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【イベントレポート】DeNA × AI Day || DeNA TechCon 2025
公開
2025-03-04
文章量
約6558字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
はじめに
イベント概要と開催背景
レポートの視点と取り上げるセッション
Opening Keynote
南場 智子氏のプロフィール
Keynoteの主なメッセージ
企業カルチャーとAIの親和性
① DeNAにおけるAI技術の歩み:組織と技術戦略を紐解く
セッションの狙いと背景
進化を支えるキーファクター
今後の展望
感想
② ドライブレコーダー × AIで地図を最新に保つGOの取り組み
プロジェクト概要
技術スタックと運用フロー
データ活用がもたらす可能性
感想
③ AIとデザイナーの新しい協働モデル
クリエイティブ領域へのAI応用
協働プロセスの実例
今後のクリエイター支援
感想
④ バージョンの違いすら統合する!?統合スキーマ言語Muscle
開発経緯──膨大なバージョンと散在するスキーマの課題
設計思想と主要機能
今後の広がり
感想
⑤ 1つのStream Aligned Teamからのアジャイルことはじめ
テーマの重要性──なぜ今、Stream Aligned Teamが必要だったのか
組織文化とプロセス変革
エンジニア&PO兼務の学び
感想
Closing Session
ゲストパネラー座談会:AIが変える未来
DeNAパネラーとの対話
総括──データ×AIが紡ぐDeNAの未来
イベント全体を通じて見えたトレンド
選りすぐりセッションに見る共通点
さらなる発展への展望
感想──挑戦し続けるDeNA文化とAIの未来
はじめに
イベント概要と開催背景
「DeNA x AI Day || DeNA TechCon 2025」は、2025年2月5日(水)の12時から20時まで、オンラインで開催された大型カンファレンスです。DeNAが誇る多彩な事業領域――ゲーム、スポーツ、ヘルスケア、ライブ配信など――に根差した技術と、近年ますます盛り上がりを見せるAIの取り組みが結びつき、新しい価値を創出することを大きな狙いとしています。
そもそもDeNAは、モバイルゲームをはじめとしたサービス開発で培った「高トラフィック運営ノウハウ」や「幅広いユーザ基盤」を強みに、常に新しいビジネスへ挑戦してきた企業。そこにAIという“第2の創業”とも呼べる変革が重なり、どのような化学反応が起こるのか――このカンファレンス開催前から、多くのエンジニアやビジネスパーソンが注目していました。
今回のイベントは、同社主催の「DeNA x AI Day」と「DeNA TechCon」が連動する形で実施。社内外の多様なスピーカー陣が集まりましたが、特にAIをフォーカスしたセッションからは、DeNAが自社の組織文化やビジネス戦略をどのように“AIドリブン”へシフトさせるのか、その姿が鮮明に浮かび上がります。
レポートの視点と取り上げるセッション
本レポートでは、膨大なセッション群のなかから、読者に特に刺さりそうなセッションをいくつかピックアップし、深掘りしていきます。全体の雰囲気を把握しつつも、一つひとつの実例が「AI × DeNAならでは」の価値をどう生み出そうとしているのか、超一流DevRel視点でレポートしていきます。
まずはOpening Keynote。DeNA創業者であり会長の南場 智子氏の語る“AI時代を迎えるうえでのトップメッセージ”は、今回のカンファレンスの“象徴”とも言えるでしょう。その後、以下のように 数あるセッションの中で特に印象に残りそうなものをセレクトし、技術とビジネスモデル、組織文化の交点を探ります。
- DeNAにおけるAI技術の歩み:組織と技術戦略を紐解く
- ドライブレコーダー × AIで地図を最新に保つGOの取り組み
- AIとデザイナーの新しい協働モデル
- Muscle: バージョンの違いすら統合する!?統合スキーマ言語
- 1つのStream Aligned Teamからのアジャイルことはじめ
