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【三菱電機/ファインディ/博報堂テクノロジーズ/unerry/エムスリー/Turing】TECH PLAY Data Conference 2024 #2 イベントレポート
公開
2025-02-27
文章量
約5441字

Yard 編集部
Yardの編集部が、テック業界の最新トレンドや知見について発信します。
目次
はじめに
イベント全体の概要と狙い
登壇企業・セッション一覧
全セッションの概観
多様な視点で語られたデータ活用の最前線
三菱電機:デジタル基盤「Serendie」と歩むデータ分析活動
取り組みの背景
デジタル基盤『Serendie』の全貌
分析チームが直面した課題と工夫
具体的な分析事例
博報堂テクノロジーズ:生成AI時代に求められるデータマネジメント
博報堂DYグループ全体を支える取り組み
データマネジメント課題へのアプローチ
「教科書を超えた」実践事例
生成AI時代のビジョン
unerry:4億IDのビッグデータで実現する新分析基盤と社会への溶け込み
国内最大級の人流データプラットフォーム
新分析基盤開発のポイント
社会に溶け込むデータ活用
unerryが目指す未来
総括──データ活用の現在地とこれから
イベント全体を通じて見えたトレンド
3つのフォーカスセッションの共通点
さらなる発展への展望
結びの言葉
はじめに
イベント全体の概要と狙い
TECH PLAY Data Conference 2024 #2は、オンラインを通じて多彩な業界の“TECH COMPANY”が集結し、各社が手がけるデータ活用の実践知を共有する場として開催されました。登壇は三菱電機、ファインディ、博報堂テクノロジーズ、unerry、エムスリー、Turingの6社。
取り上げられたテーマは幅広く、生成AIの新潮流、データ基盤の新手法、大規模データ運用から自動運転など、現代のデータ利活用がどう進化しているかが各事例で語られました。
なかでも本レポートは、特に三菱電機・博報堂テクノロジーズ・unerryの3つのセッションに焦点を当てながら、イベント全体を俯瞰します。企業ごとに背景や課題は異なるものの、共通して見えてきたのは「データを軸にしたエコシステム」と「新時代のAI活用」です。
盛り上がりを見せたオンラインQ&Aからも、各社の取り組みに対する大きな期待がうかがえました。
登壇企業・セッション一覧
カンファレンスは全6セッション構成。それぞれ約20分の持ち時間で、データサイエンティストやクラウドエンジニア、機械学習・自動運転を専門とする技術者らが登壇しました。
- 三菱電機株式会社
- ファインディ株式会社
- 株式会社博報堂テクノロジーズ
- 株式会社unerry
- エムスリー株式会社
- Turing株式会社
ここでは、三菱電機「デジタル基盤『Serendie』」、博報堂テクノロジーズ「生成AI時代に求められるデータマネジメント」、unerry「4億IDのビッグデータ~」を中心に紹介します。
全セッションの概観
多様な視点で語られたデータ活用の最前線
今回のイベントは、単なる技術紹介にとどまらず、組織文化や事業戦略に根差したデータ活用が大きなテーマでした。三菱電機は膨大な事業セクターを横断するデータの利活用が焦点。博報堂テクノロジーズは、生成AI時代の全社的なデータマネジメントをどのように推進するかを強調。unerryはビッグデータ×位置情報で社会的インパクトを狙う姿勢が特徴的。
また、ファインディは複数プロダクトを跨いだデータメッシュ化、エムスリーは医療領域ならではの膨大なデータ基盤、Turingは自動運転モデルを支えるペタバイト級の管理と、それぞれ高度な技術と組織論の実践が語られました。大規模化するデータとAIモデルに対し、各社がどのようにアプローチしているかを知る上で、非常に有意義な内容だったといえます。
三菱電機:デジタル基盤「Serendie」と歩むデータ分析活動
取り組みの背景
家電から宇宙機器まで12の事業分野を擁する三菱電機。活用可能なデータの種類は膨大ですが、それをうまく使いこなしているとは限りません。そこで立ち上がったのがDXイノベーションセンター。社内のデジタル活用を推進しつつ、あらゆる部署のデータをつなぐデジタル基盤「Serendie」を整備しています。
この基盤を軸に、組織の縦割りを超えて新しいソリューション創出を図る意図があるものの、実際には事業導入体制や大規模データ管理など、いくつもの課題に直面。DXイノベーションセンターのデータサイエンティストたちは「スクラム」で案件を回しながら、内部で発生する膨大な分析依頼に応えているのが現状です。
デジタル基盤『Serendie』の全貌
