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「話題の近著『データエンジニア』著者による、書籍のポイント解説」イベントレポート
公開
2025-04-03
更新
2025-04-03
文章量
約3281字
株式会社ヤードの代表で、Yardの開発者です。 データプロダクトの受託開発や技術顧問・アドバイザーもお受けしております。 #データ利活用 #DevOps #個人開発
2025年3月11日、「データ横丁」コミュニティ主催で行われたYouTubeライブ配信イベント「話題の近著『データエンジニア』著者による、書籍のポイント解説」が開催されました。2月末に共立出版から刊行されたばかりの『データエンジニア』に関して、著者である園田隆盛氏と、監修者の中村仁也氏が直接解説を行うということで、データ業界の実務者から大きな注目を集めました。
本稿では、イベント前半で語られた「データエンジニア」という存在の再定義の要点と、後半に行われたQ&Aセクションを振り返りつつ、全体を通した感想をまとめます。
著者・監修者の自己紹介
まずは、本書の著者・監修者のお二人から簡単な自己紹介がありました。
著者:園田 隆盛 氏
システムインテグレーターや外資系製薬企業にてデータエンジニアとして活躍。
「データのハードスキル」だけでなく「コミュニケーションを含むソフトスキル」の重要性を強く感じてきた背景をもとに、本書の内容を執筆。
監修者:中村 仁也 氏
アナリティクスコンサルティング企業にて長年、データサイエンスの業務を推進。
データ分析を進めるほどに「データ処理と分析の橋渡し」を担う専門役割が不可欠だと痛感。
「データエンジニアの再定義」を掲げ、園田氏とともに執筆に着手。
お二人いわく、本書は1年以上かけてまとめあげたとのことで、想定以上に執筆時間を要したそうです。それほどに「データエンジニア」の概念化が困難であり、一方で多くの現場が抱える課題であることが伺えました。
書籍『データエンジニア』のポイント解説
著者の園田氏から、本書が提唱する「データエンジニア」のあり方について、いくつかのスライドを用いて説明が行われました。
組織の三機能とデータ利活用
まず、「意思決定機能」「オペレーション機能」「情報処理機能」という3つの役割が企業には存在すると整理されました。
意思決定機能(例:経営部門) 企業目的の設定と達成を担う
オペレーション機能(例:製造や販売、マーケティングなど) 外部とのコミュニケーションを担う
情報処理機能(例:情報システム部門) システムやデータを正確に扱う
これら3つはそれぞれ組織内で異なるゴールを優先しがちであり、データ利活用の視点が分散・断絶してしまうことが多い、と園田氏は指摘します。
「データ利活用」という言葉がよく使われますが、実は既に活用されているデータもあれば、活用されていないデータもある。
活用が定着していれば名前が付き、システムが整備される
活用されていない状態を漠然と「データ利活用したい」と呼んでいる
これが、必要なデータと目的が噛み合わず「データ活用が進まない」現状を生み出している、と中村氏も補足しながら解説していました。
データエンジニアの役割を「再定義」する意義
書籍では、既存の「システムエンジニア」が担う正確性重視の情報処理機能とも異なる、 “スピードとコミュニケーション重視”のデータエンジニアリング を新たに定義することを提案しています。これにより、
データ利活用のためのコミュニケーションコストを下げる
それぞれの部門が持つ視点を補い合い、データをビジネスに紐づける
という効果を狙うのだといいます。
同時に、組織的には「データエンジニア組織」を明確に置くことで、経営部門や他部門が「誰に聞けばいいか」を明確化し、社内ネットワークを形成しやすくする。ここが本書の強調点であり、“いわゆるシステムエンジニアの延長線”にあるスキルだけでは不十分、という警鐘が鳴らされていました。
ビジネスとデータをつなぐハブとしての存在
