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ひとりユニコーンは無理ゲー!?Vibe Codingで見えたヒトとAIの限界
こんにちは、toitechです。
私が経営する(株)ヤードでは、主にデータエンジニアリング領域で、複数企業で技術顧問や開発支援をしています。
最近、これらの業務(データパイプライン、SQL、Terraformなどでの開発)ではClineでコードを書くことが多く、AI駆動開発に関するご相談を受けることも多々あります。
いっぽうで、(データエンジニアリングに比べると私の経験が浅い)典型的なWebアプリケーション開発でのVibe Codingは経験がなかったため、以下の弊社の新サービスのLPをAIで制作してみました。
今回は、ペライチなWebページをVibe Codingで作って感じたAI駆動開発のリアルな姿と、そこから見えてくる「エンジニアとAIの共存」について、率直な意見を述べてみたいと思います。
「AIの台頭でエンジニアが失業する」という極端な意見が飛び交う中で、現時点でどの程度リアリティがあるのかについても整理してみたいと思います。
Vibe Coding で LP を作ってみると...
今回開発したLPは、Next.jsとMUIを技術スタックに採用し、Cline(Gemini 2.5)でコードを生成しました。
プロンプトの内容は割愛しますが、最終的にLPが完成するまでに要した時間は約3時間でした。
AIが生成したコードは、すぐに「70点」くらいの出来栄えになりましたが、
レスポンシブデザインの調整
コンポーネントの共通化
訴求メッセージの推敲・画像生成
といった細かいチューニングにかなりの時間を要し、最終形に持っていくためには、やはり自分で直接コードを修正する作業が不可欠でした。
もしAIの力を借りずにゼロからLPを制作していたら、おそらく3倍以上の時間がかかっていたでしょう。この点においては、AIによる劇的な時間短縮は間違いありません。
ただ、体感として「Vibe Coding」は、自力でコードを書くよりも単位時間あたりの疲労度が約1.5倍に感じられました。
AIが生成した文章やコードを正確に理解し、意図通りに修正するには、それなりの集中力が必要になります。
LP1ページを3時間で作れたのは時短ではありますが、経営者視点で見ると、「地味に時間を使ったな」という感覚も残ったのが正直なところです。
AI駆動開発が一般化しても開発費はそこそこかかる説
さて、エンジニアの素養がない人でもVibe Codingで爆速でシステム開発できるという言説がもてはやされていますが、今回の経験から少々過大評価かなとも思いました。
エンジニアとして10年強の経験を持つ私が、AIの力を借りてもそれなりのLPを作るのに3時間かかった事実を踏まえると、AIなしの場合と比較して開発費用が1/3程度に圧縮されるのが現実的なラインではないでしょうか。(もちろん、自分にAI開発のスキルが上がれば、もう少し時短できる余地はあると思います。)
これを大きいと捉えるか小さいと捉えるかは立場によって異なります。1,000万円規模の開発費が300万円になるのは確かに喜ばしいですが、「AIによってエンジニアが不要になる」という極端な期待値に対しては、そこまでではないと感じます。
私の実感では、AIを使うことで生産性は3倍程度になるというのが妥当なラインです。これはつまり、これまで10人必要だったエンジニアが3人で済むようになる、という世界線は十分にあり得ることを意味します。
AI時代のエンジニアキャリア
これらを踏まえて、AI時代のエンジニアキャリアがどうなるかについて考えてみます。
まず、「エンジニアが全員AIに置き換えられる」かというと、そこには懐疑的です。
海外のビッグテック企業が大規模なレイオフを実施しているというニュースはセンセーショナルですが、これはエンジニアが極めて多い大企業で起きている話であり、数十人規模の中小企業にそのまま当てはまるものではありません。
しかし、AIの進化は、エンジニアのキャリアに間違いなく変化をもたらします。私が考える、エンジニアにとってのキャリアの脅威となる要素は以下の3つです。
エンジニアの単価は下がる
生産性が向上し、より少ない人数で開発が可能になることで、市場全体のエンジニアの単価が下落する可能性があります。
できる人にタスク・案件が集中する
AIを使いこなし、高い生産性を発揮できるエンジニアに仕事が集中し、そうでないエンジニアとの格差が広がる可能性があります。
若手はエンジニアとしての経験を積みにくくなる
AIが簡単なコード生成や定型的な作業を代替することで、若手エンジニアが自力で試行錯誤し、経験を積む機会が減少する可能性があります。
ひとりユニコーンは無理ゲー!?
また、別の切り口として「フルスタックエンジニアが一人で万能なプロダクトを作れるのか?」という疑問も湧いてきます。
以前、OpenAIのサム・アルトマン氏が「ひとりユニコーン」の出現を予言しました。
論理的には可能でしょうし、実際にそういった稀有な人材が現れる可能性も否定できません。
しかし、それは野球で言うと大谷翔平のような「二刀流」が現れるような極めて希少な存在になるのではないでしょうか。
言うまでもなく、そもそも単なるユニコーン企業ですら非常に希少な存在です。その中で、一人ないしはごく少人数で成立している組織がマジョリティになるかといえば、それは違うと思います。
また、ソロプレナーという言葉もありますが、あまり自分にはしっくりこないスタイルに感じます。
下手にフルスタックにあらゆる領域に手を出すよりも、それぞれの得意な人に任せた方が、質の高いものが作れると私は考えています。
少なくとも私自身は、自分の能力を客観的にみて、それらを目指すべきではないと思っています。
そのため、私の経営する会社では、あくまでAIネイティブなチームで開発していく体制を目指しています。
まとめ
AIは、私たちエンジニアにとって強力な「ツール」であり、その生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
しかし、そのツールを手にしたからといって、なんでもできてしまうと考えるのは危険です。
仮に出来たとしても、自分の24時間をAIの対話に奪われてしまうのはもったいないとも思います。
自分が本当に価値のあるクリエイティブな成果を出すために、何をAIに頼み、何をヒトに頼み、何を自分で行うかをバランスよく切り分けることがより一層大事になると思いました。
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