「Serendie」は、全社のデータを一元管理し、モダンDWHやBIツールなどを連携させる統合プラットフォームとして構想されました。分析者がプロトタイプを迅速に構築できるよう、Dataikuなどローコードな環境を活かし、現場のアイデアをすぐに検証できるのがポイント。
さらに、単なる基盤提供だけでなく、DXイノベーションセンターが社内教育や啓蒙イベントを通じて支援することで、三菱電機の多様な事業を横断したデータ活用が実現しつつあります。ただ、事業部との調整や導入までの道のりは簡単ではなく、続くセクションでも課題が明かされました。
分析チームが直面した課題と工夫
分析チームは“スクラム”というアジャイル手法を導入して、複数プロジェクトの並行進行を乗りこなそうとしています。2週間ごとのスプリントでタスクを優先順位づけし、プロジェクトごとのレビューとレトロスペクティブを回すスタイルです。これにより、属人化を防ぎつつコミュニケーションを円滑にし、多種多様な分析要求に応える工夫を凝らしています。
しかし、分析結果を製品・サービスへ落とし込む際のハードルや、運用段階での体制構築が追い付かないケースも発生中。チームは「社内へのイベント開催やサンプルプロジェクトの共有でノウハウを蓄積し、プロダクション導入をスムーズにする」方策を進めています。成功事例が増えれば、セレンディの活用度もさらに高まるだろうとのことでした。
具体的な分析事例
セッションでは、具体的に工場の設備データを用いた稼働予測モデルや、ビルシステムの異常検知といったプロジェクトがスクラムで進んでいる例が紹介されました。いずれも、巨大なデータとドメイン知識が組み合わさることで新たな知見を得られているのが特徴です。
一方、「一度分析しても、サービス・製品化に至るまで十分な速度で進んでいない」ジレンマも。大企業が抱える組織体制の問題を解決すべく、DXイノベーションセンターでは更なる啓蒙と連携強化を計画しているといいます。
博報堂テクノロジーズ:生成AI時代に求められるデータマネジメント
博報堂DYグループ全体を支える取り組み
博報堂テクノロジーズは、大手広告企業グループ全体の“テクノロジーエンジン”として位置づけられています。近年、マーケティングのデジタル化が急速に進む中で、グループ各社には膨大なデータが存在するものの、横断的な活用を行うには課題が山積していました。そこに登場したのが、データマネジメントセンターという専門部隊です。
グループの全データを活用しやすい形へ整理し、さらに生成AIを安全かつ効率的に導入できる土台を整えるため、組織横断のプロセスを刷新。単なる技術導入ではなく、部署間のコミュニケーションや合意形成が要となる点が強調されました。
データマネジメント課題へのアプローチ
登壇者の竹内氏は、「技術だけでなく文化面での調整や横断的体制が不可欠」と話します。博報堂DYグループ内には多様な業態があり、データの権限管理やセキュリティ設定、果ては社内教育まで幅広い課題が存在。これをテクノロジーズだけでなく、各社の実務担当者を巻き込みながら改善していく姿勢を強調していました。
定期的なワークショップやプロジェクトベースの合意形成は、「教科書を超えた」実践の好例だそうです。実際の運用プロセスを“見える化”し、どこで誰が何に悩むのかを具体的に洗い出すことで、データマネジメントを一気にスムーズにする狙いがあるとのこと。
「教科書を超えた」実践事例
DMBOKなどの理論的枠組みはあくまで参考であり、現実に即した“折衝力”が求められるといいます。たとえばメタデータ管理一つをとっても、各部門が守るべきルールの合意をどう得るか、誰がメンテナンスするのかなど細部の調整が必須。実際、会議やディスカッションを通じて少しずつ前進させる地道なプロセスが、最終的な成功につながると竹内氏は強調。
さらに、生成AIを活用するためにはデータの品質確保が要となるため、その基盤整備こそがチャンスでもあるとのこと。AIへの入力データをあらかじめ整備しておけば、サービスや業務効率を劇的に高めることが可能になるわけです。
生成AI時代のビジョン
生成AIの波は確実に来ていますが、土台となるデータマネジメントが疎かでは成果を発揮できません。博報堂テクノロジーズは、「全役職員がストレスなくデータに触れられる世界」を目指して、これからも地道な体制構築を進めるとのこと。
「人間どうしの対話」を大切にすることで、ルール策定やシステム導入が“無理なく”社内に広がる――それが博報堂DYグループの強みになりつつあります。生成AI時代でも、組織文化や合意形成が核となることを改めて感じさせるセッションでした。
unerry:4億IDのビッグデータで実現する新分析基盤と社会への溶け込み
国内最大級の人流データプラットフォーム