後半では、いわゆる「DIKWピラミッド」や「DEKAモデル」をもとに、企業内でデータをいかに情報・知識へと展開し、最終的には行動や結果へ落とし込むかを説明していました。その際、情報システム部門・オペレーション部門・経営部門それぞれが背負う役割や関心事をきちんと整理し、 “データのハブ” としてのデータエンジニアが立ち回る重要性が再三強調されていました。
また、「自分の部署だけを守るのではなく、複数の部門の視点を背負って会議に臨む」という具体的なイメージが示されました。参加者からも、「いつも現場で薄々感じていたことを、きちんと言葉で整理してもらえた」というチャットが多数寄せられ、共感を呼んでいた様子が印象的でした。
Q&Aセクションの内容
イベント後半は質問時間(約5分間)が設けられ、YouTubeのチャット欄からいくつかの質問が取り上げられました。
用語やモデルへの疑問
「DOA(Data Oriented Approach)の意味がもっと知りたい」という声に対して、中村氏は「組織内でデータをどう扱うかを第一に考える姿勢と捉えてほしい」と補足しつつ、実際には意思決定・オペレーション・情報処理のそれぞれから見たデータの観点がバラバラになっている現状を指摘しました。
データカタログや知識継承の重要性
「データカタログのような仕組みを整備するのはデータエンジニアの仕事か?」という質問に対し、園田氏は「コミュニケーションを基盤とする役割だからこそ、俗人化しないよう情報を表に出す必要がある。データエンジニア組織全体で継承しやすい仕掛けを作るのが理想」と回答しました。 中村氏も「コストやKPIがどうしても可視化しにくい分野だが、データエンジニアを独立した評価軸で運営することで、こうした活動が評価されやすくなる」と続けていました。
「データエンジニア」の肩書きに込めた想い
「“データエンジニア”という単語に抵抗を感じることはなかったのか?」という問いに対して、中村氏は「システムエンジニアとの違いをどこで線引きするのか、議論は非常に悩んだ」と振り返りました。ビッグデータや高度なデータ基盤開発だけを指すのではなく、 “ビジネスを理解し、データを連携させるハブ” として捉えてほしい、という想いからあえて“データエンジニア”と再定義したとのことです。
全体を踏まえた感想—「コミュニケーションを基点とするエンジニアリング」
短い配信時間ながら、本書の核となる考え方が端的に示され、参加者からは「読み進めるモチベーションが上がった」「さっそく自社への導入を検討したい」などの好意的なコメントが続々と上がっていました。
データエンジニアをシステム基盤開発者としてではなく、組織内のデータに関するコミュニケーションを設計・推進する役割として再定義するアイデアは、多くの現場が抱える「データはあるけれど使いこなせない」課題に対して、具体的な処方箋を与えてくれる印象です。部門間が同じ方向を向けず、結果的にデータ利活用が停滞するケースは往々にして見られますが、そこに真ん中から橋渡しをする人材や組織を据えることの意義が改めて明確になりました。
一方、従来の「データエンジニア=高度な技術スキルを持つ開発者」というイメージとは異なり、本書で語られるデータエンジニアはコミュニケーションをハブにする職能という点が新鮮です。ここには、専門スキルや業界特化スキルも重要な要素として含まれるとしながらも、最終的には組織内の情報ネットワークをいかに整えられるかが問われるという主張が強く感じられました。
本書は、データ活用をさらに深めたいと考える現場や、すでに「こういう人、社内にいるよね」と思える存在がある組織にとって、改めて役職や役割を明確化してあげるヒントになりそうです。組織規模の大小にかかわらず「自社のデータ利活用をもっと推進したい」と考えるなら、一読の価値があるといえるでしょう。配信最後に触れられた「抽選で書籍プレゼント」には大きな盛り上がりがあり、今後も追加のセミナー企画を期待する声も多く見受けられました。
「データを通じて組織を変えたい」「でも、どこからどう変えればいいか分からない」──そんな悩みを持つ人にこそ、本書のメッセージが響くのではないでしょうか。今回のレポートが、少しでも興味を持たれた方の背中を押すきっかけになれば幸いです。