🫵
「正しく」失敗できるチームを作る──現場のリーダーのための恐怖と不安を乗り越える技術 - FL#83 レポート
公開
2025-03-10
文章量
約2476字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
2025年3月3日、フォークウェル主催によるオンラインイベント「正しく失敗できるチームを作る──現場のリーダーのための恐怖と不安を乗り越える技術 - FL#83」が開催されました。
近年、ソフトウェア開発の複雑化やビジネススピードの加速に伴い、いかに「失敗」をチーム全体で早期発見・早期修正できるかが、サービスのクオリティとリリースのスピードを左右すると言われています。
しかも失敗が一切許されないわけではなく、“正しく”失敗できる仕組みやチーム体制が求められる時代です。
本イベントでは、実際に現場のリーダーを務める方々が「恐怖と不安を乗り越え、失敗をチャンスに変える」ための考え方やアプローチを語りました。
具体的には、品質改善を加速させる効率的なテスト設計・管理手法を軸に、どのようにチームを導き、どのようにプロセスを整備すれば「失敗を活かす」文化と成果を両立できるのか。
各社の実践事例を通じて、多数の学びが得られる時間となりました。
オープニング
まずは主催のForkwellより、本イベントの狙いが紹介されました。
「技術的に失敗を避けるためのテスト戦略だけでなく、リーダー自身が抱える“不安”や“恐怖”と向き合い、どうやってチームに正しく失敗する環境を根づかせるのか」という視点で、4名のスピーカーが登壇。
質疑応答やチャット欄にも多くのコメントが寄せられました。
LT① 「DevOpsに向けたテスト方針」
イオンスマートテクノロジー株式会社 / 白江 大輔(QAチーム マネージャー)
要旨
- イオン全体のDX投資を支える大規模基盤
- グループ年間売上が9〜10兆円規模にのぼるイオン。そのデジタル基盤を支えるうえで、単なる機能テストだけでなく「非機能面での徹底した品質管理」が必須。
- DevOps導入とQAの役割
- スピーディなデプロイを実現するためには、自動化テストがカギ。既存の大規模・複雑なシステムに対し、
Eテスト + APIテスト
という2本柱で実装を推進。 - 得られた成果と今後の展望
- 「テスターが自動テストを通じてエンジニアと同等レベルの仕様理解を深めることで、リリース前に効率よくバグを摘み取れるようになった」。今後はスケールする組織でも安定して自動テストを回せるプロセス整備に注力。
LT② 「動作確認やテストで漏れがちな観点3選」
ファインディ株式会社 / 戸田 千隼(テックリード)
要旨
- 指差し確認は侮れない
- 1円や1日の差異でも大きな問題を引き起こす「日次・金額・人名」などの要素は、デジタルでも人が最終的にチェックすべき領域。
- 更新が本当に反映されているか?
- フロント側で成功アラートを表示しても、実際にDBが更新されていないケースがありがち。リロードや別画面で値を確認して初めて合格とする。
- 日時判定をフロントではなくサーバーサイドで
- ローカル端末の日付・時刻が正しくないと誤った制御が発生するリスクがあり、公開時刻や配信制御がずれる可能性も。サーバーサイドの時刻を信用する仕組みがベター。
LT③ 「みんなで品質担保するための開発プロセス」
フリー株式会社 / 本多 顕成(QAマネージャー)
要旨
- 開発力2倍に向けた品質担保の再構築
- 新規リリースを増やすなかで、テスト工数を従来型の後ろ倒しにするのではなく、早期に不具合を発見・修正するプロセスへシフト。
- 要求・要件段階で定義を固める重要性
- PMやエンジニア、デザイナー、QAが「要求要件一覧」を用いてレビュー。曖昧さを残さないことで、後工程での迷いやバグを大幅削減。
- ミニぽち会とシフトレフト
- 実装完了後、システムテストの前に短いレビュー会を設ける。小さい不具合や仕様の擦れ違いはここで潰し、QAのテスト工数を抑える工夫。
LT④ 「リスクベースドテストの実践効果 〜実行テストケース数を劇的に削減!」
株式会社Gunosy / 興梠 直子(QAエンジニア)
要旨
- 急増するテスト項目をどう抑えるか
- スマートフォンアプリの機能拡大に伴い、回帰テスト項目が右肩上がり。そこでプロダクトリスクに応じて優先順位を付けるリスクベースドテストを導入。
- 影響度×使用頻度でリスクレベルを算出
- “致命的×不可避”をSランクとして毎回テスト、“中程度×時々”ならAランクで変更時のみなど、ランクごとにテスト実施を変える。
- 端末にもティアを設定
- 端末依存バグが少ないことから、全端末で全項目を回すのは非効率。そこでティア1・2・3に分けて、テスト項目を端末間で分散し、トータルテスト件数を削減。
- 結果:iOSで25%、Androidで50%近い削減
- 品質モニタリングを継続したが、不具合の流出率や検出数は従来から変化なく安定。大きな工数削減に成功。
全体を踏まえた感想:「失敗」に優しい世界が生む、開発力の真価
テスト設計や管理手法に焦点を当てながらも、各登壇者が口々に強調していたのは「失敗を許容できるチームの作り方」。
- イオンスマートテクノロジーが語る大規模DXならではの“オペレーション自動化”
- ファインディが示す“指差し確認”というアナログだが確実な最後の砦
- フリーの“要求要件段階での共通認識”と“ミニぽち会”による早期発見
- Gunosyのリスクベースドテストで、テスト工数と品質の両立
どれも表面上は「テスト効率化」の取り組みだが、その根底には「人間はミスするもの」という前提を受け入れ、それをチームで補完し合う設計があった。
急拡大するビジネスに追従するために重要なのは、メンバー個々が責任を押し付け合うのではなく、どう“正しく失敗”できる体制を整えられるか。そこにQAが果たす役割は大きいし、チーム全体で品質・スピード・心理的安全を同時に高める余地がある。
「恐怖や不安は誰にでもあるが、チームがそれをどう取り扱うかが成功と失敗を分ける」――今回のイベントでは、あらゆる現場のリーダーが抱える課題を直視し、“正しく失敗できる”組織を実現するためのヒントが多く共有されたように感じられた。
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