unerry(ウネリー)は、“人々の移動”をデータ化することを得意とするデータカンパニー。月間840億件を超える位置情報ログを、利用者のプライバシーを守りながら保有しています。この膨大な人流データは、“まちづくり”や“小売店の出店戦略”、さらには“自治体の観光施策”まで、多方面で応用可能。
印象的なのは、こうしたリアルな行動履歴を捉えるビッグデータが、すでに社会インフラの一部として機能し始めている点です。unerryのアナリストやエンジニアは、膨大なログをアプリケーションや施策提案へ素早く変換できるかどうか、日々工夫を凝らしています。
新分析基盤開発のポイント
セッションで徳山氏が披露したのは、社内で構築中の新分析基盤。4億IDという大規模データを支えるうえで、従来の仕組みではコスト増大・運用逼迫などが深刻化していたそうです。
ここで導入したのが、ビッグクエリ等を活用した高度なパーティション分割やジオハッシュと呼ばれる位置情報クラスタリング手法。アクセス頻度や地域特性に合わせてデータを再構築することで、スキャン量を劇的に削減し、クエリコストと運用負荷の両面を改善しています。さらに、データメニューという概念を導入し、滞在判定や集約テーブルなどユーザーがすぐ使える形で提供する工夫がなされていました。
社会に溶け込むデータ活用
アナリストの嶋﨑氏によれば、unerryの強みはビッグデータの分析だけでなく、それをクライアントと一緒にサービス化・施策化まで突き詰める点にあると言います。小売業のマーケティング改善、地方自治体の観光誘致、さらには海外でのインフラ系プロジェクトなど、事例は多岐にわたるとのこと。
単に「データを集める」「分析する」だけではなく、業界ごとに必要な切り口やアプローチを柔軟に適用し、結果を実行可能なアクションにつなげる――この一連のプロセスを、unerryの専門チームが一貫して担っているわけです。ビッグデータを現場で使える情報に仕立てる技術と視点が、事業を拡大させる大きな要因になっているのです。
unerryが目指す未来
unerryの目標は、人流データを“インフラ”として根付かせること。膨大なログを高い精度で処理する新分析基盤により、データ提供先の幅が一気に広がる見込みです。海外やインバウンド需要への対応も含め、4億IDの人流情報は社会を変える可能性を秘めているとのこと。
位置情報データは活用範囲が極めて広いため、コスト抑制や運用負荷をコントロールしつつ、必要な人へ必要なデータを届けるのが鍵。unerryは技術力に支えられた“社会への溶け込み”を目指し、絶えず改善を続けています。
総括──データ活用の現在地とこれから
イベント全体を通じて見えたトレンド
六社それぞれ、データの潜在力を引き出すべく多彩な試行錯誤をしているのが印象的でした。基盤整備やガバナンス確立、生成AIの取り込みなど、複数切り口を同時に走らせる必要があり、現場は忙しく動いている様子。
データ量は増え、機械学習モデルの規模も加速度的に拡大する中、技術的にも組織的にも高度な解が求められているようです。
3つのフォーカスセッションの共通点
三菱電機は基盤×スクラムで大企業のDXを推進。博報堂テクノロジーズは生成AIとデータマネジメントの両輪で社内体制を強化。
unerryはビッグデータ分析を社会インフラ化する方向で加速――どれも、単なる技術力だけでなく、組織や文化の変革に踏み込んでいる点が際立ちます。
スムーズなデータ活用に向け、各社が“人と技術をどう掛け合わせるか”を模索しているのが共通する姿勢でした。
さらなる発展への展望
AI活用の裾野は広がり、データプラットフォームへの期待も高まるいっぽうで、ガバナンスや教育、合意形成といった“地道な取り組み”は今後も重要度を増すでしょう。
また、ペタバイト級データを扱うための新たな基盤や、データメッシュなどの分散アーキテクチャは、より多くの企業が採用を検討するはずです。
社会実装が当たり前になりつつある時代において、これらの試行錯誤がどこに行き着くのか、引き続き注目が集まります。
結びの言葉
生成AIや大規模分析基盤が躍進する今、データを巡る取り組みはますます複雑かつ魅力的になっている――本カンファレンスは、その最前線を体感できる機会だったといえます。
三菱電機、博報堂テクノロジーズ、unerryが示す具体的事例は、データ活用における組織・文化・技術の融合がどれほど大切かを実感させました。
ファインディ、エムスリー、Turingも含め、まだまだ途中段階の試みが多いからこそ、今後の発展が楽しみです。カンファレンスの余熱に刺激され、新たなコラボレーションや技術交流が起きれば、データ活用はさらに広がっていくでしょう。
そんな期待を抱かせてくれる“熱”が、このイベントには確かに存在していました。
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