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DjangoCongress JP 2025 レポート(Room1編)
はじめに
イベント概要
2025年2月22日、Pythonの代表的なWebフレームワークであるDjangoに特化したカンファレンス「DjangoCongress JP 2025」が開催されました。
公式サイトにはイベント全体の情報やプログラムが掲載されており、今回のオンライン開催に向けた企画背景なども詳しく紹介されています。
本年度はオンライン中心で開催され、アーカイブ映像も公開されています。
アーカイブ視聴はこちらからご覧いただけますので、当日リアルタイムで参加できなかった方でもあとから学ぶことが可能です。
Djangoを活用するエンジニア、学習中の学生、コミュニティのベテランなどが一堂に会し、最新技術や知見、経験談を共有する貴重な機会となりました。
今回は世界各地からの登壇者や視聴者も参加し、まさにグローバル規模でDjangoの魅力を再確認する場になったのが特徴です。
20周年を迎えるDjango
Djangoは2025年で20周年。Django Software Foundation(DSF)のコミュニティ拡大にともない、国内外の関心がさらに高まっています。
カンファレンスとしても、ミニッツを用いたリアルタイム翻訳やオンライン+パブリックビューイングの新たな試みにより、言語や物理的距離を超えた交流が活発でした。
本記事の対象範囲
本レポートでは、Room1のセッションを中心に1日の流れを紹介します。
朝から夕方まで、Django REST Framework(DRF)のアーキテクチャリファクタリングや非同期ORM、さらにはAIエージェントの応用事例まで幅広いテーマが扱われました。
Room2のセッションに関しては、こちら。
オープニングと最初の期待感
スタッフによる開幕メッセージ
朝10時のオープニングでは、運営スタッフから「楽しむことが大事」というメッセージが強調されました。オンラインチャットやパブリックビューイング会場では「おはようございます」「ハロー」という書き込みが飛び交い、一気ににぎやかな雰囲気に。
参加者層の多彩さ
参加者はDjango歴10年以上のベテランから、最近触れ始めたばかりの初学者までさまざま。誰もが自分のレベルや興味に応じて情報を得られるのがDjangoコミュニティの魅力です。
オープンソースならではの「誰でも歓迎する」空気感が、はやくも会場全体を包み込みました。
Room1への期待
Room1では、DRFをめぐる設計改善や、非同期処理対応への挑戦、そしてAI活用などバラエティ豊かなトピックが予定されていました。コミュニティ全体のモチベーションも高く、実践的な内容を深掘りしつつ学べる予感が漂います。
DRFを少しずつオニオンアーキテクチャに寄せていく
高速開発の副作用
登壇者の野呂有我氏は、スタートアップ初期にDRFで爆速開発したが、組織とプロダクトが成長するにつれアーキテクチャの歪みが顕在化した事例を紹介。
ビューやシリアライザにビジネスロジックが散在し、DB直接アクセスも複雑になり、影響範囲調査が難しくなる“あるある”を丁寧に語りました。
オニオンアーキテクチャへの移行
対策として、オニオンアーキテクチャを段階的に導入し、ビューやシリアライザは入出力のみ、ユースケースやドメイン層に業務ロジックを集約。
インフラ層でDBや外部サービス呼び出しを管理することで、責務を明確化しました。ただし、DRFの便利機能を捨てる場面もあり、チーム内での合意形成と根気強いリファクタリングが必要になったとのこと。
改善効果と今後
この移行により、コードレビューや新規参画者のキャッチアップがスムーズになったといいます。
ビジネスロジックがどこに書かれているか明確になるため、テストと保守が大幅に楽に。野呂氏は「既存プロダクトを全捨てするのではなく、一部の機能から徐々にオニオン化を進めるのが現実的」だとまとめました。
The Async Django ORM: Where Is it?
