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「JR西日本・ファーストリテイリング・ZOZOが語るビジネス要件を踏まえたデータ基盤の構築」 イベントレポート
公開
2025-03-10
文章量
約3564字
2025年1月24日に開催された「JR西日本・ファーストリテイリング・ZOZOが語るビジネス要件を踏まえたデータ基盤の構築」は、国内外のさまざまなビジネス環境や業態でデータ基盤を運用・進化させている3社による特別なイベントでした。
鉄道・アパレルEC・グローバルファッション小売――それぞれまったく異なるビジネス要件を抱えながらも、データエンジニアリングにおける課題や工夫、実際に稼働させるためのノウハウが多数共有され、参加者からは「リアルな声が聴けて学びが深まった」という感想が多く寄せられました。
以下では、3社それぞれの発表のポイントを中心に、イベントの全体像をレポートします。
多様なビジネス要件を支えるデータ基盤の在り方
近年、ビジネス要件を踏まえたデータ基盤の重要性が増しています。たとえば「限られた時間でリアルタイム分析したい」「グローバルに展開するため、国ごとに異なる法規制やユーザー特性に対応せねばならない」「激しく変化する在庫や顧客行動を精密に捉えてサービスを最適化したい」など、企業が直面する要件は膨大です。
本イベントでは、JR西日本・ファーストリテイリング・ZOZOの3社が、それぞれのシステムアーキテクチャや運用方法、そしてチームが取り組んでいる課題・工夫を具体的に語りました。
いずれの企業も技術選定だけでなく、チーム体制・既存システムとの連携・事業と法規制への対応など、エンジニアリング以外の観点も含めて基盤を作り上げているのが印象的でした。
ZOZOを支えるリアルタイムデータ連携基盤の歴史とビジネス貢献
最初に登壇したのは、株式会社ZOZOの奥山喬史さん。ECファッションプラットフォーム「ZOZOTOWN」を支えるデータ基盤について、特に“リアルタイムデータ連携基盤”にフォーカスして紹介が行われました。
リアルタイム連携の背景と構成
- 商品在庫や売上状況をすぐに分析し、機会損失を防ぎたいというニーズが高まり、リアルタイムなデータ連携が不可欠に
- 当初はFluentdによるインスタンス2台構成で冗長化しながら、SQL Serverの変更履歴(チェンジトラッキング)を取得
- 運用コスト削減や重複排除の仕組みなどを整え、現在はKubernetes上で動作させる形態にリプレースしている
- BigQuery Subscriptionsを導入し、Dataflowへの依存を減らしてよりシンプルな構成に
リアルタイムデータがもたらす価値
- 検索システム:商品登録や売り切れを即時に反映し、ユーザーが検索しても在庫切れ商品を表示しない
- 在庫通知・値下げ通知:売り切れ寸前や価格変更のタイミングを素早く捉え、ユーザーにプッシュ通知を送る
- 不正注文検知:注文→出荷までのラグが短いケースであっても、リアルタイムデータにより不正を迅速に検知
- 大規模ECを運営する中で「どこまで鮮度が高い情報を提供できるか」は顧客体験や事業インパクトに大きく作用し、今回のリアルタイム基盤はまさに重要なピースとなっている
JR西日本鉄道運行系リアルタイムデータ基盤構築とその活用事例について
続いて、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)の真嵜弘行さんが登壇。鉄道システムにおけるリアルタイムデータ基盤の構想と、実際の活用事例を披露しました。
鉄道運行管理のデジタル化
- JR西日本は関西・北陸・中国地方などで多彩な路線を運営し、運行・保守・新幹線プロジェクトなど多岐にわたる大規模システムを抱える
- デジタル基盤として、リアルタイムな列車位置やダイヤ変更情報などを「IPD基盤」で一元管理し、複数のシステムへ統合的に提供
IPD基盤と事例
- IPD基盤では、列車運行に関するさまざまな情報を取得・統合して、二次利用しやすい形で各部門へ提供
- 駅の発車案内:リアルタイムに変更された運行スケジュールが即座に反映され、隣接システムとも連携
- 保守・検査業務:どの線路をどの検査列車が走ったかを把握し、検査漏れを回避できる仕組みを構築