もちろん他にも興味深いセッションは多数ありましたが、この記事では「今、DeNAはどこへ向かおうとしているのか?」をより立体的にイメージできそうなテーマに絞って取り上げます。ぜひ、各テーマのディープな内容を追体験しながら、DeNAが掲げる“AIで未来を切り拓く”戦略の熱を感じていただければ幸いです。
Opening Keynote
南場 智子氏のプロフィール
株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長。かつてマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを務めた後、1999年にDeNAを創業。以来、ゲームやEC、スポーツといった多分野に事業を広げながら成長を牽引してきました。また横浜DeNAベイスターズオーナーやデライト・ベンチャーズのマネージングパートナーも兼任し、経営や投資家として多角的な視点を持つ人物です。
著書『不格好経営』からもうかがえるように、組織の可能性を“人”と“仕組み”から引き出す姿勢が根底にあります。今回、AIとの融合によって「未来へどう進むのか」を具体的に語るキーノートは、まさにこのカンファレンスのスタート地点にふさわしいものでした。
Keynoteの主なメッセージ
南場氏が初めに強調したのは、「AIこそがビジネス構造を劇的に変えるテクノロジーである」ということ。ホワイトカラー職の生産性が一気に跳ね上がる時代が到来しつつあるなか、トップ自身も積極的にAIツールを使いこなしている実感を交えつつ、AIが変革の源泉だと示しました。
そして、「今いる社員の半分のリソースで現行事業を成長させ、もう半分は新規事業を量産する」という大胆な方針が明らかにされます。まさにAIの高い生産性がもたらす余剰リソースを新規領域に投下し、インターネット勃興期と同じように“何十社ものユニコーンを生む”ほどの勢いを狙うというわけです。
ゲームだけでなくスポーツ事業やヘルスケアなど、幅広いドメインにバーティカルAIエージェントを展開すると共に、従来から培ってきた組織文化とのシナジーを期待。単なる技術導入にとどまらず、“AIネイティブなオペレーション” へと会社を全面的にシフトしていく決意が感じられました。
企業カルチャーとAIの親和性
南場氏のキーノートでは、DeNAが昔から得意とする“試行錯誤の早さ”とAIの高速フィードバックループとの相性が何度も語られました。
過去のクラウドシフト成功例になぞらえて、「AIシフトに向けて全社員が雑務から解放され、創造力を存分に発揮できるようになる」と位置づける姿は、DeNAの根本にある“やってみる”精神が、AIの力でさらに加速していくことを予感させます。
この第一声としてのKeynoteは、単なる生産性向上にとどまらず、「新しい価値創出を可能にする企業変革を起こす」 という意欲を色濃く伝えてくれました。
① DeNAにおけるAI技術の歩み:組織と技術戦略を紐解く
セッションの狙いと背景
DeNAが多領域にまたがる事業を展開するなかで、AIを取り巻く戦略や組織づくりがどのように進化してきたのかを俯瞰するセッションです。ゲーム、モビリティ、ヘルスケアなどに携わってきたエンジニア陣が登壇し、過去のトライアルからいまや全社のビジネスを支える基盤へと成長したAI活用の歩みが語られました。
進化を支えるキーファクター
- 事業戦略とAIを結びつける
- AIを目的化しないよう、あくまでビジネスとの整合性を最優先し、測定可能な指標を設定。
- 社内技術プラットフォームの整備
- コンピュータビジョン、強化学習、パーソナライゼーションなどコア技術を部門横断で共有。
- 生成AIの波をどう吸収するか
- 最新の大規模言語モデル(LLM)も含め、エンタープライズ全体で使い倒す仕組みを検討中。
今後の展望
これからは「業務オペレーションそのものをAIネイティブに作り変える」動きが加速。特にバックオフィスや人事、既存事業の運営フローなど、従来は“手間”がネックだった領域を刷新しつつ、新規事業のスピード創出を目指すといいます。
感想
技術的な先端だけにフォーカスするのではなく、横断的な仕組みづくりや組織変革を並行させる姿勢が、いかにもDeNAらしい。多領域で蓄積したデータや経験値を、どれだけAIで横串にしながら大きな成果に繋げるか――今後の展開がますます楽しみです。
