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「ソフトとハードの二刀流で実現する先進安全・自動運転のアルゴリズム開発【DENSO Tech Night 第二夜】」イベントレポート
公開
2025-03-10
更新
2025-03-13
文章量
約3681字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2024年11月29日に開催された「DENSO Tech Night」第2夜は、「先進安全・自動運転のアルゴリズム開発」をテーマに、デンソーが誇る多彩なエンジニアたちがソフトウェアとハードウェアの視点から最新の取り組みを語る90分となりました。
ADASや自動運転を実現するうえで欠かせないカメラ、レーダー、ライダーといったセンサーがどのように連携し、どのようにアルゴリズム開発が進められているのか。
そして、その実装を支えるチームメンバーの個性的な姿や熱い思いなど、人間味あふれるトークがたっぷり詰まったイベントでした。
以下では、登壇者ごとに要点をまとめながら、実際にかかる苦労話やエピソードを交えてご紹介します。
オープニング:デンソーが目指す交通死亡事故ゼロへの思い
まず初めに、セーフティシステム事業部の事業部長・夏目さんから、業界動向とデンソー全体としてのアプローチが語られました。
- ADAS(先進安全システム)と自動運転業界の現状
- 交通事故死者数は減ってきたとはいえ、下げ止まりの傾向が見られる。デンソーは「事故ゼロ社会」を大きなビジョンに掲げ、ソフトとハードを組み合わせながらセンサー開発・制御技術を牽引してきた。
- ソフトウェアとハードウェアを二刀流で扱う強み
- ソフトウェア単独ではなく、周囲を正確に認識するためのミリ波レーダー、カメラ、ライダー、ECUなどを一体で開発。自動車レベルの品質・信頼性を満たすことは容易ではないが、長年のノウハウが活きている。
- デンソーが挑む「深み」と「広がり」
- レベル2~3相当のADAS機能をさらに高精度・高機能化する「深み」と、より多くの車両へ普及させていく「広がり」が大きな戦略的テーマ。高級車だけでなく、普及帯の車にも先進安全技術を届ける。
この冒頭セッションでは、自動車部品メーカーというイメージを超え、ソフトウェア×ハードウェアを自在に操る企業としての姿が垣間見えました。「より攻めたアルゴリズム開発に取り組むためには、相当なロバスト性と車載品質が必要」というメッセージが印象的です。
セッション1:ADASアプリケーション「Global Safety Package」のアルゴリズム開発
続いて登壇したのはセーフティシステム開発部の久々(くじ)さん。自動ブレーキ(AEB)やレーンキープなど多岐にわたるADAS機能を提供するパッケージ「GSP(Global Safety Package)」開発の概要が語られました。
ADASアプリケーション開発の全体像
- グローバルセーフティパッケージ1~3
- 2015年にGSP1をリリース。以後、歩行者・自転車検知の向上、夜間や交差点対応など機能を拡充し、GSP3でさらに高度化を実現している。
- 各種センサーとのフュージョン
- ミリ波レーダーや画像センサー(カメラ)を組み合わせ、物体を検出・追跡し、ブレーキ制御に反映する。
- 実際に市場評価やテストコースでの検証を重ね、ロバスト性を確保
- 走行実験で得た巨大なデータを基に、課題を1つずつ潰し込みながらリリースへと漕ぎつける。
JNCAPなどの安全評価で5スターを獲得
AB(自動ブレーキ)の優秀さを示す一例として、各種アセスメントテストで高得点を達成している事例が紹介されました。とくに歩行者や自転車との衝突回避も高水準を維持している点が大きな強み。
開発上の難しさと今後
- 市場の環境は極めて多様で、天候・道路形状・各国の交通ルールなど、あらゆる組み合わせで検証が必要。
- 次世代では、より複雑な生活道路や交差点の右左折シーンへ対応するためにAIベースの意思決定も重要に。AIプランナーによる軌跡生成・衝突回避を模索している。
- 久々さん曰く「運転者の安心感を崩さず、しかし無駄なアラートや誤作動がないように。マニアックなトラブルが山ほどあるが、仲間と連携して地道に乗り越えている。」
セッション2:車両周辺情報を高性能に検知するカメラ/画像認識のアルゴリズム開発
続いて片山さんが登壇。車載カメラを用いた画像認識で、周辺物体やレーンマーカー、標識などを検知する技術の最前線が語られました。
カメラによる車載認識の進化
- 単眼カメラ+ソフトウェア
- 過去10年以上の積み重ねで、昼夜問わず歩行者・自転車・標識・白線などを精度良く検出。
