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顧客体験のアップデートが加速するUX起点のプロダクトづくり 『The Garage』から始まるHondaのUX改革 Honda Tech Talks#8 レポート
公開
2025-03-02
文章量
約3309字
2024年9月20日、「Honda Tech Talks #8」が開催されました。これまでクルマ×デジタルを中心に語られてきた本シリーズですが、今回は “ホンダが本気でシリコンバレー流を取り入れ、UX起点のモノづくりを進めようとしている” という、新たなステージに踏み込む話題がメイン。
青山や六本木ではなく、あえて巨大な倉庫空間を改装した拠点「The Garage」で行われる開発のリアルとは、いったいどんなものでしょうか? 「自由な移動の喜び」をいかにデジタルと掛け合わせるのか? しかもそれを アジャイル&シリコンバレー的手法 でどう実現するのか? 登壇者の経験談や組織改革の奮闘が、たっぷりと語られました。
そもそも「UX起点の開発」はなぜ必要なのか?
登壇した宮下さんは、まず「顧客起点でモノづくりをすることはホンダ創業期からあった文化だ」と強調。初代の“バタバタ”と呼ばれるバイクや、オデッセイ、ステップワゴンなどのヒット商品はいずれもユーザーのペインを見抜き、そこから逆算してプロダクトを創っていた歴史を持つ。
ただ、近年は「データ」を使って定量的・科学的にユーザーのニーズを捉えるやり方が必要性を増している。
クルマやバイクの分野もソフトウェアの比重が増し、「アップデートし続けるプロダクト」が当たり前になりつつあるからこそ、データドリブンなUX改善が求められているのだといいます。
「Hondaはもともとアナログなカルチャー。それを最新のITスキルや手法と掛け合わせる挑戦をしているところです」と宮下さん。
それはまさにバタバタ起点のアナログDNA×シリコンバレー流プロトタイピングの融合。
オフィス空間でも「The Garage」という実験場を設け、具体的にユーザーの声と向き合う開発スタイルへとシフトしているそうです。
「The Garage」に込められた想いと、驚きのシリコンバレー流
Drivemode CEOであり、Honda Global UX Officerの古賀さんからは、The Garage ができるまでのストーリーがユーモアたっぷりに語られました。
- Drivemode: 2014年にシリコンバレーで創業し、Hondaに買収されて今やHondaの一部となったソフトウェア集団。300万人のユーザーを持つスマホアプリで始まったが、「モノづくり大好きなHonda」と親和性を感じて合流。
- The Garage: 青山や六本木の立派なビルをあえて選ばず、「ガレージから始まる」シリコンバレーの精神に立ち返り、実験とプロトタイピングを重ねたい。そこで天王洲の倉庫オフィスを拠点化。ドライブシミュレーターやバイク実機を置いて、ものすごい勢いで作って壊してを繰り返す場所にしている。
「まさにやってみる→失敗する→問題をバックログにする→さらに突き進む」のループをとことん回し、Hondaの組織を変えていこうとしている――。
古賀さんは「最初は喧嘩ばかりだが、プロダクトを良くしたいという気持ちに満ちたHondaの社風を信じている」と語り、会場を沸かせました。
UX起点で動くエンジニアがぶつかった壁とは?