非同期化のロードマップ
Raphael Gaschignard氏は、Djangoコアが進めているasync対応の現状を解説。2019年以降、ビューやミドルウェアは段階的に非同期化されたが、ORMはまだ“完全対応”に至っていない背景があるといいます。
Djangoが伝統的に同期接続前提で書かれてきたため、後付けasync化は想定以上に複雑です。
現在の課題と取り組み
大きな課題はグローバルなコネクション管理とトランザクション制御。これらをasync的に書き換えるには広範囲に影響が及ぶため、PRが細かく分割されコミュニティで検証を重ねている状況とのこと。
ただし、新たなAPI提案や自動コード変換のアプローチなど前進は見られ、コミュニティの議論も活発化しているそうです。
展望
Raphael氏は「フレームワーク全体が完全非同期ORMに対応すれば、Djangoが高負荷環境においてもさらなるパフォーマンスを発揮できる可能性がある」と期待を述べました。
今後は開発者同士が積極的に試作コードを共有し、フィードバックを重ねることが最重要といいます。
FastAPIの現場から
導入の経緯
nikkie氏は機械学習の小規模API開発でFastAPIを採用した事例を紹介。ファストAPIのチュートリアルをざっと試したあと、短期間で本番運用までこぎつけたという実践レポートが印象的でした。
非同期I/OとSQLModel
ファストAPIは標準で非同期関数を扱いやすく、外部APIやDBアクセスが多い環境に向いているとのこと。
さらにSQLModelを使い、pydanticでのバリデーションと非同期DB操作を組み合わせると、開発効率が高いといいます。
一方で、Djangoライクなバッテリー同梱を求めると逆に不便になるケースもあり、設計の自由度と引き換えに多少のセットアップ手間があると述べました。
クリーンアーキテクチャ導入
nikkie氏のチームでは、ファストAPIのフレームワーク依存を最小限にしつつ、ドメイン・ユースケース・ゲートウェイ層でロジックを分割するアーキテクチャを導入。
Twelve-Factor Appの考え方も取り入れ、環境変数やログの設定を整えてコンテナ化しやすくしているという。Djangoと比べると学習コストはやや高いものの、非同期処理が多いプロジェクトに向いているとまとめました。
Speed at Scale for Django Web Applications
パフォーマンスの重要性
Chris Achinga氏は、大規模トラフィックでも高速応答を維持するためのDjango活用術を披露。
1秒の遅延が売上を下げる事例を交え、パフォーマンスチューニングは単なる技術的嗜好ではなくビジネス的必須要件であると力説しました。
クエリ最適化・キャッシング・非同期
Achinga氏は、まずORMクエリを洗練し、N+1問題を回避するためにプリフェッチやセレクト関連を使うことを提案。さらにDjangoの多彩なキャッシュ機能を活かしてCPU負荷を低減し、3.1以降の部分的非同期ビューを組み合わせるとより効果が大きいとしました。
データベースのインデックス設計やUvicorn/Gunicornの設定も、スケーラビリティに直結する要素とのこと。
ブラウザAPIとユーザー体感
最後に、フロントエンドのブラウザAPIを用いたプリフェッチやプリロードが「体感速度」を上げる有効策として取り上げられました。
サーバ側の高速化だけでなく、クライアント側の通信最適化もセットで考えることで、ユーザーにとってのレスポンスが格段に向上すると結ばれました。
Django NinjaによるAPI開発の効率化とリプレースの実践
リプレース背景
10年以上運用してきたDjangoプロジェクトの外部公開APIを「もっと拡張性とドキュメンテーションがしやすい形にしたい」と始まったリプレース事例。吉田花春氏は、Django Ninjaを選んだ理由として「既存のDjango資産を再利用しながら、型ヒントとOpenAPI生成を円滑に行える」点を挙げました。
Django Ninjaの特徴
Django NinjaはファストAPIの考え方を取り入れ、Pydanticベースでスキーマ定義とバリデーション、APIドキュメントを自動生成できる。
Django ORMやミドルウェアをほぼそのまま使いつつ、軽量なコードでモダンなAPIを実装できるのが利点だといいます。
導入効果と注意点
リプレースにあたり、部分移行でリスクを低減しながらドキュメントの同時更新を行ったそうです。その結果、APIの開発速度と保守性が大きく向上。
