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なぜエンジニアを採用するのか?—選考基準を考える前に見直したい視点
ITエンジニアの採用が難航している、という話をよく聞きます。 特に内製化を目指している企業にとっては、スキルマッチやカルチャーフィット以前に、採用コストの高まりと生成AIによるパラダイムシフトを前に「そもそも何のために社員としてエンジニアを採用するのか」という前提から見直す頃合いがやってきました。。
今回は、採用基準を考える上で大切にしたい観点を、実践的な切り口で整理してみました。
1. そもそも、なぜエンジニアを社員として採用するのか?
「社員として採用する」というのは、言い換えれば“事業がある限り長く付き合っていきたい”“就業規定で定められた定年退職があるその日まで共に働いて欲しい”という意思の表れです。
それなのに、スポットで人手が欲しいだけだったり、案件ごとに業務内容が大きく変わる場合は、外注の方が適していることも少なくありません。
なぜ内製化を目指すのか?
どの業務を、どのような役割で任せたいのか?
その人が仮に定年まで在籍した場合、どんなポジションを描いているのか?
これらの問いに明確な答えを持っていないと、採用基準も曖昧になり、結果として「なんとなく良さそうだったから」で採用してしまうリスクが高まります。
2. 求めるスキルを具体的に言語化する
採用要件を考えるとき、スキルセットは最も分かりやすい基準です。 とはいえ、「○○経験3年以上」だけでは、現場が本当に求めている人材像は見えてきません。
ハードスキル(技術)
実際にスカウト媒体で検索するときをイメージしながら、次のような観点で整理してみるのがおすすめです。
利用してきたプログラミング言語、フレームワーク、クラウドやDBなどのインフラ技術
「必須」ではなく、「この経験があればキャッチアップ可能」と思える類似技術の列挙
技術スタックの背景にある思想やアーキテクチャへの理解
たとえば「Ruby on Railsの実務経験者が欲しい」場合でも、「Web API開発経験がありMVCアーキテクチャに慣れている人」であれば、早期キャッチアップが期待できることも多いはずです。
情シス採用における実績も同様です。一意のソリューションについての経験がなくても、類似のものの導入経験があれば、少々のキャッチアップで立ち上がることは多いです。
経験年数は目安としてよく使われる基準ですが、地頭とセンスがよくて1年で立ち上がる人も居れば、10年が経過してもパフォーマンスが芳しくない人も居ます。書類や面接で判断する基準としては下記のようなものが一例として挙げられるでしょう。
ジュニア層:誰かのサポートを受けながらタスクを遂行できる
ミドル層:オンボーディング後は自走し、ジュニア層のサポートもできる
シニア層:チームやプロジェクト全体を見渡し、設計やレビューでリードできる
また、現場が採用に協力する際には、「今、何の技術を使っているのか」「どの領域で強化が必要なのか」を可視化しておくことが大切です。 意外と「うちのスタック、何だっけ?」と曖昧なまま面接に臨むケースもあり、候補者の質問に明確に答えられないと、信頼を失う原因にもなります。
現場と人事が連携して技術スタックの棚卸しを行い、採用基準や求人票に落とし込むことが、スムーズな採用活動につながります。
ソフトスキル(非技術的能力)
面接では、業務遂行能力だけでなく、チーム内での立ち回りや学習姿勢も見極める必要があります。 その際に有効なのが「構造化面接」です。
過去の経験をもとに、「困難な状況でどう行動したか」「チームでの対立をどう解決したか」などを問う
「なぜその行動を取ったのか?」という深掘りで、思考プロセスを確認する
たとえば、以下のような質問が有効です:
「今までで最も困難だったプロジェクトは? その中であなたが取った行動と結果を教えてください」
「納期が厳しい中で品質とスピードをどう両立させたか、実体験に基づいて教えてください」
「周囲のメンバーと意見が食い違った際、どのように折り合いをつけたか?」
こうした問いかけによって、問題解決力や対人スキル、状況判断能力などを多角的に把握することができます。
3. これからの時代に求められる資質
エンジニアの評価軸は、ハードスキルとソフトスキルにとどまりません。 これからの採用で見ておきたい視点をふたつ紹介します。
対外性とリファラルの可能性
人材紹介会社の紹介フィーが45%が下限となりつつあります。また、数あるスカウト媒体についても採用企業の知名度がないと費用対効果は低くなっています。そこで注目されるのが採用経路としてのリファラル採用です。が存在感を増している今、エンジニアが社外に対してどんな接点を持っているかは、実は非常に重要です。
技術コミュニティへの参加や登壇
SNSやブログなどでの情報発信
知人・友人とのつながり(今後のリファラル採用につながる可能性も)
企業の中に“つながりを持った人”がいることで、採用が進むことは少なくありません。
生成AIとの付き合い方
ChatGPTなど生成AIの登場により、プログラミングスキルの在り方も変わりつつあります。
「自分で書けるか」よりも「AIに書かせてチェック・調整できるか」というプロデューサー的な視点
シニア人材ほど「自分で書いた方が早い」とAI導入を拒みがちだが、それでは中長期的な生産性向上が難しい
特に、コード生成ツールやCopilotなどの活用状況を聞いてみると、その人のアップデート意識が見えてくることがあります。
実際、開発現場では「AIに任せて良い部分」と「人間が判断すべき部分」の境界をどこに引くかが議論になっています。 候補者がAIツールをどのように活用しているかを聞くことで、単なるトレンド追従ではなく、思考の柔軟さや技術選定の観点を見極めるヒントになります。
今後は「生成AIとの向き合い方」そのものが、採用基準のひとつとして定着していくかもしれません。
4. 違和感は無視しない
どれだけスキルがマッチしていても、「なんとなく違和感がある」という印象を持ったことはありませんか?
この“違和感”こそ、選考において非常に重要なシグナルです。 面接は構造化して客観性を高めるべきですが、それでも面接官の直感や経験則は無視できません。
入社後にトラブルメーカーになる
組織にフィットしない(いわゆる「ブリリアントジャーク」)
営業職での架空計上や情報漏洩など、過去の不適切行為が後から明らかになる
私も何度もこうしたケースに遭遇していますが、その当時の選考を面接官を集めて振り返ると、「なんとなくの違和感」があったという傾向があります。この違和感はAIで模倣することは難しいでしょう。
面接官がひとりでも違和感を抱いたなら、採用を一度立ち止まる勇気が必要です。他の人が手放しで高評価をしていても、止める意思決定が必要です。恐らく合っています。
おわりに
採用とは、「一緒に働く仲間を見つけること」。 選考基準の整備も大切ですが、最終的には「この人と働きたいか?」という気持ちが、すべての判断の土台になると思います。
また、採用活動を丁寧に設計していくと、副産物として「自社の強み・弱みが見える化される」という効果もあります。 候補者に説明するために自社の技術スタックや働き方、キャリアパスを言語化していくプロセスは、採用だけでなく、既存社員のエンゲージメント向上や育成計画の見直しにもつながっていきます。
採用活動のなかで、自社にとっての“本当に必要な人材像”を改めて見つめ直してみてはいかがでしょうか?
久松 剛
IT開発組織づくりの水先案内人、採用・定着・活躍・評価・再構築を伴走型支援/博士(慶應SFC、IT)/合同会社エンジニアリングマネージメント社長兼レンタルEM/サポーターズ エバンジェリスト/アカリク顧問/STARMINE顧問/ウィルオブテック顧問/R.N.宇宙思考士/ Amazonアソシエイト参加/香川出身
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