🚙
【TOYOTA×Nissan×Honda】Japan Mobility Tech Day#1 ソフトウェアエンジニアが創り出すクルマのUXとは イベントレポート
公開
2025-03-03
文章量
約3601字
イベント概要
- イベント名: Japan Mobility Tech Day #1 ソフトウェアエンジニアが創り出すクルマのUXとは
- 日時: 2024年11月25日
- 場所: 新橋(オフライン会場)+ Youtubeライブ配信
- 登壇企業: トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業
- モデレーター: 及川 卓也(Tably株式会社 代表取締役、『ソフトウェア・ファースト』著者)
今回のテーマは「ソフトウェアが変革するクルマのUX」。自動車産業はCASEからさらに進んだ「S(Software Defined Vehicle)×脱“ハード中心”×AI活用」へとシフト中。
本イベントでは、SDV (Software Defined Vehicle)、コネクティッド技術、そしてデータを軸としたUXの最先端事例が紹介されました。
1. TOYOTA:SDV (Software Defined Vehicle) とコネクティッドカーをとりまく技術トレンド
登壇者の村田氏は、まず「SDV」が必然となっている背景を丁寧に解説。自動車業界の構造的転換のキーワードとして「ハードありき→ソフトウェアファースト」に変わりつつある実情を紹介しました。
- ソフトウェアでクルマを定義する意味:
- 以前は“ECU(電子制御ユニット)ごとにハードを選ぶ→ソフトを載せる”流れだったが、今は先にソフトウェアのアーキテクチャや機能を定義し、その上で最適なハードを選定・実装していく方式にシフト。これにより、OTAアップデートなどによる継続的な機能拡張が可能に。
- UXへのインパクト:車内外のサービス連携:
- クルマの動力制御や安全性はもちろん、コネクティッドサービスやクラウド連携によるデータドリブンなUX強化にも注力。具体的には車内の HMI (Human Machine Interface) とクラウドを往き来する「データ活用+継続的アップデート」を通じて、事故ゼロや快適性向上を目指しているとのこと。
- オープンソース活用とインハウス開発の融合:
- トヨタ独自のOSSプログラムオフィス(OSPO)発足や、AGL (Automotive Grade Linux) コミュニティへの積極参加などにより、共通基盤の協業と自社内でのインハウス開発を両立。ソフトウェアエンジニアにとっては、複雑に見える車載環境でも「モダンな開発手法+大規模OSS活用」の実践が可能になっているのが大きな魅力。
2. Nissan:In-Vehicle Infotainment (IVI) & Servicesの今と将来
続いて村松氏が、日産が注力するIVI領域の現状と展望を解説。車載ディスプレイの大型化やUIの多様化だけでなく、「クルマ=巨大な組み込みデバイス」としてのユニークな課題を紹介しました。
- 「車=動くスマホ?」ではない、エンジニアリングの違い:
- 単にAndroid OSを載せれば良いわけではなく、車両制御や安全性、リアルタイム性といった要件を満たす必要がある。特に「起動直後2秒以内にバックカメラを表示」など法規制が絡む機能があり、スマホのような常時稼働とは異なるファストブート設計が必須。
- マルチOS環境へ:車内統合が進むコックピットコントローラ:
- メーター系リアルタイムOSとAndroidなど汎用OSの切り分けをハイパーバイザーなどで仮想化し、安全性と拡張性を両立。今後はシームレスな大画面を活かした「メーター+IVIの一体UX」が主流になり、クルマの中での“UI/UX開発の自由度”が飛躍的に上がるという熱い展望が示されました。
3. Honda:Hondaの顧客起点の開発
宮下氏は「Honda=常にユーザー(人間)を中心に考える企業文化」を強調しつつ、データドリブンでUXを最速改善していくための取り組みを披露。
- “ユーザーの本質的なペイン”を見極める:
- 単にアンケートやインタビューだけでは分からない潜在ニーズを、車両データ+モバイルアプリ+リアルな観察を組み合わせることで深堀り。今までは4〜5年のフルモデルチェンジごとに変えてきたUXを、ソフトウェア×データのサイクルで頻繁にアップデート可能にしていく。
- UX特化の“デジタルプロダクトチーム”を組成:
