだ点は大きな転機。
あらためて低レイヤに踏み込むことで、技術者としての探究心を満たしつつ、さらに多くの「困難」を一般解として解決していく姿勢を示しています。
3. パネルディスカッション
LT後のパネルディスカッションでは、以下のテーマが主に議論されました。
キャリアの描き方
両名は共通して「キャリアを狙って作ったというより、好きなこと・得意なことを突き詰めたら自然とスタッフエンジニア的な立ち位置になった」と語ります。
- P山さんは「周りのエンジニアコミュニティで優れた人の働き方に刺激を受け、その姿を目指していくうちに自分の強みを活かせるポジションに落ち着いた」と回想。
- fujiwaraさんも「昔はマネージャー=偉いではない時代背景があり、単純に好きな領域の課題を解いていただけだった」と言います。
事業理解とチーム連携
エンジニアとして技術だけ磨いても、事業面を理解しなければ組織にインパクトを与えられない点は両者とも強調。
自分が使うサービスならTwitterやSNSで積極的に発信したり、社内の営業やディレクターと食事を共にして雑談ベースで理解を深めるなどが挙げられました。
また、組織の多部署や他事業部へアイデアを広げる際は、いきなり技術的な提案を押しつけるのではなく、まずは「仲良くなる」ことが意外と重要とのこと。信頼関係があるからこそ提案が受け入れられやすいという、地道なコミュニケーションスキルもスタッフエンジニアには必要です。
好きなことと得意なことで結果を出す
「好きな分野だからといって結果が出るとは限らない。むしろ得意な分野のほうが結果を出しやすく、結果を出せれば楽しくなる」というfujiwaraさんの言葉は印象的でした。
技術参謀的な働き方でも、本人のモチベーションを高める戦略は欠かせません。自分の得意スキルが評価され、事業の方向性に貢献できる企業カルチャーに身を置くことの大切さを再認識させられました。
全体を踏まえた感想:「好き」「得意」「組織の方向」を重ねるスタッフエンジニア像
本イベントを通じて感じたのは、スタッフエンジニアと呼ばれる人々の働き方には、技術力の追求と事業価値への強いコミットが当たり前のように共存しているという点です。
- P山さんは、組織のオンプレミス環境やマルチテナントという独特の特性を深く理解し、それに合った技術基盤を次々と生み出すことで事業の競争力を高めてきました。
- fujiwaraさんは、火消し役として問題解決に奔走する中で、せっかく作るなら自社だけでなく他社でも使える形(OSS)で公開し、業界全体に貢献するスタイルを確立。結果的に大きなレバレッジを得ました。
スタッフエンジニアという選択肢は、「マネジメントをせずに技術に没頭できる」という単純な話ではなく、「事業を前進させるための技術リーダーシップ」を発揮するかどうかが鍵となります。そのためにも、自分の得意分野を軸にしつつ、事業特性とすり合わせ、組織やチームの人々と地道に関係性を作っていく姿勢が求められます。
最終的には「自分が好き・得意とする技術領域」と「組織の求める方向性」をどう重ね合わせられるかが、長期にわたって成果を出し続けるポイント。P山さんやfujiwaraさんのように、自身の探究心を満たしながらも周囲をエンパワーする姿勢こそ、これからの技術参謀の理想像と言えるのではないでしょうか。
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