「じゃあ具体的にどんなプロダクトを、どういう苦労をしながら作っているのか」。後半では現場の若手エンジニアやプロダクトリーダーが、リアルな話を披露。
CASE1: ログRから学んだ「クルマ×スマホ」開発の難しさ
清水さんが担当したのは、シビックType R専用の車両データロガーアプリ『Honda LogR 2.0』。
サーキット走行などスポーティなドライビングを可視化するスマホアプリだが、車載システムやクラウドとの連携が複雑で、組織的には「車を作る」「車載アプリを作る」「サーバーを作る」「スマホアプリを作る」それぞれが別部門という状況。
結果、開発後半で仕様の大幅変更が入ったり、車載メーターとスマホUIの不一致が発生したりと、車とソフトの文化ギャップに苦しんだそう。
ただ同時に「実際にサーキットに行き、ユーザー視点を体験したことで、サービスの本質を掴み、さらに新しいアイデアを得られた」とも。そこで誕生したのが 「RoadPerformance」。
Type Rに限らず、すべてのクルマでスマホだけでも運転採点や走行データを可視化する新アプリだ。
「サーキットに行かない人にも価値を届けよう」「ワンタッチでスコアを楽しめるようにしよう」といったUX改善は、まさに失敗や苦労から生まれた実践的な知見だと清水さんは強調。
完成後もSNSやフィードバックを取り続け、短いスプリントでアップデートを継続しているとのこと。
CASE2: Apple Vision Proに挑むXRアプリ「with Emile」
「新しいデバイスで緩いつながりを作ろう」。そうして取り組んだのが、大坪さんがリードするApple Vision Pro向けアプリ『with Emile』。
「ユーザーがまだ少ないデバイスだからこそ、イノベーションの可能性がある」。
とはいえ日本で発売前のデバイスに向け、たった45日ほどでアプリ開発・リリースを成し遂げるのは至難の業。しかも「クルマの動きとリンクして自宅でもドライブ気分を共有する」という斬新なコンセプトを形にするには、数多くの技術検証を伴う。
結果的には、仮想空間内にキャラクターを配置して“乗っているクルマの動きを緩やかに伝える”表現を採用。
現在もユーザーフィードバックを収集中とのことで、大坪さんは「まだまだXR領域には大きな可能性があり、他にもいろいろ試していきたい」と意欲満々でした。
全体を踏まえた感想 〜「ガレージ的精神」でHondaはどこまで変わる?〜
「ユーザーの声に真摯に向き合う」という原点は、Honda創業者の時代から連綿と受け継がれている。新たに必要なのは、データやソフトウェア的アジリティを武器に、その原点をさらに強化すること――。
8回目となるHonda Tech Talksでは、その意志がいよいよ明確に形になり始めていることを感じました。
「The Garage」に象徴されるガレージ文化の本質は、「机上の計画ではなく、まず走らせてみる」という地に足がついたモノづくり。
- 大企業らしからぬスピード感で、バグも含めて発見をバックログ化し、改善のサイクルを猛烈に回す。
- 開発と実車・実バイクが直結するから、現場でのテストやユーザー・販売店の声がすぐ反映される。
- それを可能にするのは、Hondaの根底にある「チャレンジする人を受け入れる土壌」と「作りたい情熱を尊重するカルチャー」。
もちろん「何でも爆速」だけでは済まない難しさ(安全性の確保や多国籍なシステム連携など)はまだまだ残るそうですが、それでも諦めずに突き進む姿勢を、登壇者たちは強く示していました。
クルマやバイクは、今なお大きな価値を持つハードウェア。しかしデジタルが絡み始めると、「アップデートし続ける」ための組織と開発プロセスがどうしても必要になる。
そこをHondaは独自の「人の想い×シリコンバレー流×ガレージ」方式で切り拓こうとしているのです。
ある意味、ノウハウや前例が少ない領域なだけに、試行錯誤も多い。
しかし、その試行錯誤こそが新たなプロダクトや文化を生み、世界No.1のモビリティソフトウェア企業を目指す礎になるだろう――。
そんな大きな未来を感じさせるイベントでした。
「The Garage」に集う情熱がHondaを変える
最後は印象的な一言として、古賀さんが「とにかくやってみる。
それをぶっ壊してバックログに入れ、再挑戦を続ける」と語った通り、Honda流のデジタルプロダクト開発はまさにスタートしたばかり。
新しい仲間や外部パートナーとともに、顧客体験をアップデートする挑戦は続きます。
“ガレージ”に集まったエンジニアたちの熱気は、単なるアイデアや企画が本物のプロダクトへと成長する瞬間を生み出し続けるはず。
今後のHondaの動きから、ますます目が離せません。
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