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入門OpenTelemetry―現代的なオブザーバビリティシステムの構築と運用 ~ FL#85 レポート
公開
2025-03-13
文章量
約3702字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
オブザーバビリティとは? 〜 モニタリングとの違いと注目の背景
背景:クラウドネイティブ化で複雑化するシステム
「オブザーバビリティ」への転換
OpenTelemetryが目指すもの
プロジェクトの概要
オープンテレメトリーを使うメリット
「入門OpenTelemetry」で得られるもの
Q&Aディスカッション ハイライト
Q. オブザーバビリティを初めて学ぶ際、この本から読むのはあり?
Q. コレクターを入れずに直接送信じゃダメなの?
Q. ビジネスサイドに導入の必要性をどう説明する?
全体を踏まえた感想
「オブザーバビリティの核心へ――OpenTelemetryの全貌を理解する」
イベントを終えて
「標準化されたパイプラインで、見えない問題を迅速にあぶり出す」
2025年3月10日にオンラインで開催された「Forkwell Library #85: 入門OpenTelemetry―現代的なオブザーバビリティシステムの構築と運用」。AWSのシニアデベロッパーアドボケイトで、オープンソース・コミュニティや技術書の翻訳で著名な山口 能迪(やまぐち のりみち)さんが登壇し、オブザーバビリティ領域の最新フレームワークであるOpenTelemetryについて解説しました。
近年、クラウドネイティブなシステムが増える中、ログ・メトリクス・トレースといった多様なデータの相関が求められ、「オブザーバビリティ」を担保することがますます重要視されています。そんな中で、業界標準化を進めるOpenTelemetryのエコシステムがどう生まれ、何をもたらすのか――今回の勉強会は、その概要を押さえたい方にとって絶好の機会でした。
本レポートでは、山口さんの講演内容を中心に、OpenTelemetryおよび関連書籍『入門OpenTelemetry』がどんな情報を提供してくれるのかをまとめます。
オブザーバビリティとは? 〜 モニタリングとの違いと注目の背景
背景:クラウドネイティブ化で複雑化するシステム
かつてのオンプレ時代は、三層構造のシステムに固定的なインフラを用意し、CPUやメモリなどの基本モニタリングをすれば十分でした。しかし、クラウドに移行し、コンテナやマイクロサービスが普及するにつれ、システムの構成要素は増え、コンテナやサーバレスが自由にスケールして“どのホストがいつ動いているのか”さえつかみにくい状態に。
「オブザーバビリティ」への転換
モニタリングという「CPU・メモリを追う」狭い視点だけでは、複雑化するアプリケーションの振る舞いを把握できない。そこで台頭してきたのが、システムの内部状態を推測できるデータを収集し、運用の意思決定を早期化する「オブザーバビリティ」の考え方です。ログ・メトリクス・トレース・プロファイルなど、多角的なテレメトリーデータを組み合わせて問題を素早く突き止めるのが狙いと言えます。
OpenTelemetryが目指すもの
プロジェクトの概要
OpenTelemetryは、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)のもとで進められているオープンソースのオブザーバビリティ・フレームワーク。以下の3要素を柱に、
- Instrumentation(計装)
- 各アプリケーション言語向けのAPIやSDKが用意される
- Collection & Processing(収集・変換)
- OpenTelemetry Collector(デーモン/エージェント)によるデータ受信と処理
- Export(送信)
- OTLP(OpenTelemetry Protocol)でデータをまとめて保存先へ送る
「ログ・メトリクス・トレース・プロファイル」など様々なテレメトリデータを一貫した方法で取り扱うことを目指しています。
オープンテレメトリーを使うメリット
- 主要OSS・ベンダーとの連携
- PrometheusやJaeger、Elasticなど、CNCF傘下のプロジェクトや大手クラウドベンダーもOTLPを標準サポートしており、データの受け渡しがスムーズ。
- 統一されたフォーマットとコンベンション
- 「セマンティック規約」でラベル名などを規定し、ログやメトリクス、分散トレースの相関を容易にする仕組みがある。
- Collectorによる柔軟なパイプライン構築
- 受信(Receiver)→ 処理(Processor)→ 出力(Exporter)のプロセスを組み合わせられ、複数の保存先へ一括送信などが可能。
「入門OpenTelemetry」で得られるもの
本イベントの題材となった 『入門OpenTelemetry―現代的なオブザーバビリティシステムの構築と運用』(オライリー・ジャパン刊)は、OpenTelemetryの背景や思想、概念的なアーキテクチャの理解に焦点を当てた一冊。
- 共著者は、OpenTracingやOpenTelemetry創成期から関わってきたエキスパート
- 実際のAPIやCollectorの細かい設定例より、プロジェクトが生まれた経緯・思想・全体像にフォーカス
ただし、実装やコード事例が多く載っているわけではありません。手を動かす際は、公式ドキュメント(各言語向けのガイドやCollectorの設定などが充実)と併読するのがベスト。書籍+ドキュメントの2本立てで学ぶことで、「なぜこういう設計なのか」が腑に落ちやすいと山口さんは強調していました。