- 新技術への応用:大阪万博などに向けて、顔認証改札や動くホームドアなど先進的な設備と連動させ、乗客の利便性向上を狙う
運行管理の世界では信頼性が最重視され、スパゲッティ化するシステム同士の連携を解消しつつ、統合基盤を整える難易度は高いとのこと。JR西日本は「IPD基盤」によって運行情報を使うシステムを束ね、多様な要件に対応しているのが興味深い事例です。
世界で稼ぐファーストリテイリングのデータ基盤
最後に、株式会社ファーストリテイリングのShao Mingさんが、グローバル展開するユニクロを支えるデータ基盤を紹介。複数国の法規制やビジネスモデルを扱うからこそ生まれる要件が、システム設計をどう左右したのかが語られました。
多様な要件とデータプラットフォーム
- ユニクロをはじめ複数ブランドが世界各地で事業を展開し、バリエーションに富んだデータソースを統合する必要がある
- Piゾーン/セキュアゾーン/コモンゾーンという3層のデータ保管レイヤーを用意し、個人情報の扱いを国別法規に合わせて管理
- “Event-Driven”設計を活用し、既存のファイル連携システムを拡張する形でデータ鮮度・依存関係・品質を確保
ユニクロの事例
- お客様の声を分析するVoCレポーティング:翻訳やAIによるタグ付け、定性・定量両面の可視化を通じて、全世界の顧客フィードバックを共有
- 商品改善への循環:顧客インサイトを商品企画やマーケにフィードバックし、改善後の効果も再度VoCで検証する仕組みを回す
「製造小売」モデルを持つファーストリテイリングでは、バリューチェーン全体をデータ化する必要があり、しかも国や地域の規制を一貫してクリアしなければなりません。Shaoさんが語った3層構造やEvent-Drivenの設計は、グローバルかつ大量データを扱う企業ならではのアプローチとして非常に参考になる内容でした。
まとめ:次世代データ基盤がもたらす未来
3社の事例を通して浮かび上がったのは、単なる「性能やコストの優位性」だけでなく、事業成長や顧客満足度に直結する形でデータを運用するという視点でした。
鉄道のリアルタイム運行情報は乗客や保守業務を変え、大規模ECの在庫連携は売り切れのタイミングを逃さず通知する。世界各国でビジネスを広げるアパレル企業では、国ごとの法規制も考慮しながらデータを活かす仕組みを作り上げる――いずれも「ビジネス要件を踏まえたデータ基盤」の重要性を象徴しています。
では、これから私たちが目指すべき方向は何なのか。キーワードとして共通していたのは「リアルタイム処理」「一元的な基盤で管理しつつ冗長化やスケーラビリティを確保」「チーム開発や運用コストを意識した仕組みづくり」などです。さらに、国境や業種の違いを越えて連携を図り、データを活かす発想も3社の話の奥底に感じられました。
未来に向けて:データが紡ぐ価値
多くの企業がデジタル変革を迫られるいま、データ基盤は単なる技術スタックではなく、企業のコアアセットといえる存在です。今回のイベントで共有された経験やノウハウは、まさに「実践的な示唆」に富むものでした。
- 新技術をどう導入するかだけでなく、既存の仕組みやチーム体制との整合性をいかに取り、トラブルを最小化するか
- リアルタイム連携を実現するための技術選定と、それを支える既存システムとの妥協点
- ビジネス要件と法規制、地理的要件が絡む複雑な環境でどのように運用コストを抑えながら品質を担保するか
これらの視点は今後、多くの企業やチームがデータ基盤を拡張・再構築していくうえで大いに役立つでしょう。技術は日進月歩で進化し、またビジネス要件も絶えず変わり続けます。しかし、3社が示したとおり「柔軟な設計」と「強固な運用体制」があれば、失敗を恐れずデータを活用する新しい一歩を踏み出せるはずです。
「データとともに世界を築く」──今こそ未来へ向けて
鉄道、アパレルEC、グローバルファッション小売。それぞれの現場が紡ぐストーリーには、業態を超えて通じる学びがありました。リアルタイム性や法対応、多様なビジネスモデルへの適応など、まさにデータ基盤こそが企業の成長エンジンとなっていると言えます。
本イベントを機に、新たな知見を手にした皆さんも、ぜひデータ基盤の在り方を一歩進め、ビジネスにさらなる価値を届ける挑戦を始めてみてはいかがでしょうか。
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