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【イベントレポート】Apache Icebergと超えていくデータレイクの限界 -S3とSnowflake活用事例-
公開
2025-03-13
文章量
約4204字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
アジェンダと登壇者
1. 「Icebergを学びAmazon S3 Tablesを活用しよう」(べりんぐ氏 / AWS)
データレイクとIcebergの位置づけ
S3上での3つの選択肢
デモ:PyIceberg+Athena連携
留意点とまとめ
2. 「Snowflakeの開発・運用コストをApache Icebergで効率化しよう!」(さがら氏 / クラスメソッド)
Snowflake × Icebergがもたらすメリット
SnowflakeにおけるIcebergテーブルの種類
データロードとデータ活用の代表シナリオ
全体を通じた感想:「真に柔軟なデータ基盤」への一歩を、Icebergとともに
データレイクとDWHの境界が溶ける、Icebergで描く新時代の連携
まとめ
2025年2月28日に開催された「Apache Icebergと超えていくデータレイクの限界 -S3とSnowflake活用事例-」は、オープンソースのテーブルフォーマットであるApache Icebergに注目が集まるなか、実際の現場でどのような活用が可能なのかを解き明かす時間となりました。
AWS re:Invent 2024の開催後でもあり、Amazon S3やSnowflakeなどの最新トピックスを交えつつ、Icebergが広げるデータレイクの新たな可能性が熱く議論されました。本レポートでは、本イベントで語られたアイディアや実装例を余すところなく振り返り、最後に全体を通じた感想をお伝えします。
アジェンダと登壇者
今回の勉強会は2つのセッション構成でした。1つ目はAmazon Web Services(AWS)のソリューションアーキテクトである疋田 宗太郎(べりんぐ)氏が「Icebergを学びAmazon S3 Tablesを活用しよう」をテーマに、2つ目はクラスメソッド株式会社・さがら氏による「Snowflakeの開発・運用コストをApache Icebergで効率化しよう!」という事例紹介です。
それぞれのセッションでどのような知見が共有されたのか、概要を追っていきましょう。
1. 「Icebergを学びAmazon S3 Tablesを活用しよう」(べりんぐ氏 / AWS)
データレイクとIcebergの位置づけ
最初に疋田氏は、データレイクの重要性とそこにおけるApache Icebergの役割をおさらい。Netflixが開発したオープンソースのテーブルフォーマットであるIcebergは、「既存のデータレイクの課題を超え、複数のクエリエンジンからシームレスにアクセスできる仕組み」として近年注目を集めています。データの同時書き込み、差分更新、スナップショットによる履歴参照など、データウェアハウス的な利便性をデータレイク上で実現するのが最大の強みです。
S3上での3つの選択肢
AWS環境でIcebergを使うには、主に以下の3つのストレージ選択肢が存在すると疋田氏は解説しました。
- 汎用S3バケット
- 従来からのS3バケットを使う形。きめ細かい制御や自由度が高い。
- S3テーブルバケット
- 2024年のre:Inventで発表された新しい仕組み。ユーザーが細かいファイル構成を意識しなくても、APIを通してアイスバーグテーブルを安全かつ効率的に扱える。自動コンパクションやメンテナンスなどがマネージドに行われる点が大きな利点。
- Redshift Managed Storage(RMS)
- Redshiftのストレージをアイスバーグ経由で外部クエリエンジンから参照する選択肢。データレイクとデータウェアハウスを境目なく運用できる将来像が見える。
デモ:PyIceberg+Athena連携
疋田氏は続いてPyIcebergというPython向けライブラリを使ったデモを披露。ローカルPCのJupyter環境からS3テーブル上のアイスバーグテーブルを操作し、タイムトラベルによるバージョン復元や行削除の確認を行いました。
興味深い点としては、大規模データに対してもAthenaなどサーバレスクエリエンジンと組み合わせることで高い可用性・スケーラビリティを得られること。そして、PyIcebergを用いれば小規模なデータでもローカルで手軽にアイスバーグの仕組みを試せる点が挙げられます。
留意点とまとめ
- RDBMSの完全な代替ではなく、あくまでOLAP向けのテーブルフォーマットである。
- ツールごとの実装状況(削除モードやトランザクション周りなど)に差があるので要確認。
- 自動コンパクション・スナップショット管理が非常に便利だが、チューニングやフェーズによっては細かな制御も必要。
疋田氏は「S3テーブルバケットを用いることでIcebergの内部構造を意識せずに使える。データレイクの管理コストを下げつつ、将来的に多様なツールとの連携を見据えたい人にとって有力な選択肢になるだろう」とまとめました。
2. 「Snowflakeの開発・運用コストをApache Icebergで効率化しよう!」(さがら氏 / クラスメソッド)
Snowflake × Icebergがもたらすメリット