Q&Aディスカッション ハイライト
Q. オブザーバビリティを初めて学ぶ際、この本から読むのはあり?
- 山口さんいわく、「オブザーバビリティ概念自体を広く学ぶなら、SRE本や『オブザーバビリティ・エンジニアリング』などが先でもいいかも。『入門OpenTelemetry』はOpenTelemetry特有の仕様や思想が中心のため、先にオブザーバビリティ全体像をつかんでおくと理解が深まる。」
Q. コレクターを入れずに直接送信じゃダメなの?
- 直接アプリからログやメトリクスを送ることも可能だが、大量データを送る際の負荷分散や共通タグ付与をコレクター側で行える利点が大きい。
- Kubernetesのクラスター名など共通情報を一括でラベリングしたい場合も、コレクターを使うのが実務的には便利。
Q. ビジネスサイドに導入の必要性をどう説明する?
- サービスレベル指標(SLO) を用いて、ユーザ視点の信頼性を高めるためにテレメトリーが必要であることを訴えるのがお勧め。インフラやシステム内部の見える化は、結果としてサービス品質の向上につながる。
全体を踏まえた感想
「オブザーバビリティの核心へ――OpenTelemetryの全貌を理解する」
今回のセッションでは、OpenTelemetryが単なるトレース収集ライブラリではなく、ログやメトリクス、さらには将来的なプロファイルデータまでカバーする“包括的なオブザーバビリティ基盤”を標準化しようとしている点が強調されました。
- 「ベンダー中立」なプロジェクト
- CNCF配下で進むOpenTelemetryは、主要クラウド・OSSプロジェクトが連携。特殊なエージェントではなく、汎用性の高いコレクターやAPI・SDKで構築できる。
- 既存ツールと「比較」するものではない
- Prometheus/Jaegerなど従来のツールを排除するのではなく、計装〜収集のパイプラインを共通化することで、様々な保存先・可視化先を柔軟に切り替えられるメリットがある。
- 必要なのは「長期で変わらない概念理解」+「最新仕様の追随」
- コード例は日々更新されるため、実装手順は公式Docsで把握しつつ、思想・背景は『入門OpenTelemetry』で掴むのが良さそうだ。
ローカルやオンプレで管理していた時代とは異なり、「どこかのクラウドでスケールし続けるサービス」をいかに俯瞰するかが重要となった現代。ログ・メトリクス・トレースなど、次々増えるデータを“一貫した形”で捉えられるOpenTelemetryは、まさに今後のオブザーバビリティ戦略の鍵と言えるでしょう。
イベントを終えて
「標準化されたパイプラインで、見えない問題を迅速にあぶり出す」
クラウドネイティブ化が進むにつれ、複数のマイクロサービス、動的なコンテナオーケストレーション、分散トレースなど――モニタリングだけではカバーしきれない複雑さが増しています。そこで鍵を握るのがOpenTelemetryによる計装とデータの統合。ログやメトリクスを別々の仕組みで集める時代から、 「1つの標準であらゆるテレメトリーデータを収集→どの可視化プラットフォームにも送れる」 という柔軟さと将来性が評価されています。
山口さんの講演からは、OpenTelemetryがカバーする部分(計装・収集・送信の3ステップ)、さらにそれを活かすための「システム内部の状態を推測する」というオブザーバビリティの本質が改めて語られ、 なぜ今このプロジェクトが業界全体で推進されているのかがよく理解できました。
『入門OpenTelemetry』自体は、技術的なコード例よりも思想や概念を深堀りする内容。「標準化の利点」「主要プロジェクト・ベンダーがどう関わっているか」などが俯瞰できるので、公式ドキュメントの手順と合わせて学ぶのに最適な構成と言えるでしょう。
もしこれから自社にオブザーバビリティを導入しようとするなら、今回のイベント内容や書籍を参考にしつつ、OpenTelemetry + (好きなツール/ベンダー)の自由度を活かし、より包括的で透明度の高いモニタリング・運用体制を確立していきたいところです。システムの内部を可視化し、問題を早期に発見する――未来の運用スタンダードは、もう目の前にあるのかもしれません。
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