DRFで慣れ親しんだ開発者にはやや学び直しもあるが、型とOpenAPIを活かした“コードとドキュメントの同期”のメリットは大きいとまとめられました。
Implementing Agentic AI Solutions in Django from scratch
AIエージェント時代のDjango活用
Craig West氏が注目したのは、Djangoを使ってAIエージェント(AIが自律的に外部APIや処理を呼び出す仕組み)を実装する方法。
LLMをDjangoに組み込む“AI as API”の発想で、検索機能やFAQ、さらには自動スクリプト実行など新しい次元のUXをもたらす可能性があるといいます。
シンプル実装のデモ
デモでは、Djangoのビューが自然言語のリクエストを受け取り、外部LLM(OpenAIなど)と通信し、結果をJSONでパースして返却。エージェントが「どの外部APIを使うべきか」を考え、自律的にアクションを選択する仕組みをわずかなPythonコードで示しました。
プロンプトの書き方(プロンプトエンジニアリング)が成功のカギとのこと。
今後への期待
Craig氏は「この方法なら既存アプリにAI要素を簡単に加えられる」と強調。
AIフレームワークやライブラリを大がかりに導入する前に、DjangoからHTTPリクエスト→LLM→結果を実行する“最小限のAIエージェント”を試すだけでも、大きな効果が得られるかもしれないとまとめました。
Diving into DSF governance: past, present and future
DSF誕生と目的
Django Software Foundation(DSF)の成り立ちをSarah Abderemane氏が詳しく解説。Djangoがオープンソース化された2008年当時、コア開発者らが管理していた体制を非営利法人として整備したのがDSFのスタートだ。
コミュニティによるソフトウェア保護や商標管理、イベント支援などを担う役割を果たす。
組織構造と役員・メンバーシップ
DSFは理事会(Board of Directors)とオフィサーによる意思決定が基本。さらに、ワーキンググループという形で、コードオブコンダクトや財務、広報などのテーマに分かれてコミュニティ活動を支える。
個人や企業がメンバーシップを取得すると、DSFの運営に投票や財政面で参加できる。
今後の展望
Sarah氏はアジア圏など多様な地域からのメンバー増加を強く望んでおり、Djangoコミュニティがより国際的・包括的になることが重要だと語った。
DSFへの関わり方は寄付やメンバー加入、またローカルイベントの開催などさまざま。ガバナンスを理解すればこそ、Djangoの将来を一緒に築く面白さを体感できるはずだ。
クロージングと総括──Djangoの未来へ、コミュニティとともに歩む
クロージングのあたたかい空気
Room1のクロージングでは、運営スタッフと登壇者への感謝が繰り返し述べられました。配信機材からコミュニティづくりまで、多くのボランティアが支えたカンファレンス。
オンラインとパブリックビューイングを併用した新しい試みが好評を博し、リアルタイム翻訳ツールやチャットを通じた国際的な交流が光っていたのが印象的です。
さらなる発展と参加の呼びかけ
運営チームは、「より幅広いテーマを扱えるようにしたい」「アンケートの意見を次回に生かしたい」と語り、参加者からのフィードバックがコミュニティの成長を支えると強調していました。
Djangoを活用する全員が学び合い、技術だけでなくコミュニティ力で盛り上げていく展望が垣間見えます。
全体を踏まえた感想
今回のRoom1は、アーキテクチャの進化とコミュニティ運営の多面性をじっくり味わえる時間となりました。
DRFからオニオンアーキテクチャへの移行事例や、Async ORMの進捗、FastAPIとの比較、Django Ninjaを用いたリプレース、そしてAIエージェントへの応用など、バラエティ豊かな話題に共通していたのは「Djangoをどう活かし、どうコミュニティと共に成長させるか」という視点。
長年愛されるフレームワークとして、Djangoには多種多様なニーズとアイデアが集まっています。その核となるのがDjango Software Foundationであり、国境を越えた協力体制があるからこそ、新機能や先端的なアプローチに挑戦できるという好循環が続いているのだと改めて感じました。
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