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「OpenTelemetryって本当に必要?今エンジニアが知っておくべきオブザーバビリティとは」イベントレポート
公開
2025-03-05
更新
2025-03-07
文章量
約3820字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
イベントの概要
LT①:オブザーバビリティ 技術選定の勘所
自己紹介
オブザーバビリティの背景
OpenTelemetryの登場と現在地
技術選定の3パターン
LT②:OpenTelemetryの位置づけと高度なオブザーバビリティオペレーション事例
自己紹介
OpenTelemetryは「収集の標準化」に特化
トレース活用を最大化する
レベル別オペレーション
ディスカッション・質疑応答
テーマ1:オープンテレメトリーにして良かったこと
テーマ2:新規サービスで最初から使うべき?
テーマ3:オブザーバビリティがあって助かった事例
全体を踏まえた感想──“一歩先の標準”は、チームの可能性を広げる
最後に──“オブザーバビリティ思考”を磨く
2025年2月25日、この「OpenTelemetryって本当に必要?今エンジニアが知っておくべきオブザーバビリティとは」というテーマのオンラインイベントが開催されました。
ここ数年で「Observability(オブザーバビリティ)」という言葉を耳にする機会は格段に増えたものの、実際にそれを使いこなしたり、自社のサービスにどう適用するかについては、まだ手探りの方も多いのではないでしょうか。
今回のイベントは、オブザーバビリティに関心を抱くソフトウェアエンジニアやSREを対象に、実務でOpenTelemetryを導入・支援してきた2人のスペシャリストが登壇。
SmartHRのymtdzzz(@ymtdzzz)氏と、複数社でSREや技術顧問としてオブザーバビリティ導入を主導しているsumiren(@sumiren_t)氏をお招きし、オブザーバビリティの基本概念からOpenTelemetryの実践知まで、ざっくばらんに語っていただきました。
以下では、イベント全体の流れやディスカッションの内容をレポート形式でまとめています。
イベントの概要
最初にモデレーターとして登壇した大谷氏(株式会社overflow CTO)から、イベントの趣旨やゴールが改めて示されました。
「DatadogやNew Relicなど、SaaS型の監視ツールを導入する企業は増えている。一方でOpenTelemetry自体をきちんと理解し、“これがなぜ必要か”を押さえているエンジニアはまだ限られる。」
そんな背景を踏まえて、OpenTelemetryをどのように位置付け、どんな組織・プロダクトで採用すると効果的なのか——そのヒントを得るのが狙いとのことです。
LT①:オブザーバビリティ 技術選定の勘所
SmartHR ymtdzzz 氏
自己紹介
最初に登壇したのは、SmartHRのアプリケーションエンジニアであり、OpenTelemetryを使ったコントリビューション活動にも積極的なymtdzzz氏。前職でオブザーバビリティを導入する際の経験談も交えながら、「技術選定のポイント」を整理されました。
オブザーバビリティの背景
そもそもオブザーバビリティは、マネージドサービスやマイクロサービスなど、システムが複雑化していく中で「不確実な障害を速やかに突き止める」ためのアプローチとして広がってきた経緯があります。モニタリングだけでは間に合わない場面で、ログ・メトリクス・トレースという3つの信号を総合活用していく意義を解説。
OpenTelemetryの登場と現在地
従来は各ベンダー独自のSDKやプロトコルが乱立していたが、2019年頃にOpenTelemetryが誕生。共通フォーマットを定義し、SDKからコレクターまで提供する形が業界標準になり始めている。ただし、まだ若いプロジェクトであり、言語ごとの成熟度にばらつきがある点には注意が必要。
技術選定の3パターン
- 買う(独自プロトコル+マネージドSaaS)
- 作る(OSSフルスタックで自前運用)
- ハイブリッド(OpenTelemetry+マネージドバックエンド)
最近は3のハイブリッド型が注目されているが、ベンダーの対応状況や自社の技術的要件によっては必ずしもオープンテレメトリが正解とは限らない。移行コストや運用リソースなど、リスクとメリットを比較して選ぶべき、とまとめられました。
LT②:OpenTelemetryの位置づけと高度なオブザーバビリティオペレーション事例
sumiren 氏
自己紹介
続いて、技術顧問・社外CTOなど複数の肩書でSREやパフォーマンス改善を支援しているsumiren氏。過去2社でOpenTelemetry導入を主導してきたという実務経験を交えながら、さらに深掘りした話が展開されました。