② ドライブレコーダー × AIで地図を最新に保つGOの取り組み
プロジェクト概要
「GO」といえばタクシーアプリで有名ですが、安全運転支援のためのドラレコ事業も展開中。全国の営業車から集まる映像をAI解析し、道路標識の変化や新たな交通規制を検出して地図会社のDBをアップデートするプロジェクトが注目を集めています。
技術スタックと運用フロー
- AIドラレコ : 9万台超が搭載し、内外向きカメラで映像収集 → 安全運転警告をリアルタイムで行う
- 地図更新システム : 集めた映像をサーバーで自動解析し、標識や信号などを認識。地図会社とのデータ比較で差分を検出し、更新を効率化
データ活用がもたらす可能性
従来、人力巡回や手作業チェックだった最新地図の作成を大幅に効率化。さらには自動運転や先進運転支援への応用など、次世代モビリティ領域のキーになると期待されています。
感想
地図更新という一見地味なプロセスが、AIによって“いつでも最新”を実現できれば、自動運転や高精度ナビの基盤が大きく変わるはず。GOの巨大な走行データがAIで統合されることで、社会インフラにも影響が及ぶ可能性を秘めています。
③ AIとデザイナーの新しい協働モデル
クリエイティブ領域へのAI応用
AIがデザイナーの仕事を奪うのではという声は根強いものの、このセッションでは「AIこそクリエイターを補完し、発想を拡張する存在」だと説明されました。
協働プロセスの実例
AIの提案する仮デザイン案やUI動作を、デザイナーがすぐ試作品化できる工程を導入することで、初期検証のスピードが格段に上昇。あえて試作を量産しながらの“作りながら考える”フローが定着しつつあるそうです。
今後のクリエイター支援
デザイナーが演奏者であり指揮者でもあるように、AIと対話しながら無数のアイデアを試す未来像が描かれています。単なる自動化ではなく、より豊かに「想像力×AI」のシナジーを追求する動きが加速する見込み。
感想
制作コストの大幅削減に加え、“プロトタイプを作る→フィードバック→さらに試作”が高速に回る設計はデザイナー本来の創造性を引き出す助けに。手を動かす時間が増えるほど、新しい発想も生まれる――“引き振り”スタイルが業界の慣習を変えるかもしれません。
④ バージョンの違いすら統合する!?統合スキーマ言語Muscle
開発経緯──膨大なバージョンと散在するスキーマの課題
https://www.docswell.com/s/DeNA_Tech/5R29P2-techcon2025-green-1330DeNAが運営する大規模モバイルゲームは、同時に複数ラインが走るアップデートでデータ管理が極度に複雑化。このセッションでは、1つのスキーマで全バージョン差異をカバーしようとする大胆なアプローチ「Muscle」が解説されました。
設計思想と主要機能
- バージョントグル・機能トグル・デバッグトグルなど、多彩な切り分けロジックをスキーマに埋め込み、必要時にフィルタして出力
- オールインワンのスキーマを“唯一の情報源”にすることでブランチ氾濫を抑止
- テーブル間のリレーションやバージョン参照整合性の自動検証機能など、詳細なバリデーションが可能
今後の広がり
ゲームのマスターデータ管理として生まれたMuscleは、バージョンやリリース管理に悩む他分野へも適用可能。オープンソース化を含め、さらなる汎用性を狙う動きが期待されています。
感想
「ブランチを無数に切る」運用が当たり前だったモバイルゲームの常識に風穴を開ける仕組み。バージョン管理の“全部入り”思考は大胆かつ合理的で、データ定義をめぐる新しい形を提案するセッションでした。
⑤ 1つのStream Aligned Teamからのアジャイルことはじめ
テーマの重要性──なぜ今、Stream Aligned Teamが必要だったのか
https://www.docswell.com/s/DeNA_Tech/5DN364-techcon2025-green-1430複数プロジェクトを一括管理しようとしていたkencomチームが、あえて大所帯を“1つのStream Aligned Team”に再編。優先度とリソース配分を一本化することで、フロー効率とコミュニケーションを改善した事例が紹介されました。
組織文化とプロセス変革
- 優先順位の一本化 : プロダクトバックログを一元化し、POを明確化
