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【イベントレポート】私の個人開発自慢LT Night
公開
2025-02-27
文章量
約4509字
株式会社ヤードの代表で、Yardの開発者です。 データプロダクトの受託開発や技術顧問・アドバイザーもお受けしております。 #データ利活用 #DevOps #個人開発
「私の個人開発自慢LT Night」イベントレポート
2025年2月19日、「私の個人開発自慢LT Night」と題したオンラインイベントが開催されました。
世の中には色とりどりの個人開発が存在し、それを「どうやって思いついたか」「なぜ今つくるのか」「技術選定やバズを狙う戦略はあるのか」という視点で語り合うLT(ライトニングトーク)会です。
企画の狙いは「自分の得意分野や興味に沿ったアプリ/サービス開発を、どうモチベーションに変え、社会に発信していくか」。
アプリ開発や技術への熱い思いを抱えた7名のエンジニア・クリエイターが、思わず自慢したくなる個人開発の舞台裏を語りました。
発表1: 「今からできる簡単アイディア出し」
登壇者: とぴ @topi_log(株式会社PREVENT)とぴさんは1年間で18個もの個人開発プロダクトをリリースしてきた“量産型”エンジニア。そんな彼が語るポイントは「何でもいいから深堀りしてアプリのアイデアを具体化する」というテクニックでした。
- テーマ設定:漠然と「何か作りたい」では始まらない。たとえば「学生時代に所属していた文芸部」→「部誌でリレー小説を書いていた」という“過去の経験”を抽象的に取り上げて、少しずつ分解していく。
- こだわりを差し込む:似たようなサービスがありそうでも「画面デザインを徹底的に和紙風にしたい」「縦書きテキストを絶対実装する」といった個性を付与することでオリジナリティが出る。
- 独自性は「こだわり」から生まれる:市場や需要を厳密に考えなくてもいい。とにかく自分が愛せる部分をつくってリリースしてみるのが個人開発の醍醐味だと強調。
結果、「失敗を恐れず、ピンときたテーマに飛びついて作り、こだわりを注入して独自色を出す」。
これこそが大量の個人開発を進める原動力だと感じさせる発表でした。
発表2: 「安くて速いWebサイトを作る」
登壇者: にしはら @crayfisher_zari(株式会社ICS)
次はWebフロントエンドエンジニアとして活躍するにしはらさんが「早くて安いサイト」をどう作るかを披露。
彼が作ったサイト「Web Motion Catalog」は、Webサイト上のアニメーションや動きの実装サンプルを多数集めたギャラリー。これをCDNや遅延ロードなどさまざまな工夫で、トップクラスの高速表示を実現。さらにコスト削減のために無償プランを活用しまくって、実質ランニングコスト0円を成し遂げているとのこと。
- 高速化のポイント
- 完全静的化(ビルド時に生成)
- CDN配信(クラウドフレア系サービス)
- 画像はWebP利用 + 圧縮
- 遅延ロード(LazyLoad)で初期負荷軽減
- デザイン段階からスライダー等を必要最低限に
- 安さのポイント
- サーバーレスやホスティングの無料枠を駆使
- フォーム送信機能やCaptcha対策サービスも無償の範囲でカバー
- 独自ドメイン費用以外は実質0円
「個人開発は自由度が高い分、デザイン面で高速化に向いた設計を取りやすい」との言葉には説得力がありました。
発表3: 「なぜ私は自分が使わないサービスを作るのか?」
登壇者: 遠藤 薫 @aiandrox(ファインディ株式会社)
3人目、ENDさんは「自分は使わないのに開発している」という逆説的な話を展開。「世間では『自分が欲しい物を作ろう』が定石だが、あえて私はそれをしていない」と語ります。
- ハシログ:ハッシュタグ付きの学習ツイートを継続する人向けの可視化アプリ。自分はそういうツイートをしないが、「続けるのすごい」と思い、可視化ツールを作った。
- FaceSwapper:SNS投稿時に顔をスタンプで隠すのは大変…じゃあ自動でアイコン変換しよう、と作ったアプリ。ENDさん自身は顔隠しをしないので使わないが、ニーズはあるはず、とリリースした。
結論は「個人開発は“エゴ”でもOK」。自分が使わない=需要を理解できない不安はあるものの、思いついてやりたくなったら作ってみる――その“押し付け”感も含めて面白い。それこそが個人開発らしさだというメッセージがユニークでした。
発表4: 「LTVを伸ばすためにやったこと〜家事共有アプリ『CAJICO』の収益化施策と実践〜」
登壇者: かつを @katsuwo_app(フリーランス)
4人目は、家事分担をポイント化するアプリ「カジコ」を開発し、多数のユーザーに利用されているかつをさん。「月数万ユーザーがいる中で、どうLTV(1ユーザーあたりの売上)を上げるか」というテーマで施策事例を紹介。