- 開発組織も、ハードウェア部品ごとではなく「顧客体験のシーンごと」にプロダクトチームを編成。プロダクトマネージャーやUXデザイナー、データサイエンティスト、エンジニアが一丸となり、顧客のライフタイム全体でUXを改善することに注力しているとのこと。
- トランスフォーメーションの真っ只中:
- 組織体制も含め、「従来のハード中心×長い開発サイクル」から「ソフトウェア中心×アジャイル&継続アップデート」へと変革していると明言。内部では「CT(コーポレート・トランスフォーメーション)」レベルの変化が進行中であり、そこにエンジニアとして飛び込むチャンスが膨大にあることを強調していました。
パネルトークセッション:クルマ×UXがもたらす新時代
最後はトヨタ自動車 関沢 省吾 氏、日産自動車 宮内 崇 氏、本田技研工業 柴田 直生 氏という各社のエンジニアリーダー3名に加え、モデレーター及川 卓也 氏が加わった座談会。「クルマのUX開発の難しさと楽しさ」が具体例を交えて語られました。
注目ポイント
- 画面越えのUX設計
- 車載ディスプレイは「運転視野」「タッチのリーチ」「振動」など特殊な制約多数。スマホライクな操作性を実現しつつ、安全をどう担保するかがビッグチャレンジ。
- 動的環境ならではの課題
- 例えばEVやハイブリッドの駆動モード表示ひとつとっても、走行シーンや下り坂ではモーターが停止したり逆トルクがかかったり、リアルタイムに表示すべき情報が変わる。作って初めて発見する落とし穴が多い点はやりがいでもあり難しさでもある。
- 国内外へのグローバル対応
- 左ハンドル・右ハンドルや言語表示違いなどを、単一のソフトウェア設計でどう吸収するかが大規模開発ならではの面白さ&難しさ。
- ハードとソフトの境界を越える組織作り
- 従来の自動車メーカーは機械系エンジニアが中心だったが、今は組み込み・Web・AI・UXリサーチャー・デザイナーなど、多種多様なタレントが集合。異なる強みを掛け合わせる“組織の融解”が進みつつあり、キャリアパスも拡充している。
- ソフトウェアエンジニアの存在感が急上昇
- 3社とも「ソフトウェアをリードする人材が不可欠」という認識で一致。評価制度や技術組織、社内OSPOなど、多面的なサポート体制を本格的に整え始めている。車業界でキャリアを描くソフトウェアエンジニアのチャンスは増大中。
イベントを振り返って
「クルマ=ハード+制御ECU」というイメージは、すでに一昔前。今やソフトウェア×クラウド×ユーザーデータで常にアップデートし、UXを柔軟に変えていくことが当たり前になりつつあります。自動車各社がここまで具体的に「ソフトウェアとUX」を軸にした戦略・技術をオープンに語るのは、エンジニア界隈にとって非常にエキサイティングな兆候です。
今回3社とも共通していたメッセージは、「これからのクルマ作りは、ユーザーが主役」。ハードウェアの品質・安全性の高さを前提としながら、「使うほど進化する」とか「データ活用で1人1人に最適化」といったIT業界っぽい潮流が、いよいよモビリティの世界にも完全に浸透してきています。
DevRel的アツさのポイント
- マルチスタックが楽しめる: ハード・制御・アプリ・クラウドと、フルスタックどころか“マルチスタック”な開発が可能。
- OSS貢献・コミュニティ参加: AGLやLinux、CI/CD、セキュリティなど、モダン技術をフル活用。
- 次世代アーキテクチャの競演: SDVのアーキ設計はハード×ソフト×AI×UIの境界を超えた総合力が問われる。
- 世界規模のインパクト: グローバル展開が前提、数百万台〜のデプロイ先。成功すれば世界中のユーザーに直接届く。
まとめ
「Japan Mobility Tech Day #1」は、“クルマ×ソフトウェア×UX”という最先端トピックを、各社の現場エンジニアがリアルに語り合う非常に刺激的な場でした。
自動車大手3社がこれだけガチでソフトウェアUXの未来を見据え、競い合いながらも協力する姿は、まさに自動車業界が大きく変革している象徴そのもの。
モビリティ=社会インフラそのものというスケール感も相まって、ソフトウェアエンジニアやUXデザイナーにとっては「自分の技術が大きく社会を変えうる」絶好のフィールドです。
製造業が生み出すリアルな体験価値と、IT産業のスピード感やデータ活用力が、ここほどダイナミックに融合する舞台はなかなかありません。
Yardでは、テック領域に特化したスポット相談サービスを提供しています。
興味がある方は、初回の無料スポット相談をお申し込みください。
また、資料請求やお問い合わせもお待ちしております。テック領域の知見を獲得し、事業成長を一緒に実現していきましょう。