- 大所帯でもサブグループを柔軟編成 : スプリントごとに必要なメンバーが集まり作業、仕掛かり中を最小化
- デイリースクラムでの再計画 : 不測の事態に迅速対応し、サブグループ間の依存を徹底排除
エンジニア&PO兼務の学び
スプリントプランニングの中で、全メンバーが「今どこに注力すべきか」をリアルタイムに合意形成。エンジニア×プロダクトオーナーの兼務がうまく回れば、組織全体の視野が広がり、開発のアジリティを大幅に高められる。
感想
大人数のチームをあえて分割せず、柔軟な小単位編成で乗り切るアプローチは、一見アンチパターンながらも大きな成果をあげています。アジャイルを本気で回そうとするならば、技術的な最適化だけでなく“優先度の明確化”こそが最重要と改めて痛感するセッションです。
Closing Session
ゲストパネラー座談会:AIが変える未来
クロージングではゲストとして合同会社機械経営の安野 貴博氏(AIエンジニア兼起業家兼SF作家)を招き、ゲーム事業本部長の井口 徹也氏、新規領域事業戦略統括部の住吉 政一郎氏、そしてモデレーターの加茂 雄亮氏がパネルディスカッション。「AIによる劇的変化は続くが、すべてを追う必要はない。状況に応じて“待つ”戦略もある」という安野氏の視点が印象的でした。
一方で井口氏は「ゲームにおけるAI活用の可能性はまだまだ広大。むしろ経営や事業責任者がAIを積極的に学び、リソース投入を明確にすることで最大限のメリットを得られる」と強調。住吉氏も「AIを活かしてどんな体験をユーザーに提供したいのかが最大の論点。テクノロジーの波に振り回されるのではなく、価値設計を主体的にすることが肝要」と述べました。
DeNAパネラーとの対話
後半のディスカッションでは、DeNAが掲げる「AIを徹底活用し、新たな事業を多数生み出す」方針について、改めて内側からの視点が語られました。
- ゲーム部門としては、AIがクリエイティブの可能性を広げるだけでなく、エンジニアリング面の生産性も革命的に上げるチャンス。
- 新規領域側は、検討のスピードが飛躍的に上がる今こそ、実験と社会実装を同時に進める場面が増える。
モデレーターの加茂氏も「AIと人がチームを組むのは当たり前になる。DeNAの文化である“やってみる”姿勢が、爆速で進化するAI時代にフィットしている」として、さらなるイノベーションに期待を込めていました。
総括──データ×AIが紡ぐDeNAの未来
イベント全体を通じて見えたトレンド
DeNAはゲームやスポーツ、交通、ライブ配信、クリエイティブ領域といった多彩な事業を通じ、AIを自然に溶け込ませることで新たな価値を生み出そうとしている印象を受けます。セッション数は多岐にわたり、技術的トピックから組織運用まで幅広くカバーしていましたが、どれも「AIだからこそできる変革」を志向している点が共通していました。
選りすぐりセッションに見る共通点
取り上げたセッションは一見バラバラに見えますが、どれも“データや組織、ビジネスを総合的に捉え、そこにAIをどう浸透させていくか”を真剣に模索しています。「試しにAIを導入してみる」段階を越え、サービスや組織全体を変えてしまうという覚悟がにじんでいました。
さらなる発展への展望
DeNAが掲げる「AIにオールイン」は、社内の仕組みや業務フロー、さらには新規事業の立ち上げまでを含めた包括的なビジョンです。AIで得られた余力をどこに集中投下するか。既存事業をどう再定義するか。社外パートナーとどう連携するか。すべてが今後の勝負どころと言えるでしょう。
感想──挑戦し続けるDeNA文化とAIの未来
どのセッションにも共通したのは「まずやってみて、学んで、再構築する」というDeNAの組織文化。その“やってみる”精神こそ、AIの爆発的進化に柔軟に対応し、事業を加速させる大きな武器になるはずです。
“AIをさまざまな事業で使い倒す”という方針は、決して簡単な道ではありませんが、DeNAがこれまで歩んできた多角的な挑戦の歴史を踏まえれば、きっとまた新しいイノベーションを見せてくれるでしょう。「人×AI」が織りなす次のステージを、今から楽しみに待ちたいと思います。
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