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【イベントレポート】ソフトウェアアーキテクトのための意思決定術 〜Forkwell Library #80〜
公開
2025-02-20
文章量
約2879字

Yard 編集部
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イベントレポート
Insight
イベント概要
- イベント名ソフトウェアアーキテクトのための意思決定術 〜Forkwell Library #80〜
- 開催日時2025年1月30日(木)19:30〜21:00(オンライン)
- 主催 / 運営Forkwell
- テーマ・背景アーキテクトの役割がますます重要視される中、不確実性や多様な要件に直面するソフトウェア開発現場で、「どのような視点・アプローチで意思決定を行うべきか?」が大きな課題となっています。本イベントでは、その一助となる書籍『ソフトウェアアーキテクトのための意思決定術』を取り上げ、役者である 島田浩二 氏 による講演と、株式会社ログラス 鈴木健一 氏をモデレーターに迎えたディスカッションを通じて、アーキテクトの意思決定術を深掘りしました。
登壇者・モデレーター
講演者: 島田 浩二 氏(株式会社エテック 代表)
- ソフトウェア開発の支援やコンサルティングなどを行う株式会社エテック代表取締役社長。
- 多数の技術書翻訳・執筆実績を持ち、特に分散アーキテクチャやマイクロサービス周辺の書籍を数多く手がける。
- 今回は『ソフトウェアアーキテクトのための意思決定術』の 翻訳者 として、書籍のポイントや背景を紹介。
モデレーター: 鈴木 健一 氏(株式会社ログラス)
- ログラスのイネーブリング・プラットフォーム部 部長。
- 過去にもForkwell Libraryイベントに登壇経験あり。
- アーキテクトや技術基盤構築に深い知見を持ち、今回は島田氏とのQ&Aをリード。
講演パート:島田氏が語る「意思決定術」とは?
本編冒頭では、島田氏が同書の狙いを丁寧に解説。
1. 書籍が生まれた背景
- ソフトウェアアーキテクチャの“失敗” は、単なる知識不足よりも「判断力の不足」が大きな原因という著者の問題意識。
- 設計パターンや技術スタイルの知識はあっても、「なぜその決定をするのか」「どう比較・検討したのか」など、意思決定のプロセスがおろそかになりがち。
- そこで、リーダーシップやビジネス的視点も含め、アーキテクトが意思決定を行うためのフレームワークを提供するのが本書のゴール。
2. ソフトウェアアーキテクチャが難しい理由
- 幅広い要因への対応アーキテクチャはビジネス要件、組織構造、技術的制約など、膨大な要素に影響される。
- 不確実性実際の要求・ユーザー行動・将来的な拡張性など、曖昧さを抱えたまま設計する必要がある。
- 「未知の未知(何を知らないかさえ知らない)」が存在する状態での意思決定が避けられない。
3. 書籍の構成
- 5つの問い / 7つの原則不確実性の中で最適解を導くための「自問 / 思考ツール」として提示される。
- 5つの問い例:「システムを書き直せるのはいつか?」…段階ごとに設計を捨て、必要に応じてリプレースする“犠牲的アーキテクチャ”の考え方を促す、など
- 7つの原則例:「イテレイティブに小さくスライスし、早期に学びを得る」「変更が難しい領域は深く設計する」…アーキテクチャ全体を徹底的に最初から固めるのではなく、不確実性が高い部分は早期にリスクを削減するアプローチを推奨
- 各章ごとに扱う領域3章~4章:システムパフォーマンス / UX5章~10章:マクロアーキテクチャ(システム全体の構成)をどう決定するか11章~12章:サービスレベル・運用レベルでの観点(サーバアーキテクチャ / 安定性 など)
- コンパクトだが多岐にわたる領域を概観。必要な知識をコンパクトにまとめつつ、不足分は他書籍や実践を通じて学ぶアプローチを想定。
視聴者Q&Aパネル:モデレーション by 鈴木氏
講演後、鈴木氏との対談・Q&Aでさらに内容が深掘りされた。主なハイライトは以下の通り。
1. 「アーキテクトが考慮すべき要素」はどう管理する?
- 書籍には「5つの問い / 7つの原則」があるが、実際の現場にはさらに多様な制約・要素が絡む。
- 島田氏:「あくまで“入り口の問い”として活用を。自社固有の前提や制約を整理し、追加の問いを設定するのが望ましい」
2. リプレース案件の意思決定をどう進める?
- 質問:「10年~20年稼働のレガシーシステムを全面リプレースせよと任された場合、アーキテクチャー検討はどこから始める?」
- 島田氏:
- 「本当に全面リプレースが必要なのか?という検証から始める。一気に全部作り直しはリスクが高い。部分的に切り出せる機能から先行移行すべき」
- 「“犠牲的アーキテクチャ”を踏まえ、設計時から捨てどきを想定する考え方が有効」
- 鈴木氏:
- 「平行稼働でリスクを抑えたり、既存システムを小分けに置き換える方法が現実的。目標段階をどこに設定するかが大事」
3. データ品質など非機能要件を経営層に説明するには?
- 機能的な要件より、データ品質やセキュリティなど「目に見えにくい領域」は説得しづらい。
- 島田氏:
- 「不確実性やリスクを数値化したり、過去事例・被害額を参照して説明し、『優先度を上げる意義』を可視化する」
- 「必要に応じて専門チーム / SRE 的視点を巻き込み、組織として品質を担保する仕組みに」
- 鈴木氏:
- 「最終的には“誰がそのデータをどのように活用するのか”をはっきりさせる。オーナーが明確になると、品質への納得感が得やすい」
イベントを通じての学び・まとめ
- 意思決定の“型”を学ぶことが重要
- 単なる知識量ではなく、組織やビジネス、技術要素の制約を捉え、トレードオフを評価し、結論を導くプロセスこそが要。
- 書籍では「5つの問い」と「7つの原則」を通じて、体系的にアプローチしている。
- 最初からすべてを完璧に設計しない
- 不確実性が高い領域は、実験やイテレーションを通じて学びを得る。
- ただし変更困難な部分(セキュリティなど)は最初に深い検討を要する。現代的なアジャイル×アーキテクチャの考え方。
- リプレース案件も小さくスライスせよ
- 大規模ビッグバン方式はリスクが大きい。アーキテクチャを進化的に置き換える計画を立てる。
- 部分的に並行稼働や移行を進めるなど、ビジネスに与える影響を最小化しつつ、コストとリスクを減らす。
- 非機能要件やデータ品質をどう可視化するか
- 必要に応じてリスク評価(金額換算 / 過去事例)を示し、経営層の優先度理解を得る。
- UXやパフォーマンスなどユーザーが体感する価値・フィードバックも対外説明に有効。
イベントを視聴しての感想
- 「不確実性のマネジメントが大事という話がとても腹落ちした。5つの問い / 7つの原則が“考え漏れ防止”として活かせそう」
- 「大規模リプレースの相談が多く、切り出し手法や犠牲的アーキテクチャの考え方が大いに参考になった」
- 「意思決定プロセスに加え、UX・パフォーマンス・セキュリティなど幅広い要素をどう扱うかのヒントが得られた」
イベントは「多面的な意思決定術が学べた」「より幅広い知識や実践例を織り交ぜるきっかけになりそう」といった声が多く寄せられ、ソフトウェアアーキテクトを志す・すでに携わるエンジニアにとって有意義な内容となった。
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