- GSP1~3に搭載
- 世代を重ねるごとに、夜間歩行者や交差点シーンなど対応領域を拡大。特に画像認識と機械学習の融合により、誤検出削減を推進中。
画像認識屋としての“職業病”
- 標識が折れていると「直したい…」
- 街を歩いていてもつい標識やレーンマーカーに目が行く。形が崩れたり色あせていると、自分の認識エンジンが混乱しそうで気になってしまう。
- 親心のようにアルゴリズムの成長を感じる
- 実際に自分の車で運転支援を使うと、「あ、こんなかすれた標識でも認識できた!」と嬉しくなってしまう。
今後の拡張
- 複数カメラの統合で360度を見渡す
- マルチカメラフュージョンやセマンティックセグメンテーションなどの先端技術で、より広域かつ複雑なシーンにも対応。
- 車線形状や立体物の高度推定
- 路面のうねりや交差点の矢印が複雑でも、人間を超えるレベルで認識を目指す。
片山さん曰く「画像認識におけるデータ分析とアルゴリズム改善を地道にやりつつ、自分も日常でその成長ぶりを感じられるのが楽しみ」とのこと。技術愛にあふれたプレゼンでした。
セッション3:転生したらアクティブセンサで高精度3D物体認識を開発することになった件
最後に登壇したのは高木さん。なんと画像認識屋だったのが異世界転生(社内配置転換)し、ライダー(光のアクティブセンサー)開発へとキャリアチェンジしたストーリーが披露されました。
ライダーとは
- 光のアクティブセンサー
- 自らレーザーを照射し、反射光から周囲の3D情報や強度を取得する。カメラと違い「3次元の点群」を直接得られる強み。
- ToFライダーとFMCWライダー
- 従来のToF方式は距離を測定、一方FMCW方式は距離+相対速度を同時に計測可能。動く物体を判別する精度が高まる。
異世界転生したらライダー開発だった
- 画像認識のノウハウをフル活用
- 「画素(2D情報)」→「点群(3D情報)」に変わっても、本質的に位置+強度という同様のデータ構造。ソフトウェア開発の流れも類似。
- フェールセーフの構築、悪天候での評価など、現場では様々なドラマが。カリン様なるターゲット人形を日傘で守ったり、虫をとってあげたり、チームワークも重要。
ライダーソフトウェアの取り組み
- AIを用いた物体認識
- カメラには苦手な夜間巻き上げなどでも、ライダーならではの利点を活かして認識を行う。速度情報を加味すると精度が大幅にアップ。
- 3D環境認識
- ToFやFMCWで得た点群をフィージョンし、障害物を分類。AIとルールベースのハイブリッドで性能を底上げ。
最後に高木さんは「コーディングスキル以上に、論理的思考や行動力、そして仲間との連携が大事」と強調。「事故ゼロに向け、ライダーを武器に新たな世界へ挑戦を続ける」と締めくくられました。
全体を踏まえた感想
今回のDENSO Tech Night 第二夜を通じて、デンソーの先進安全・自動運転領域における開発現場のリアルが生々しく伝わってきました。「ソフトとハードを二刀流で扱う」という表現は、単にセンサーを自前で作るだけでなく、実際の走行試験やエンドユーザーの体感価値に焦点を当て、様々な課題を総合的に解決する姿勢を指しています。
- 世界最高レベルの事故低減を実現するために、膨大な市場データとテストコース評価を活用AIが台頭しても、最後は現実世界の多様性・予想外のシーンへの対応が不可欠。その地道な潰し込みこそがデンソーの強み。
- ライダー・カメラ・レーダーなど異なるセンサーを組み合わせ、深いフュージョンと高度なアプリケーション開発で車両制御を行う個々の技術者がそれぞれの分野で“職人芸”とも呼べるスキルを磨きながら、チームでの「総合力」を引き上げている。
- エンジニアそれぞれが個性にあふれ、ターゲット人形を日傘で守ったり、カリン様と呼んだり、虫に悲鳴をあげるメンバーをサポートそんな人間味のあるエピソードからも、技術だけでなくチームワークが大切にされている様子がうかがえる。
来るべきレベル3~4の自動運転時代に向け、車両はますますソフトウェア・ディファインド・ビークルの姿へと変化していくことが予想されます。しかし、デンソーの本質はそこにソフトとハードの融合を加え、現実世界で誰もが安心して利用できるクオリティを実現すること。まさに「AIに限らず、使いこなしや連携で勝負する」というチーム力が伝わってくるイベントでした。
イベント中に多くの質問が飛び交ったように、センサー技術やAIアルゴリズム開発に興味を持つエンジニアにとっては貴重な知見が満載。今後もDENSO Tech Nightシリーズでさらに深い話が聞けることを期待したいところです。
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