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技術的負債解消の軌跡~現場と経営をつなぐ実践事例~ イベントレポート
本記事は「技術的負債解消の軌跡~現場と経営をつなぐ実践事例~」(2025年2月12日開催)のオンラインイベントレポートです。
DMM.comの石垣氏と弁護士ドットコムの井田氏の両名をお迎えし、組織・現場・経営を巻き込みながら技術的負債を解消するためのアプローチや、実際に行われたプロセス・組織体制づくりなど多面的な取り組みが共有されました。
イベント概要
イベント名
「技術的負債解消の軌跡~現場と経営をつなぐ実践事例~」
開催日時
2025年2月12日(水) 12:00〜13:15(オンライン開催)
登壇者
石垣 雅人(合同会社DMM.com)
第1開発部などの開発組織を率い、プラットフォーム開発部の部長を務める。
テーマ:「技術負債の『予兆検知』と『状況異変』のススメ」
井田 治義(弁護士ドットコム株式会社)
クラウドサイン事業部の開発組織を率いる。
テーマ:「技術的負債解消の取り組みと 専門チームのお話」
こんな方におすすめ
組織全体で技術的負債に対処したいが、どこから着手すべきか迷っている
経営層や他部署を巻き込んだアプローチを知りたい
大規模プロダクトでの技術的負債管理・解消のリアルな成功/失敗事例を参考にしたい
イベントのゴール
各社における技術的負債の優先順位付けやプロセスの組み方の具体例を学ぶ
「技術的負債を解消するための組織づくり・コミュニケーション術」が得られる
現場と経営を円滑に繋ぎ、長期的な負債解消を実行できるヒントを持ち帰る
セッション1:技術負債の『予兆検知』と『状況異変』のススメ(石垣 雅人 DMM.com)
1. まずは負債の“予兆”をどうキャッチする?
石垣氏が最初に強調したのは、「技術的負債は突然に顕在化するわけではない」という視点。 日々の開発・運用・レビュー・障害対応を観察していると、さまざまな“負債の兆候”が見え隠れする。具体例としては:
見積もりと実際の工数の差が広がる
大きな機能開発で、当初のざっくり見積もり(例:1人月)から詳細設計後の見積もり(3人月)に膨れ上がる
さらにスプリントでの実工数は3人月を超え5人月になる…といったケース
「なぜこんなにズレる?」を深掘りすると、アーキテクチャが陳腐化していたり、テスト環境が老朽化していたりという負債が潜んでいる
コード変更やレビューにかかる時間がだんだん増える
1年前と比べて小さなPRでもレビュー時間が倍以上
コードがスパゲッティ化しているか、環境が複雑化しているサインの可能性
障害件数や再発防止策の未着手率の増加
運用でヒヤヒヤしながらサービスを走らせている
ポストモーテムは書くが、再発防止策が永遠に後回しで放置される
「意図しない小爆発」が頻発 → 大爆発(重大障害)のリスクが高まる
開発者のエンゲージメント低下
「新機能を作りたいのに既存バグ対応に疲弊…」
「技術トレンドから取り残され、モチベが落ちてる」
個々のアンケートや1on1等での“違和感”が大きくなるほど負債が溜まっているシグナルになりやすい
2. 現場から経営層へ説得~「技術負債は未来への投資」
負債解消にはエンジニア組織だけでなく事業責任者の理解が不可欠。石垣氏曰く、経営層はいわゆる“今期のKPI/予算達成”を最重視するため、“なぜ今やるのか?”を明確にすることが大切だと強調。
「事業側は“とにかく新機能をリリースしたい”のがファーストプライオリティ。しかし、技術負債が多いと、実装スピードは下がり、将来のロードマップにも悪影響を及ぼす。これを『必要な投資』としてアピールしよう」
新機能 vs. 負債解消という二項対立での衝突は避ける
人件費における“保守/技術負債解消”のコストをあらかじめ盛り込む
新機能に直結しないように見えるが、 「結果的に開発スピードが上がる」「リスク低減する」 という将来価値を数字やケースで提示
3. 1年以内に終わらせる“大胆なリプレイス”も
負債解消には小刻みにやるパターンもあれば、大規模リプレイスなど一気に脱却を狙うパターンもある。
DMM.comでは「1~2年規模のリプレイスは、むしろ古くなって再度負債化する」との経験則から、“1年以内で完遂できる規模に分割”し、専門チームを組んで取り組むケースもあるという。
「いずれにせよ“ここまでをいつまでに”とゴールを明示しないとズルズル先送りになりやすい」と述べた。
セッション2:技術的負債解消の取り組みと専門チームのお話(井田 治義 弁護士ドットコム)
1. クラウドサイン事業部での組織づくり
電子契約サービス「クラウドサイン」は現在急成長中。
顧客からの要望や新機能のアイデアも多く、開発リソースは常にフル稼働状態。
そのなかで井田氏は「エンジニアリング改善にフルコミットするチーム“テクノロジー連”を作り、技術的負債解消のロードマップを回す」という施策を実施。結果:
フロントエンドやバックエンドなどを担当する複数の改善チームが生まれ、ビュー.jsの大規模バージョンアップなども専業で実施可能に
「手が空いた時にやろう」という後回しの姿勢から脱却し、“本気で負債を潰す”組織体制を確立
2. 技術負債とコミュニケーション
井田氏も「負債はエンジニアだけの問題ではなく、組織全体の問題」と強調。
とはいえ、負債解消に割くリソースをどう経営陣に理解してもらうかが難しいところ。そこで彼が打ち出したのが「フライパンの焦げ付き」という例え話。
“フライパンに少しずつ焦げが溜まっていって、次の料理(機能開発)の仕上がりに悪影響が出ている”
“ある程度の頻度でフライパンをしっかり洗う=負債解消することで、新機能の品質やリリーススピードも向上する”
経営層や事業責任者は「なるほど、これは必要なメンテナンスだ」と理解を深め、「改善のための専門チームを増やしたい」という提案も受け入れられた。
その結果、フロントエンド側にも同様の改善チームが作れたという。
3. 負債解消の成果をどう“見せる”か
専門チームが成果を上げるためには、負債解消がユーザやプロダクト価値にどう寄与しているかを社内に伝える必要がある。
井田氏いわく、「定量的な金額換算やROI試算だけでは説明しきれない面もあるが、“パフォーマンスや操作感が改善し、顧客から好評だった”といったフィードバックを共有するほうが説得力を増す」と語った。
パネルディスカッション
モデレーター:高橋 裕之(Findy, CTO室)
石垣氏・井田氏に対して、以下のテーマを中心にトークが展開されました。
1. 技術的負債の抑制をどう工夫している?
石垣氏
設計段階でのレビューや組織内での教育を徹底。
「むやみにスパゲッティ化を許さないために、組織として設計のクオリティを高める時間やスキルアップの場を設けている」
あわせて20%ルール的な時間確保の方針は、各チームの状況・事業フェーズに応じて柔軟に適用
井田氏
「デザインドキュメントを必ず書き、技術リードたちが横断的にレビューする」ルール
組織的なプロセスを強制しすぎず、しかし一定の“レビューガード”を設けることで、負債が生まれにくい文化を醸成
2. 経営層をどう説得する?
石垣氏
「結局、事業側は『なぜこんなに開発が遅い?』を解消してほしいことが本音」
そこで“負債解消=開発スピード回復”と説明し、「新機能をスムーズにリリースできる体制づくり」を投資対象として提示
井田氏
負債とひと言で言っても経営層が抱くイメージはバラバラ。「フライパンの焦げ付き」など身近なたとえ話で必要性を説く
専門チームが存在するメリット(必要なロードマップを継続実行できる)を強調
3. お互いに聞いてみたいこと
お互いに“どうやって大規模リプレイスやライブラリ乗り換えを実現しているのか” という部分に関心
井田氏の例:EOL(End of Life)を迎えたミドルウェアを平行稼働で乗り換え → パフォーマンス・UX改善で顧客満足度UP
石垣氏の例:会員基盤リプレイスは極めて大規模。移行機構を作り、データコンバートを少しずつ進めるなど工夫
Q&A ダイジェスト
Q1. 負債解消を金額に換算してレポートすることは?
石垣氏:賃借対照表に見えるわけではないが、結果として“開発スピード向上”をコスト換算で示すことが多い。 「同じ開発が従来3人月 → 今2人月でできるようになりました」という数字が経営層には伝わりやすい。
井田氏:あえて金額化しない場合も。数字が独り歩きすると不要な責任論になりかねない。アウトカム(顧客満足度・パフォーマンス向上など)を強調。
Q2. 技術的負債を管理する際、ツールは?
井田氏:弁護士ドットコムではスプレッドシートで管理し、「技術負債リスト」として改善レーンが独自に持っている。
石垣氏:ジラやスプレッドシートなど何でもOK。大切なのは「負債がどこに起因しているか」を視覚化し、組織ぐるみで動けるようにすること。
Q3. 過去最大の負債は?
井田氏:検索基盤のEOL乗り換え→膨大なデータ移行+平行稼働。しかもUXにも直結。
石垣氏:会員基盤リプレイス。言語やデータ構造まで全部再設計し、移行専用の機構を作って何とか1年程度で完遂。
まとめ
負債の兆候をいち早く捉える“予兆検知”が重要
見積もり差分・障害件数・エンジニアのモチベ低下など、数字やサーベイでシグナルを見逃さない
経営層に対しては、“負債解消=未来への投資”を具体例で提示
単なる“コスト”ではなく、「これをしないと開発速度やUX向上が実現しない」というロジックが鍵
大規模リプレイスも含め、専門チームを作るなど組織づくりが肝
後回しになりがちな部分を“専門部隊”が継続的に担うことで、確実に解決へ進める
成果報告は定量評価だけでなく、顧客満足度や開発効率向上など多角的にアピール
経営層が重視する指標:スピード・安定稼働・将来のリスク回避などを説得材料に
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