OpenTelemetryは「収集の標準化」に特化
OpenTelemetryは「観測データ(テレメトリ)を収集・フォーマットし、バックエンドに送る部分」を担う仕組み。つまりオブザーバビリティ自体(障害の可視化や高度な分析)は、最終的にバックエンドSaaSや可視化ツールで行われる。OpenTelemetryを使うメリットは「長期的にみて開発生産性が高まる」「ツール間の移行リスクを減らせる」などが挙げられる。
トレース活用を最大化する
sumiren氏自身は「ログ連携も大事だが、トレースこそ可能性が大きい」と強調。レイテンシの原因をブレイクダウンし、属性情報でドメインロジックへ踏み込んでいく——これらをフル活用することで、単なるAPMを超えた洞察が得られるとのこと。また、大規模なクエリ分析や差分比較を可能にするバックエンド(例:Honeycomb)のメリットにも言及し、トレース=データウェアハウス的に使う応用例を披露しました。
レベル別オペレーション
- レベル1:単にパフォーマンス計測
- レベル2:トレースを見てエラー原因や分岐を特定
- レベル3:共通処理でユーザーID・権限などを付与
- レベル4:各機能ドメインロジックにも計装し、トラブルシュートが格段に楽になる
- レベル5:収集したトレース情報をDB的に集計し、システム全体を横断的に可視化
こうした「段階的な取り組み」で、オブザーバビリティの活用レベルが上がっていく事例が語られました。特にレベル5の“大規模クエリ分析”は「すごく強力で、組織に大きな気づきを与える」とのこと。
ディスカッション・質疑応答
後半は、モデレーターの大谷氏が用意したディスカッションテーマや参加者からの質問に、両登壇者が回答する形で進行。
テーマ1:オープンテレメトリーにして良かったこと
両者とも「移行コストがぐんと下がる」「意思決定が早くなる」という共通点を指摘。アプリケーションの成長やマネージドSaaSの変更に柔軟に対応できる点が大きいという声があがりました。
テーマ2:新規サービスで最初から使うべき?
sumiren氏は「自分なら最初から使う」と明言。サービスが小さくても、将来的な拡張やベンダー移行を考えると、オープンテレメトリーは後から入れるより早く入れた方がトータルコストが下がるとの見解。
一方ymtdzzz氏も「やや言語対応の成熟度に左右されるが、ハイブリッド型なら十分選択肢としてあり得る」と述べ、オープンテレメトリーへの期待を示しました。
テーマ3:オブザーバビリティがあって助かった事例
- ymtdzzz氏:ログとトレースを関連づけて素早く原因を特定。別バージョンのPHPが混在するような特殊な状況でも、トレース属性にバージョン情報を入れてあれば瞬時に比較できるのが非常に便利だったとのこと。
- sumiren氏:大規模ECサイトで複雑なパフォーマンス低下があったが、トレースの集計機能を活用してボトルネックを一発で特定。期間比較やバッチ系の遅延要因などにも有効だった。
全体を踏まえた感想──“一歩先の標準”は、チームの可能性を広げる
「OpenTelemetryって本当に必要?」という問いに対し、登壇者の答えは「Yes, ただしオブザーバビリティそのものはバックエンドや運用オペレーションが肝」というニュアンスでした。
OpenTelemetry自体は、あくまで観測データの収集手段を標準化し、ベンダーロックインや移行コストのリスクを下げるもの。それでも、今後長期的にプロダクトを成長させるうえで、開発生産性を高めたり、柔軟な分析を可能にする点でオープンテレメトリーは非常に強力だと両者は強調していました。
一方で、オブザーバビリティを本当に活かすには、ツールやSaaSの画面をチームみんなが使いこなし、ドメインロジック単位でトレース属性を埋め込み、さらにトレース情報を大規模集計するような“文化”が欠かせない。
「導入して終わり」ではなく、実際のリリースや障害対応のたびに少しずつ計装を強化し、活用レベルを上げていく——そんな地道な作業こそが、オブザーバビリティの真髄だと感じさせられるイベントでした。
最後に──“オブザーバビリティ思考”を磨く
今回のイベントを経て、OpenTelemetryは必ずしも魔法の道具ではないけれど、“チーム全体がオブザーバビリティ思考を持つ”ための重要なステップになり得るとわかりました。
競合するベンダーの監視サービスが増え続けるなか、データフォーマットを標準化しておくだけで「乗り換えが楽になる」「挑戦しやすい」というメリットは大きい。そして、その上に積み重なるのが「トレース属性をどう付与するか」「どこまでドメインロジックを計測するか」といった運用の知恵。
いずれにしても、エンジニアが自身のサービスを守り、より良い開発スピードや品質を実現するには、OpenTelemetryを一度真剣に検討してみる価値は十分ありそうです。
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