- 広告ネットワークのメディエーション:ADMOBだけに頼るのではなく、複数の広告ネットワークを一元管理。最高単価の広告を自動的に優先させる仕組みで、収益増。
- ASP(アフィリエイト)導入:成果報酬型ASPを試みたが成果は芳しくなく。家事アプリの文脈で商品を買ってもらうハードルが高かった模様。
- サブスクのリターゲティング割引:大会ユーザーへのプッシュ通知やメールで割引を誘うも、大きな効果はなかった。ユーザーは価格よりニーズがなくなったことが原因っぽい。
- Pay画面(サブスク画面)の改善:実際にはボタン配置やUI要素の工夫で、コンバージョン率が1.3〜1.5倍上昇。「本質的にはUX全体が重要だが、収益面の改善はUIで即効性が高い」とのこと。
「そこまでがゴールではない。ユーザー満足を上げなければ長期的な成功は難しい」との総括が深みを感じさせました。
発表5: 「ポケモンの対戦動画を解析するアプリを作ってみた」
登壇者: fufufukakaka @fufufukakaka(コミューン株式会社)
ポケモン対戦を機械学習で分析する――ゲーマー兼MLエンジニアのfukkaa1225さんが、Pokémon対戦動画をOCRや映像解析で自動取得し、データをDBにため込み、勝率など統計を可視化する個人開発を紹介。
技術構成はPython + OpenCV + ffmpegで映像解析し、手元DBに保存。さらにOCRで画面の敵ポケモン名や技などを取得し、戦術分析に活かす。対戦ログをダッシュボードで可視化して「自分の草(対戦頻度)をモチベにしている」とのこと。
「趣味にMLを掛け合わせると、継続的にデータを集められ、モデル精度向上を楽しめる」というサイエンス×エンタメの好例でした。
発表6: 「運用しているアプリケーションのDBリプレイスをやってみた」
登壇者: 三浦 耕生 @k_miura_io(Acall 株式会社)
「技術寄りの話をしたい」と切り出した三浦さん。個人開発のサンプルアプリを“本格的なインフラ運用”へ移行した体験を共有。
元々Lightsail(AWSのVPS的サービス)でMySQLを持っていたが、DBコストや構成の簡素化などを理由にNeonやSupabase系のように注目される「TiDBクラウドサーバレス」を導入。
MySQLのダンプで移行でき、さらに無料枠やブラウザのSQLエディタなどユニークな機能が多く、非常に満足度が高いとのこと。
しかし、結局DBコストは安くなったが、他のサービスに投資して総額はあまり変わらなかったとのオチも。「個人開発ならではのインフラ移行体験」が興味深い内容でした。
発表7: 「個人開発者がレビューを増やしつつ高評価維持するテクニック」
登壇者: tsuzuki817 @tsuzuki817(株式会社ZOZO)
ラストは鈴木さん。長年個人開発し、レビュー数を短期間で10→180件に増やし、平均評価も4.5から4.7に上げた手法を紹介。
- アプリ内で“総合満足度”を先に聞く:満足度高いユーザーにはレビュー依頼を出す。満足度低いユーザーにはお問い合わせフォームを案内し、低評価をストアではなく直接受け止める。これが高評価を維持しながらレビュー数を伸ばすコツだと強調。
- ユーザーにとってレビューだけが唯一の意見伝達手段にならないように、問い合わせを気軽に送れる仕組みを用意するのが重要。
「個人開発ではマーケコストがない分、ストア評価で検索順位を上げるしかない」という背景があるだけに、レビュー誘導の設計は大きなインパクトを生むと感じさせられるプレゼンでした。
全体を踏まえた感想「私の“わがまま”が世界とつながる」
今回のLTイベントは、7人7様の個人開発ストーリーがギュッと詰まった時間となりました。各登壇者の共通点として、「技術の実験と、自分や周囲の“ちょっとした悩み”に寄り添う」という姿勢が挙げられます。
- 自分が使わないサービスをあえて作る――発想の着火点は“人の行動への違和感”や“うらやましさ”。
- 速くて安いウェブサイトを追求――費用ゼロ円で高速表示は、小規模ならではの設計自由度をフルに活用。
- 広告収益やサブスク収益を最大化――コンバージョンUPのUI微調整は、驚くほど効果が出る。
- レビュー低評価を防ぐ――“お問い合わせフォーム”で開発者に直訴できるチャンネルを設ける一手で、評価維持とユーザー満足を両立。
- エンジニアリングをフルに活かす――機械学習を乗せてみたりDBをリプレイスしたりなど、腕試しや技術検証の場としても個人開発は最適。
まさに「個人開発は、エゴかもしれないけどそれでいい」。
今回の発表者たちを見ていると、そこにこそ醍醐味があると改めて感じます。自分が心底盛り上がれるアイデアや技術的挑戦を打ち出し、いざ出してみると思いもよらないフィードバックが返ってくる。
「私の“わがまま”が誰かに刺さり、世界の片隅で役立ってくれる」。
そう気づかせてくれる個人開発の楽しさを、7人のエンジニアが全力で証明してくれたイベントでした。