後半はSnowflake Data Superheroesでもあるさがら氏が登壇。Snowflakeは従来から強力なクラウドDWHとして定評がありますが、近年はオープンテーブルフォーマット(Icebergなど)への対応を急ピッチで進めています。
さがら氏によると、Snowflakeでアイスバーグを扱うメリットは主に以下の2点:
- 開発・運用コスト削減
- これまでETLやストレージアンロード→Snowflakeへロードのような重複ステップが必要だったデータフローを、アイスバーグテーブルを介することで簡素化できる。
- データ活用範囲の拡大
- Snowflakeに閉じないデータアクセスモデルが実現でき、たとえばDuckDBなどの安価なクエリエンジンで読み取りのみを行うといった構成も可能に。結果としてSnowflakeのコンピュートコストを抑えつつ、必要な処理だけSnowflakeの高度な機能を活かすアーキテクチャが描ける。
SnowflakeにおけるIcebergテーブルの種類
スノーフレイクでアイスバーグテーブルを作る際は、大きく2種類のカタログ利用方法があるとさがら氏は説明しました。
- 外部カタログ連携(リードオンリー)
- グルーデータカタログなど、外部のメタデータを参照。Snowflakeにはロードせず直接クエリが可能。
- Snowflake内部カタログ(リード・ライト可)
- Snowflakeがメタデータ更新を担い、ユーザーは通常のSQL操作感でアイスバーグを使える。ただし現状、複数エンジンでの書き込み連携にはまだ制約がある。
SnowflakeにもSnowflake Open Catalogと呼ばれる機能があり、ユニティカタログ相当の役割を狙うものの、現時点ではリードオンリーになりがちなど少々複雑な状況。今後のアップデートでより柔軟になる可能性もあるため、最新情報の追跡を推奨するとさがら氏は語りました。
データロードとデータ活用の代表シナリオ
- FirehoseやFiveTranなどがS3上にIceberg形式で吐き出す→Snowflakeが直接クエリ
- 伝統的なETL・ELTフローに比べて、Snowflakeへの重複ロードが不要になり、大幅な運用負荷削減が期待できる。
- SnowflakeがIcebergテーブルで管理するデータを、DatabricksやDuckDBが読み取り
- Snowflakeの高機能を用いつつ、BIクエリを軽量エンジンにオフロードすることでSnowflakeの利用コスト削減へ。
さがら氏は「Snowflake+Icebergは単なる二者の組み合わせにとどまらず、周辺エコシステム(Databricks, BigQuery, あるいはS3 TableのようなAWSサービス等)も含めた“MDS(Modern Data Stack)”の設計が肝になる。互いにプレビュー機能が多いため、常に最新のアップデートを追い続ける姿勢が重要だ」と強調しました。
全体を通じた感想:「真に柔軟なデータ基盤」への一歩を、Icebergとともに
データレイクとDWHの境界が溶ける、Icebergで描く新時代の連携
本イベントで共通して感じられたのは、「データレイクとデータウェアハウスの垣根を超えたい」という欲求が、Icebergを中心に具体化してきていることでした。AWSのS3 Tables、Snowflake Open Catalog、Databricksや五番などのツールがアイスバーグ対応を進めることで、「同じデータをどのエンジンからも読み書きできる」時代が近づいています。
一方で、まだ開発中のプレビュー機能も多く、「設定やカタログ構造、レストAPI経由の制限など、考慮すべき点が山積み」というのも事実。しかし、登壇者はそろって「今後1年ほどで格段に整備される可能性が大いにある」と口を揃えています。またS3テーブルバケットやSnowflakeアイスバーグテーブルのように、ユーザーがあまりIceberg内部を意識せずに利用できるサービスも台頭しており、開発・運用コストを極力下げながら先進機能を享受できる道筋が見えつつあります。
“どのクエリエンジンを使うか”という選択は、将来のビジネスやチーム体制の変化にも大きく影響する。Icebergのオープンフォーマットを軸に据えることで、「同じデータを複数のエンジンで最大限活かす」アーキテクチャがより現実味を帯びるでしょう。
まとめ
従来のデータレイク運用で感じていたスケーラビリティや整合性の難しさ、複数エンジン間でのデータコピーの煩雑さ――それらを解決する鍵として、ここ1年ほどでIcebergエコシステムは急拡大してきました。AWSのS3テーブルやSnowflakeのアイスバーグ対応は、その象徴的な機能といえます。
本イベントで強調されたのは、「依然として発展途上の領域だが、アイスバーグを導入する意義は大きい」という点。プレビュー機能や実装差を踏まえた検証は欠かせませんが、それを乗り越える価値が十分にある技術だと登壇者たちは口を揃えています。
もしあなたのチームが「同じデータを複数の分析基盤で共有したい」「データレイクとDWHの境界を柔軟に行き来したい」と感じているなら、Apache Icebergを中心に据えたモダンなデータ基盤構築を検討してみてはいかがでしょうか。実際に試してみることで、データレイクの限界を越える新たな可能性が見えてくるはずです。
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